技術広報誌ET

技術広報誌ET 2022年発刊号

大規模土工におけるICTの活用

505号(2022年4月1日) 度会ソーラーパーク 名古屋支店 工事事務所 井ノ崎 郁弥

はじめに

宮リバー度会(わたらい)ソーラーパークは、三重県度会郡度会町に建設される県内最大規模の太陽光発電所です(写真-1)。南北方向に1.5km、東西方向に1.8km、造成面積97haの事業用地に、発電容量71.9MWとなる太陽光パネルを設置し、年間で一般家庭約2万6900世帯分の消費電力に相当する約8万MWhを発電する事業計画となっています。
当工事は、掘削土量590万㎥におよぶ切盛土工、太陽光パネルを設置するための平地および勾配10~25度の緩斜面の造成、事業用地内に降った雨を安全に河川へ放流するための8箇所の調整池の整備、また、運用開始後に維持管理を行うための管理用道路を整備するものです。
ここでは、大規模土工におけるICTを活用した生産性向上の取り組みについて紹介します。

写真-1 現場全景(2021.12撮影)

写真-1 現場全景(2021.12撮影)

3次元データの活用

当現場は非常に広大で、工事着手前は樹木に覆われた森林が広がり、車が通れる道はなく、歩く道もけもの道のような状態でした。現場の地形を事前に把握する必要がありましたが、従来のレベルと光波測距儀による縦横断測量ではかなりの手間と時間を要することが予想されました。そこで、UAV搭載レーザースキャナを用いて、3次元起工測量を実施しました。現場上空に飛行させたUAVからレーザー光を照射し、地表面や構造物に当たって反射したレーザー光を計測することで現場形状を測定することができます。樹木などの植生がある場合でも、レーザー光が地表面まで届けば、地表面の高さを計測できるため、伐採前でも現場地形を把握することが可能です。計測結果から、X,Y,Z座標の情報を持った現場地形の点群データを作成しました。また、当初は2次元の設計図面がありましたが、より精度の高い土量計算やICT施工を行うために現場全体の3次元設計データを作成しました。これらの3次元データを活用して、土量管理や日々の測量業務の効率化を図りました(図-1)。

図-1 3次元データの活用(土量管理)

図-1 3次元データの活用(土量管理)

RTK-GNSS測量による測量の効率化

工事測量を行う際、通常は現場外周の道路上に設置された基準点の座標を基に仮の基準点を設置して現場内の測量を行いますが、測量機器の据替え回数が多くなると累積誤差が大きくなることや、現場形状がすぐ変わるため仮の基準点の管理が困難となることが課題でした。そこで、人工衛星からの測位情報を基に自己位置を決定できるRTK-GNSS測量を採用しました(図-2)。GNSS測量は、天候や昼夜の時間帯に左右されず、測定する2点間の見通しがきかない場合でも、長距離を高精度で測量することができます。当現場では、固定局となる受信機を設置し、計測された補正情報を移動局へリアルタイムに送信するRTK(Real Time Kinematic)方式としました。これにより、現場内の全ての場所でリアルタイムに位置精度±2.0cm以内で測量することが可能となり、測量業務を大幅に効率化することができました。

図-2 RTK-GNSS測量の概要

図-2 RTK-GNSS測量の概要

ICT土工による効率化

重機土工では、従来は丁張などの目印を設置して施工しますが、丁張の設置数が非常に多く、測量に労力を要することが想定されました。そのため、当現場ではICTバックホウ(写真-2)とICTブルドーザ(写真-3)を導入して、マシンコントロールによる施工を行いました。ICT建機に3次元設計データを入力することで、バックホウのバケット刃先の位置やブルドーザのブレードの高さが設計面に対してどの位置にあるか把握できるため、設計面を過掘りすることなく法面整形や整地をすることが可能となります。これにより、丁張の設置数を削減し、重機土工の効率化、品質・安全の向上を図ることができました。

写真-2  ICTバックホウによる法面整形

写真-2 ICTバックホウによる法面整形

写真-3 ICTブルドーザによる緩斜面整地

写真-3 ICTブルドーザによる緩斜面整地

UAV測量による土量管理

施工中の土工事の進捗および土量変化率を把握するために、定期的にUAVによる空中写真測量を実施しました。当工事では、UAVの自己位置を推定するために必要であった対空標識を大幅に削減できるPPK(Post Processing Kinematic)方式を採用しました。PPK方式は、全国の電子基準点の測位データを元に算出される仮想基準点情報(VRS)を用いた干渉測位を後処理で行うことができるため、現場内に固定局を設置することなく高精度に機体の位置情報を決定できる特徴があります(図-3)。これにより、大規模土工現場にけるUAV測量の課題の1つであった対空標識の設置手間を大幅に削減でき、±5.0cm以内の高い精度で測量することが可能となりました。測量結果を基に、エリア毎の切盛土量の算出や土量変化率の把握、オルソ画像による情報共有、最終の土量バランスの調整を行いました(図-4)。

図-3 PPKを活用したUAV測量の流れ

図-3 PPKを活用したUAV測量の流れ

図-4 UAV測量による現場管理の効率化

図-4 UAV測量による現場管理の効率化

BIM/CIMの活用

当初の2次元の設計図面だけでは完成イメージが分かりにくかったため、現場全体のBIM/CIMモデルを作成して、イメージの共有を図りました(図-5)。工事着手前、施工中、完成時を見える化することで、発注者や関係業者との情報共有を円滑にし、地域住民への説明資料に用いるなど、合意形成のためのツールとしても活用しました。
BIM/CIMモデルは出来形計測にも活用しました。8箇所の調整池について、貯水前の調整池形状をRTK-GNSS測量を用いて変化点における出来形計測を行い(写真-4)、得られた座標を基に各調整池の実測値で3次元モデルを作成し、貯水容量、堆砂容量の算出を行いました。これにより、一人で調整池の出来形計測を行うことが可能となり、省力化、省人化することができました。また、3次元モデルを活用することで、複雑な形状でも、高い精度で容量を算出できました。

図-5 工事進捗の見える化

図-5 工事進捗の見える化

写真-4 発注者立会いによる出来形確認

写真-4 発注者立会いによる出来形確認

図-6 1号調整池の3次元モデル

図-6 1号調整池の3次元モデル

おわりに

当工事では、測量・設計・施工・検査のあらゆる場面でICTを導入し、現場の生産性向上を図りました。測量では、UAVやRTK-GNSSを用いることで測量業務を省力化することができ、3次元の設計データと点群データを比較することで容易に土量を把握することが可能となりました。施工では、ICT建機を用いることで工程の短縮、品質の向上、安全の確保など効率的に施工を進めることができました。
国土交通省では、ICTの対象工種の拡大や小規模工事での適用を検討しており、今後、様々な現場でICTが活用されると考えられます。また、BIM/CIMについても、2023年までに小規模工事を除くすべての公共事業に原則適用されるため、建設現場に3次元データは欠かせないものとなり、さらなる生産性向上が期待できます。
今回紹介したICT施工事例が魅力ある建設現場実現の一助となれば幸いです。

工事概要

工事名称 宮リバー度会ソーラーパーク発電所建設工事
工事場所 三重県度会郡度会町上久具
発注者 (株)九電工
施工者 (株)鴻池組
工期 2019年2月~2022年5月
工事内容 伐採工   97.7ha
切盛土工  590万㎥
 うち、中硬岩120万㎥
調整池工  8箇所
緑化工事  5.6ha
法面植生工 9.2ha
雨水排水工 一式(約40km)

505号(2022年4月1日)の記事

技術広報誌ETトップへ
技術に関するお問い合わせ
お問い合わせフォームへ