技術広報誌ET

技術広報誌ET 2021年発刊号

長大インバート桟橋でトンネル工事を効率化

502号(2021年7月1日) NEXCO長崎トンネル 九州支店 工事事務所 赤塚 祐介 / 大阪本店 機材センター 乾 洋介

はじめに

当工事は、長崎自動車道4車線化事業(延長11.3km)の内、長崎IC~長崎芒塚IC区間約3.1kmを4車線化するトンネル主体(トンネル延長L=2,641m)の工事です(写真-1)。4車線化により、通行車両の安全性・走行性が向上するほか、防災面では、地域間の連携強化に重要な役割を果たし、観光や流通の面では、地域の活性化や利便性の向上を図ることができます。
ここでは、長大トンネルである長崎トンネル工事において実施した、施工の効率化を図るための創意工夫について紹介します。

工事位置

写真-1 工事位置

インバートコンクリートの省力化と品質向上

当工事の掘削対象の地山は、大部分が膨潤性のある凝灰角礫岩で構成されていました。将来的な盤ぶくれなどによるトンネルの変状が懸念されるため、全線に亘りインバートコンクリートを施工する必要がありました。工程を遵守するために、トンネルの掘削作業とインバートの施工を並行して進める必要があり、インバート桟橋を使用する計画でした。
標準型のインバート桟橋は、1ブロック(10.5m)施工するごとに移動が必要で、コンクリート打設時は桟橋をトンネルの片側に寄せて工事用車両を通行させ、もう一方の空間にブーム付ポンプ車を設置し、半断面ずつ打設します。この作業では、桟橋の横移動とポンプ車の配置替えをする時間が必要となるほか、桟橋移動時には、掘削ズリを搬出するダンプトラックや吹付コンクリート運搬用のミキサー車等の工事用車両が通行できなくなり、掘削作業の遅れを生じます。
これらの課題を解決するため、2ブロック(10.5m×2=21m)分の施工が可能な長大インバート桟橋(図-1)を採用し、その桟橋底部にディストリビューターを導入しました(写真-2)。長大インバート桟橋にすることで、十分な養生期間を確保した上で、2ブロック連続施工が可能となりました。ディストリビューターは、配管の継手部が回転することで圧送管の吐出口をインバート全面に行き渡らせることができます。吐出口の移動は、リモコン操作で行うため、打設作業を少人数で行うことができます。また、ミキサー車から直接コンクリートを供給するため、ポンプ車を使用する必要がありません。これらの工夫により、掘削作業を止めずに1ブロックのインバートを全断面で施工することが可能となり、省力化および品質向上、さらに工期短縮にも繋げることができました(写真-3)。

ディストリビューター

写真-2 ディストリビューター

インバートコンクリート打設状況

写真-3 インバートコンクリート打設状況

長大インバート桟橋概要図

図-1 長大インバート桟橋概要図

インバート部の横断排水管を一括施工

横断排水管は防水シート背面の地下水を中央排水管へ導水するための管で、50m毎に設置する計画になっていました。横断排水管はインバートコンクリートに埋設する構造となっています。一般的には、コンクリート打設時に発泡スチロール等で箱抜き(写真-4)をしておき、インバートコンクリートを打設します。養生後に箱抜き材を撤去して横断排水管を設置し、箱抜き部にコンクリートを打設して完了となります。
トンネル延長が長く、横断排水管が110箇所にも及ぶため、通常の方法では多くの手間を要す上に、打継ぎができるため漏水する懸念も生じます。そこで、作業を簡素化するためインバート型枠に横断排水管を固定できる専用金具を考案しました(写真-5左)。横断排水管を型枠に固定してコンクリートを打設することで、箱抜きや再打設が不要となり、インバートコンクリート打設と同時に横断排水管を埋設できます(写真-5右)。専用金具は、簡単に取り外すことができ、繰り返し使用できます。効率化および品質向上を図ることができるとともに、箱抜き材を使用しないため廃棄物の削減にも繋がりました。

発泡スチロールによる箱抜き例

写真-4 発泡スチロールによる箱抜き例

考案した専用金具による横断排水管の施工状況

写真-5 考案した専用金具による横断排水管の施工状況

「ドリルNAVI」による拡幅部移行断面の高精度穿孔

トンネル工事における発破掘削の穿孔精度は、オペレータの技量によって大きく左右されます。特に通常断面から拡幅断面へと移行する断面(以下、移行断面)は穿孔角度が複雑で難しいとされています。現状はオペレータの感覚で発破孔を穿孔するため、掘削不足や余掘りが発生し易く、再発破や吹付コンクリート量の増加が生じ、作業効率の低下や資材のロスにつながり、不経済になります。
そこで、統合せん孔支援システム「ドリルNAVI」(NETIS:KK-160012-A、関連記事ET481号)を応用し、移行断面での高精度穿孔を行いました。
移行断面の施工では、通常断面とは異なる穿孔パターンが必要となります。アーチ状の断面を通常断面から拡幅断面に擦り合わせるように3次元的に拡げていく(図-2)ことから、穿孔位置ごとに、穿孔角度、穿孔長を設定する必要があります。計画した穿孔パターンデータをドリルNAVIへ入力し、その誘導により穿孔することで、余掘りが少なく、ほぼ設計断面に近い移行断面の高精度掘削が可能となり、作業効率が大幅に改善されました(写真-6)。

移行部展開図

図-2 移行部展開図

移行部の穿孔状況

写真-6 移行部の穿孔状況

おわりに

トンネル施工では繰り返し作業が主となるため、1サイクルにおける効率化がトンネル施工全体の効率化に大きく影響します。小さな気付きが大きな成果につながります。今回行った創意工夫を他のトンネル工事でも活用していくとともに、新たな改善や工夫にも挑戦して行きたいと思います。

工事概要

工事名称 長崎自動車道 長崎トンネル工事
工事場所 長崎県長崎市早坂町地先~芒塚町地先
発注者 西日本高速道路(株) 九州支社
施工者 (株)鴻池組
工期 2017年10月~2021年5月
工事内容 ・トンネル工
 掘削工:L=2,641m
 覆工:L=2,624m
 インバート工:L=2,624m
 中央排水工:L=2,641m 坑門工:2基
 非常駐車帯・避難連絡工:3箇所
・残土処理工:約200,000㎥
・PC上部工:橋長=44m
・切盛土工:約13,000㎥
・のり面保護工:1式
・用排水工:1式

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