技術広報誌ET

技術広報誌ET 2021年発刊号

中間断熱工法によるRC打放し壁の施工

502号(2021年7月1日) 中村学園女子中学校・女子高等学校体育館 九州支店 工事事務所 濵地 昌儀

はじめに

学校法人中村学園は、福岡市内において大学、高等学校、中学校および幼稚園を運営する総合学園です。そのうちの中村学園女子中学校・女子高等学校は、創立50周年に当たる2010年に新校舎を建設(当社施工)、今回の工事では同校舎の隣地にある既存体育館を改築することになりました。
改築工事は2期に分けて実施されます。1期工事においては、敷地東側の既存テニスコートおよび駐車場にサブアリーナと部室棟を新築します。その後、2期工事として敷地西側の既存体育館および武道場を解体し、メインアリーナ(図-1)、多目的棟および武道場棟を新築します(図-2)。ここでは、現在施工中のサブアリーナに採用された中間断熱工法(RC壁の中間部に断熱材を配置)による打放し壁の施工について、事前の検討や試験施工を含め紹介します。

メインアリーナ外観パース(提供:日建設計)

図-1 メインアリーナ外観パース(提供:日建設計)

図-2 工事ステップ図(提供:日建設計、一部加工) (拡大)

サブアリーナの概要

1期工事では、図-2のSTEP1に示す通りサブアリーナ(A棟)と隣接する部室棟(B棟)が建設されます。サブアリーナは、耐震壁付きラーメン架構の鉄筋コンクリート造3階建てで、屋根部は鉄骨造となっています。耐震壁である外周壁は内外面とも打放し壁(図-4)で、壁の中間部に断熱材を打ち込む仕様が採用されました(図-3)。また、凹凸のある打放し面には特殊スチロール製化粧型枠(モールドスター)や配向性ストランドボード(OSB)が型枠として用いられています。一般的なRC打放し壁と仕様が異なることから、コンクリートの充填性や断熱材の位置保持等に対する検討が求められ、目地間隔とコンクリート収縮ひび割れの関係についても事前検討が必要となりました。

矩計図(壁部抜粋)

図-3 矩計図(壁部抜粋)

サブアリーナ内観パース(提供:日建設計

図-4 サブアリーナ内観パース(提供:日建設計)

乾燥収縮によるひび割れの事前検討

前述の通り、RC打放し壁には乾燥収縮によるひび割れの発生が予想されました。そのため、設計図書に示されたコンクリートについて、納入予定工場にて試験練りを行い、乾燥収縮試験(無拘束自由収縮)および拘束膨張試験(写真-1)を実施しました。その結果、膨張材による膨張効果は、膨張コンクリートの目標膨張量の目安である150×10-6程度の効果が期待でき、膨張効果を考慮したコンクリートの乾燥収縮率は300~400×10-6程度と推定されました(図-5)。これらの結果に基づいて、必要とされる目地の割付け検討を行いました。

拘束膨張試験

写真-1 拘束膨張試験

拘束膨張試験および乾燥収縮試験結果(推定値)

図-5 拘束膨張試験および乾燥収縮試験結果(推定値)

モックアップによる試験施工

予想される品質や施工上の問題を解決するための試験施工として、現場敷地内にW5,400㎜×D600×H2,800の壁体を模したモックアップを製作しました。壁体は試験目的より3つのゾーン(各1,800㎜幅)に分けられています(図-6)。向かって左が「鉄筋あり」で、鉄筋の納まりおよび鉄筋と採光用小窓やセパレーターとの干渉チェックを行います。向かって右が「鉄筋なし」で、断熱材の強度や目地の仕上がりの確認を目的としています。また、中央部では、上半分のコンクリートを後打ちすることで、垂直および水平打継ぎについて確認します。その他、意匠・施工両面に関する確認事項を表-1に示します。

意匠・施工両面に関する確認事項

表-1 意匠・施工両面に関する確認事項

型枠脱型後のモックアップ

写真-2 型枠脱型後のモックアップ

モックアップ立面図(外部面)

図-6 モックアップ立面図(外部面)

コンクリートの打設は、壁体が断熱材を挟んで2つに分かれていることから、吐出口が2箇所あるホッパーを新たに製作し、サニーホース(L=2,650㎜)を取り付けることで自由落下高さを抑えることとしました(図-7)。試験施工(写真-2)によって、予想された問題点等を確認・解決し、得られた知見を実施工の施工計画に反映しました。

コンクリートの打設方法

図-7 コンクリートの打設方法

サブアリーナにおける打放し壁の施工

前述の通り、サブアリーナ2・3階の外壁は、耐震壁に断熱材(t=30㎜)を挟み込んだ構成のRC打放し壁で、型枠材は外側がOSB型枠、内側がモールドスター型枠となっています。モールドスター型枠は地上でユニット化し、揚重機を用いて建て込みました(写真-3)。断熱材はコンクリート打設による変形や移動を防止するため、木毛セメント板(t=15㎜)と貼り合わせたプレスパネルとし、セパレータで固定する方法を採用しました(写真-4)。
コンクリートは、試験施工時に製作した吐出口が2箇所あるホッパーを用い、プレスパネルの片寄りが生じないように両側から同時に打設しました(写真-5)。また、密実なコンクリートを打設するべく、1日の打設数量が100㎥前後となるように打設工区割りを計画しました。コンクリートの打ち上がり面は一部に気泡がみられたものの、骨材露出等の充填不足やコールドジョイントの発生はなく、良好な状態となりました。

モールドスター型枠の建込み

写真-3 モールドスター型枠の建込み

断熱材の固定状況

写真-4 断熱材の固定状況

コンクリートの打設

写真-5 コンクリートの打設

型枠に用いたOSBの端材活用

打放し壁の表面精度や見栄えを確保するため、型枠材の目違い防止が必要であることから、化粧型枠材として用いたOSB(規格サイズ1,820㎜×910×12)からは多くの端材が発生しました。木質系材料特有の温かみや意匠性に加え、断熱性・遮音性に優れるという特長に目を付け、これらの端材を部室棟の内装に用いました(写真-6)。廃棄物の削減だけに留まらず、部室の住環境向上にも役立っています。

部室棟の壁に貼られたOSB

写真-6 部室棟の壁に貼られたOSB

おわりに

2021年6月末現在、サブアリーナおよび部室棟の工事はほぼ完了し、7月末の部分引き渡しに向けて検査・手直し工程に入りました。引き続き行われる2期工事のメインアリーナにも、今回紹介した中間断熱工法が採用されています。1期工事での経験を活かし、より良い打放しコンクリート壁を構築すべく、準備を進めています。

工事概要

工事名称 中村学園女子中学校・中村学園女子高等学校体育館改築工事及び
既存体育館等解体工事
工事場所 福岡市城南区鳥飼7丁目10番38号
発注 学校法人中村学園
設計・監理 (株)日建設計
施工 (株)鴻池組
工期 2020年7月~2023年5月(全体工期)
用途 体育館(メイン・サブアリーナ、武道場 ほか)
構造・規模 <1期工事:サブアリーナ>
 RC造(一部S造・SRC造) 地上3階
 建築面積717.74㎡
 延床面積998.03㎡
<1期工事:部室棟>
 RC造 地上2階
 建築面積335.68㎡
 延床面積567.60㎡

502号(2021年7月1日)の記事

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