PROJECT STORY プロジェクトストーリー #2

広島市災害廃棄物
処理業務

2014年8月19日、広島市における記録的な集中豪雨により、安佐地区は土砂崩れによる甚大な被害を受けた。
土石流によって発生した災害廃棄物の総量は約58.4万トン。
市内に9箇所ある一次仮置場はまたたく間に溢れかえった。
災害廃棄物をすばやく運搬し、新たに建設した中間処理施設でリサイクル資源へと生まれ変わらせる。
一日も早い復興の実現のため、鴻池組の技術力と結束力が試されるプロジェクトが立ち上がった。

PROJECT MEMBER

近藤 廉正

営業部門 1986年入社 近藤 廉正 Kondo
Rensei

現大阪本店土木営業部所属。
災害当時は広島支店に所属し、当プロジェクトの窓口および社内外の橋渡しとして大きな役割を担った。

安達 忍

施工部門 1992年入社 安達 忍 Adachi
Shinobu

現東北支店土木部工事事務所所属。
東日本大震災の被災地における災害廃棄物処理の経験を活かし、現場の副所長として200人を越える現場の総合管理を行った。

岸本 健三郎

施工部門 2004年入社 岸本 健三郎 Kishimoto
Kenzaburo

現大阪本店土木部工事事務所所属。
鉄道や高速道路など、土木工事における豊富な経験をもとに、工事主任として施工部門を取りまとめた。

花木 陽人

技術部門 2015年入社 花木 陽人 Hanaki
Akito

現本社環境エンジニアリング部所属。
入社後初の現場として当プロジェクトに配属され、地域の方々への説明会や技術的実績を集約し論文発表を行うなど、若手ながら数々の経験を積んだ。

INTERVIEW

SECTION 01 東北のノウハウを広島へ。
社内外の枠を越えたプロジェクトチームの結成。

SECTION 01

「あらゆる廃棄物が土砂に飲み込まれていた。」

  • 近藤 廉正

    災害が起きた当時、私は広島支店で営業部長をしていたんですが、土砂崩れが起きる前日から大雨で、会社から寮への帰り道が冠水していてびしょ濡れになって帰ったことを今もはっきりと覚えています。

  • 花木 陽人

    私はその頃はまだ入社したばかりで、実はこの時点では自分が関わるとは思っていなかったんです。ただ、メディアや報道で被災の様子を見て、大変な事態になっていると感じていました。

  • 近藤 廉正

    その後、はじめて現場を訪ねたときは、大規模な土砂崩れで木々や家屋、あらゆる廃棄物が土砂に飲み込まれている悲惨な状況でしたね。しばらくして、市内の9箇所の仮置き場に運ばれていた廃棄物を処理するための中間処理施設建設が必要になり、広島市が公告を出したことがこのプロジェクトのはじまりでした。

  • 花木 陽人

    受注に向けた提案では、環境エンジニアリング部のメンバーと近藤さんが現地を視察した上で計画をまとめられたと聞きました。鴻池組の提案としては、どういったことを強みとして打ち出したのですか?

  • 近藤 廉正

    東日本大震災での実績が一番の強みになりましたね。津波災害による瓦礫処理を行ったノウハウがありましたので。また、廃棄物に木くずが多く混入していることや、受注後に突貫で処理施設の建設を行うことなども踏まえて各分野に精通した企業で共同企業体を組織できたことも大きかったですね。建設部門を担う会社、運搬する会社、木くずなどを処理できる会社、リサイクルができる会社など、適材適所を考えながら環境エンジニアリング部や土木部とも相談しながらベストな組み合わせを提案したことが受注の要因だと思っています。

「工期短縮のため、設計と施工を同時に進めていくことがテーマだった。」

  • 安達 忍

    営業の近藤さんと花木くんが所属する環境エンジニアリング部が中心となって受注した後、バトンを受け取るかたちで、東日本大震災での廃棄物処理を経験した私と、現場での経験が豊富な岸本くんなどで中間処理施設の建設と運用を担当することになりました。

  • 岸本 健三郎

    安達さんは東北での経験もあり、災害廃棄処理のプロフェッショナルですが、私にとってははじめての経験。どちらかというとこれまでは鉄道や高速道路の建設がメインで、環境事業とは関わりがありませんでしたので、担当が決まったときはいつもとは少し違った緊張感を覚えましたね。

  • 安達 忍

    災害廃棄物の一次仮置場は公園やグランドといった公共の場所なので、一刻も早く元通りの姿に戻すことが要求されました。そのため、普段ならば設計が完了してから施工に入るところを、工期短縮のために設計と施工を同時に進めていくことが今回の大きなテーマでした。これまでとは違うスキルや視点が求められるので、最初は大変なことも多かったでしょう?

  • 岸本 健三郎

    職員と作業員を合わせて総勢200名以上という規模の現場を管理するのも初めてで、施工進捗と安全の管理に苦労しました。また工期についてもスピードが求められ、さらに一次仮置場は市内に9箇所に分かれていました。ハードルはこれまで経験したことのないほど多くありましたね。

  • 近藤 廉正

    営業としても、設計と施工を並行しながら滞りなく進捗できるようにと、施工に必要な許認可の取得のために現場と役所を何度も何度も往復しましたね。

  • 岸本 健三郎

    現場では毎日とにかく必死でしたね。設計からあがってきた図面が現地の状況とあっていないこともありましたし、逆に現場の状況をフィードバックして最終的に図面を作り上げたり、通常の手法では考えられないやり方で進めていく感じでした。

  • 近藤 廉正

    確か施工を開始したのが12月で、試験稼働まで残された工期は2ヵ月というタイトなスケジュールで、いつも以上に各部門が密に連携をとって、いかにスムーズに工事を進めていくかが勝負だったね。

  • 岸本 健三郎

    現場の中心に安達さんが立ち、役所への報告や折衝は近藤さんが担当されて、私はその下で現場での安全管理、各現場の進捗状況の管理を行っていました。日々変化する現場に合わせて、人員計画や重機計画も含めて判断し、それを安達さんに逐一相談しながら管理するように心がけていました。

  • 安達 忍

    岸本くんは災害廃棄物の現場での経験こそなかったけど、土木の現場のプロフェッショナルとしての経験に期待していたからね。我々とは違う一歩引いた立場でのフォローというかイレギュラーな現場だから、取り入れられる意見は積極的に取り入れて、とにかく密に連携を取ることを意識していたね。

SECTION 02 トラブルと対峙する毎日。
その先に目指した、リサイクル率への挑戦。

SECTION 02

「現場でのイレギュラーに対応するため、鴻池組の技術を結集した。」

  • 花木 陽人

    もう一つ大きなテーマといえば、廃棄物のリサイクル率でしたね。事前に環境エンジニアリング部の方でも土砂の土質や強度などを分析して、埋め立て利用できるかどうか、どれぐらいゴミを取り除けば基準をクリアできるのかなども試験を行っていたと聞きましたが、やはりサンプルと実際のギャップ、そこが課題でしたか。

  • 安達 忍

    そうですね。データ分析とはいっても、膨大な量の土砂のごくひとつまみに過ぎないので、想定しないものが混じっていたり、土の質が異なっていたり、実際に現場とデータでは異なるケースもたくさんありました。また今回の被災現場は、花崗(かこう)岩が風化してできた「まさ土」と呼ばれる地質が広がり、土砂に多くの石が含まれていたので、大きな岩が機械に挟まって故障しないようにするなど、風力を使ったり、磁力を使ったり、工程には色々な工夫を施しました。

  • 近藤 廉正

    あとはボロボロになった土のうの繊維が土に混じっていたのも課題でしたよね。ただし、それを分別しなければ埋立基準をクリアできない。ここでは言い尽くせないほどの苦労があったと私も聞いています。

  • 安達 忍

    トラブルは色々ありましたが、安定して処理を進めるために、なるべく機械的に対応できる仕組みを採用しました。特殊な機械をこの現場のために作るのではなく、汎用性の高い機械を組み合わせて最適化していく。それによってイレギュラーな状況変化に対しても、少しの改良で対応できるという特長がありました。東日本大震災の現場や汚染土壌の浄化事業などで鴻池組がこれまで培ってきた技術を、うまく応用できた結果だと思いますね。

  • 岸本 健三郎

    廃棄物処理の現場は特異性が高いので、これという公式はありませんし、リサイクルに関してもやってみないと数字は見えてこないということが今回身を持って感じたことですね。最終的に高いリサイクル率を実現できたのは、一人ひとりが使命感を持って、妥協せずにより良い方法を追求し続けた成果かなと思います。

  • 近藤 廉正

    要因は色々あると思いますが、まずは安達さんはじめ施工部門の豊富な実績やノウハウがあったこと。そしてもう一つは、専門性の高い環境エンジニアリング部が組織内にあるということ。そして忘れてはいけないのが、社内だけでなく、共同企業体の各社がそれぞれの専門性を高く発揮し、役割を分担しながら連携できたこと。そして最後に、発注者である広島市や地元との密なコミュニケーションを図れたことだと思います。まさに技術力とチーム力の賜物と言えるのではないでしょうか。

「一切の妥協も許さず、職員も作業員も発注者も、みんなが一丸となれた。」

  • 花木 陽人

    当時、私もその様子を現場で見ていたんですが、職員も作業員もそれぞれがうまく連携をとって、コミュニケーションをとって、日々の作業を進められているのが印象的でしたね。立場に関わらず、そこにいる人みんなが心をひとつに、ゴールに向かって進んでいくことが重要だと感じましたし、また私たちにはそれを一つにまとめるという役割があることを改めて実感しました。

  • 安達 忍

    確かに、どれか一つが欠けていても達成できなかったでしょうね。目標の98.6%に対して、今回、それを上回る99.8%を達成できたわけですが、現場にいる私たちとしては、数字はあくまでも後から付いてくるものという意識で、数字を見据えて作業を進めているわけではありません。とにかく職員も作業員も発注者も含めて分け隔てなく、みんなが一丸となって、いろんな課題に一緒に知恵を出し合いながら取り組んだ結果が、この数字にあらわれたんでしょう。

  • 岸本 健三郎

    私も同じ思いですね、管理する側も現場にいる人も、みんな目指しているのは98.6%でも99.8%でもなくて、100%を目指しています。何十トンもの土砂の中に、ほんの小さなゴミが混じっていても、それを見逃さず、一切の妥協を許さずにより良い方法が無いかを考えて、改良に改良を重ねた結果がこの最終的な数値に結びついたと思います。当時はとにかく大変でしたが報われて本当に良かったです。(笑)

  • 花木 陽人

    現場の状況に合わせて、そのときベストな答えを妥協なく追求し続けるというこの姿勢が、鴻池組のノウハウとなって、今日につながっているんだということが、先輩の皆さんのこの話を聞いてよく分かりました。

SECTION 03 プロジェクトの成功が
地元貢献、復興に向けた一歩につながった。

SECTION 03

「良い仕事をしてくれてありがとう。そのひとことが何よりも嬉しくて。」

  • 花木 陽人

    わずか3ヵ月という短い期間でしたが、このプロジェクトを通して本当に色々なことを経験させていただきました。まだ学生感覚だった私にとって環境といえば緑化や水質浄化といったイメージしかありませんでした。この現場で外部への説明資料や小学生向けパンフレットの作成のほか、瓦礫の中に埋もれた市民の思い出の品を手作業で回収し、市民の皆さんに返却するための整理作業なども担当したことで、土木や環境といった枠組みを越えて「人のために役立つ仕事」について考える貴重な機会になりました。

  • 安達 忍

    今回は花木くんが担当した思い出の品の件も含めて、手選別での分別作業も多く発生する現場でした。100人規模の人員が必要でしたので、復興支援につなげようと多くの地元の人を採用したんですが、現場を取り仕切る岸本くんには、いろいろと苦労があったんじゃないかと思います。

  • 岸本 健三郎

    これまで建設業に携わったことのない方も多くいましたので、安全面の確保は想像以上に苦労がありましたね。私たちが予想もしないところに作業員さんがいたり、危険な場所にいたりと心配で夜も眠れないほどでしたよ。

  • 近藤 廉正

    今回の現場は復興支援のために作業員さんはもちろん、弁当屋さんもクリーニング屋さんも、すべて地元業者に協力してもらうという技術提案にしていましたから、その後の現場のフォローは大変な苦労があったと思います。ただそれをクリアしてくれたことで、最終的に工期やリサイクル率だけにとどまらない、復興に向けた第一歩にもつながるプロジェクトになりましたし、発注者である広島市の担当者からも「良い仕事をしてくれてありがとう」という何よりうれしいひとことをいただくことができました。

「鴻池組の技術や精神を、社会的財産として発信していく。」

  • 近藤 廉正

    元をたどれば、私もトンネルや橋など、大きなモノづくりがしたくてこの会社に入りました。災害支援事業は、何かモノをつくるのが目的ではありません。ただ、困っている人のために、地域や社会のために、直接お役に立つことができる。このプロジェクトに参加したおかげで、私自身もこれまでとは違うゼネコンの存在意義を改めて実感しました。

  • 安達 忍

    私もこれで災害廃棄物を取り扱う現場は4件目になりますが、最初の頃は「私の本来の仕事はなんなんだろう」という戸惑いも正直少しはあったんです。ただ被災者の方々の声や感情をストレートに感じるうちに、これは素晴らしいことなんだと強く思うようになりました。私たちの積み上げた技術や経験によって、その地域の復興に向けた歩みに、少しでも貢献できればという思いは日に日に大きくなっています。

  • 岸本 健三郎

    今回はじめての経験でしたが、携わってみて、こういう貢献のカタチもあるんだなと気付かされたというのが率直な感想です。普段、土木の仕事ではなかなか一般の方から感謝の言葉をいただく機会は少ないですが、「ありがとう」という言葉を現場でかけていただくことも多く、また気持ちも新たに、この仕事に誇りを持てる良いきっかけにもなりました。

  • 花木 陽人

    地球規模で気象状況が大きく変化する中で、こういった大規模災害は起こる可能性が高くなりつつあります。その時に役に立てる人材でありたいと思います。また、このような実績によって手に入れたノウハウは、社会的な財産にもなると思います。映像や論文に記録して、発信することで、社会全体に広めていくことも大切な意義ですし、それを通して、鴻池組の優れた技術やスピリットを広めていくことに貢献できればと思っています。

  • 一同

    技術によって人の人生やを支えたり、世の中に広く役に立ちたいという志のある人に、ぜひ鴻池組の一員として加わってほしいものですね。