技術広報誌ET

技術広報誌ET 2020年発刊号

高低差の大きな敷地での山留めおよび地下工事

499号(2020年10月1日) 湯島3丁目計画 東京本店 工事事務所 樋口 洋輔 / 建築技術部 松浦 宏樹

はじめに

東京都文京区で施工中の当建物は、合格祈願で有名な湯島天神から南へ200mの場所に位置します。工事着手前の敷地状況(図-1)に示すように、敷地内には南北に横断する既存擁壁と地下構造物(写真-1)が存在し、東と西で約11mもの大きな高低差があります。新築建物は西側の道路レベルを基準に、地下3階、地上14階の店舗・共同住宅となります。
また、北側は江戸時代から様々な伝説が語り継がれる「実盛坂」(写真-2)という急勾配の階段に接しています。このような厳しい条件下での施工を可能にした山留めおよび地下工事計画について紹介します。

図-1 敷地状況

図-1 敷地状況

写真-1 既存の擁壁と地下構造物

写真-1 既存の擁壁と地下構造物

写真-2 敷地北面の「実盛坂」

写真-2 敷地北面の「実盛坂」

仮設L型擁壁による段差山留め

山留め壁(親杭)や杭を打設するためには、既存地下構造物の1階床上に100tクラスの重機を載せる必要があり、そのためには既存建物内部に土砂などの充填が必要です。しかし、東側外壁には開口部が多いため(写真-1)、土圧や重機荷重に耐えられないと判断し、既存B1階床レベルまで先行して撤去しました。その後、L型の仮設擁壁(図-2)を構築して埋戻しを行いました。
高低差の関係で山留め壁や杭の施工は上段と下段に分けて行う必要がありましたが、特に杭については既存擁壁との干渉もあり3回に分けて施工しました。写真-3は上段での杭打設状況(1回目)です。下段での2、3回目の杭打設計画では狭小場所での施工となるため、機械配置および山留壁・切梁腹起しと杭打機リーダーとの干渉についてBIMデータを活用し詳細な検討を行いました。

写真-3 1回目杭打設状況

写真-3 1回目杭打設状況

図-2 L型擁壁と埋戻し状況

図-2 L型擁壁と埋戻し状況

工区分割による地下工事計画

当敷地の周囲は4面とも高さが異なるため、対面する山留め壁間に切梁支保工を架設することが困難です。そのため地下躯体工事を南工区と北工区に分割し、先に北工区の地下躯体を1階床まで構築し、その躯体を反力として切梁を架設して南工区の掘削を行う計画としました。各工区の山留め支保工には、高低差に配慮して、大火打ちや地盤アンカーを併用する計画としました(図-3、4)。西面については、山留め壁と道路境界までの距離が約7mであり、通常の地盤アンカーを用いると道路に越境してしまいます。道路管理者との事前協議では越境しての施工は不可との回答があったため、通常の摩擦抵抗に加えて支圧抵抗を付加することで短くできるスプリッツアンカーを採用しました(図-5)。スプリッツアンカーは、アンカー体長部を拡径(Φ800)で掘削することにより軟弱地盤でも引抜耐力を得ることができる工法です(図-6)。なお、アンカー配置計画にはBIMデータを活用し、既存杭・新築杭・タワークレーン基礎杭に干渉しないように検討を行いました(図-7)。
また、地下躯体工事を2工区に分けることにより、北工区施工時には南工区部分を資材のストックや鉄筋の地組、コンクリート打設時のポンプ車・生コン車の配置など作業ヤードとして使用しました。同様に南工区施工時には北工区1階床を作業ヤードとして使用しました。

図-3 北工区山留め計画

図-3 北工区山留め計画

図-4 南工区山留め計画

図-4 南工区山留め計画

図-5 山留め計画断面図(西側)

図-5 山留め計画断面図(西側)

図-6 スプリッツアンカー支持力機構(日特建設(株)パンフレットより)

図-6 スプリッツアンカー支持力機構(日特建設(株)パンフレットより)

図-7 スプリッツアンカー体長部干渉検討

図-7 スプリッツアンカー体長部干渉検討

おわりに

2018年11月より解体工事に着手し、2020年9月末現在、北工区地下工事が完了し、南工区基礎躯体工事に着手しました。今後も竣工に向けて安全作業に努めると共に、今回の地下工事の経験を類似工事の計画に活用したいと考えています。

工事概要

工事名称 (仮称)湯島3丁目解体工事・新築工事
工事場所 東京都文京区湯島三丁目52番-1外
発注 積水ハウス(株)
設計・監理 (株)坂倉建築研究所
施工 (株)鴻池組
工期 解体工事:2018年11月~2019年4月 新築工事:2019年5月~2022年1月
用途 店舗 共同住宅
構造・規模 RC造 地下3階 地上14階 建築面積814.89m² 延床面積9,752.59m²

499号(2020年10月1日)の記事

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