技術広報誌ET

技術広報誌ET 2020年発刊号

交通・物流の大動脈を再生する床版取替工事

499号(2020年10月1日) 東名高速道路 (特定更新等)庄内川橋他1橋床版取替工事 名古屋支店 工事事務所 廣田 昌昭/ 技術本部 土木技術部 秋田 満留

はじめに

東名高速道路は1968年の開通以来50年以上が経過し、経年劣化や交通量の変化(台数の増加や大型車両の増加など)による厳しい使用環境により老朽化が進展しているため、更新時期を迎えています。特に施工箇所となる名古屋IC(愛知県名古屋市)~春日井IC(愛知県春日井市)間は、日平均交通量58,000台(2018年)、大型車混入率約30%の重交通区間で、繰返し荷重や凍結防止剤散布などの影響によるひび割れや、床版下面での鉄筋腐食によるコンクリート剥離などの損傷や劣化が進行していました。当工事はその大規模更新工事の一環として、一級河川庄内川に架かる庄内川橋と、JR中央本線を跨ぐ神領橋の2橋の床版取替を行う工事です。ここでは、交通量が多く制約の厳しい施工環境下にある東名高速道路の都市区間において、対面通行規制しながら実施した2橋の床版取替工事をご紹介します。

図-1 施工位置図

図-1 施工位置図

写真-1 庄内川橋(施工前)

写真-1 庄内川橋(施工前)

写真-2 神領橋(施工前)

写真-2 神領橋(施工前)

工期短縮のための施工上の工夫

床版取替工事は、下り線、上り線の順に2橋同時施工にて行いました。写真-3は庄内川橋の下り線の施工状況です。
1 期施工:下り線 1/14~3/19(66日間)
2 期施工:上り線 5/11~7/19(70日間)
上記の期間内で、上下線間の渡り線の施工~床版取替~復旧までを完了させるため、様々な工夫により、施工の効率化を図りました。

写真-3 庄内川橋(下り線)における床版取替状況

写真-3 庄内川橋(下り線)における床版取替状況

写真-4 PC床版仮置場での地覆コンクリート打設状況

写真-4 PC床版仮置場での地覆コンクリート打設状況

写真-5 幅員方向分割版設置状況(神領橋)

写真-5 幅員方向分割版設置状況(神領橋)

写真-6 間詰コンクリートの型枠設置状況

写真-6 間詰コンクリートの型枠設置状況

①地覆の先行打設
工場製作したPC床版を仮置き場に搬入後、地覆コンクリートを先行して打設(写真-4)。

②幅員方向分割版の採用
橋梁端部の異形部分は、幅員方向に分割したPC床版を採用し、現場打ちコンクリート部分を最小とし工期短縮(現場打ち11日間⇒5日間に短縮)。

③間詰コンクリート型枠の脱着簡素化
PC床版にインサートを仕込み、型枠の組み外しを効率化。

同一占用帯内における2橋同時施工

下り線、上り線それぞれについて、決められた規制期間内に施工を完了するために2橋同時に施工する必要がありました。当初計画では、両橋間に工事用車両の入退場ができないため、1方向からの片押し施工となり、規制期間内に施工完了することが困難でした。そこで、上下線の離隔4mに着目し、両橋間の区間に仮設斜路を設けることで、施工進捗に応じて工事用車両が高速道路上まで入退場できるようにしました(図-2、写真-7)。この斜路により、対面通行規制への影響を与えることなく施工箇所へ2方向からアプローチが可能となり、資機材運搬時間を短縮することができました。また、既設床版の撤去と新設床版の架設が同時並行で進めることができるため、工期短縮に大きく寄与しました。

図-2 仮設斜路の詳細図

図-2 仮設斜路の詳細図

写真-7 仮設斜路(左が上り口、右が本線乗入れ部)

写真-7 仮設斜路(左が上り口、右が本線乗入れ部)

JR直上および高圧送電線下での施工

神領橋は、JR中央本線と引き込み線を跨いでおり、道路幅員より外へ吊荷を通過させることができません。そこで、レーザーシールド(指定エリア内に入った侵入物を検知)を導入し、撤去床版や架設床版が域外に出ないよう監視を徹底しました。また、工事管理者、列車見張員を配置して、JR営業線への影響が生じないように安全確認を行いながら慎重に施工しました。
また、神領橋の春日井IC側には、上空に中部電力の77,000Vの高圧送電線、直下に市道が通っていました。そのため、レーザーシールドに加えて3Dレーザーバリアを設置し、高圧線からの安全距離4mを確保しながら施工しました。

図-3 JRおよび高圧送電線に対する安全対策

図-3 JRおよび高圧送電線に対する安全対策

床版の撤去および架設には大型フォークリフトを使用し、クレーン作業を極力なくしました(写真-8)。端部の幅員方向分割版の施工では、フォークリフトを使用できないため、70tラフタークレーンを2台配置して架設しました。実施工までに試験施工を含め様々な検討を行い冶具の製作や施工手順を決定しました。
専用の冶具を取り付けた幅員方向分割を台車に載せ、床版設置箇所の横に設けた2本のガイドH鋼上をスライドさせて移動させました。次に2台の70tクレーンで相吊りして所定の位置へジブの角度を一定にしたまま旋回しセットしました(写真-9)。橋面から約11m上空に77,000Vの高圧線があり、高圧線とクレーンジブの安全距離4m以上を保持して作業を行いました。

写真-8 フォークリフトによる床版撤去(左)と床版架設状況(右)

写真-8 フォークリフトによる床版撤去(左)と床版架設状況(右)

写真-9 幅員方向分割版の架設状況(神領橋、下り線)

写真-9 幅員方向分割版の架設状況(神領橋、下り線)

おわりに

当工事の特徴のひとつは、庄内川橋が合成鈑桁(ばんげた)であることです。合成鈑桁は桁だけではその構造が成立しないため、床版撤去前に既設桁の補強が必要で、その補強部材の取り付けは、床版下の狭隘な空間での手間のかかる作業となりました。さらに、既設床版と桁を接合するジベル筋が特異な形状をしていたため、接合部を機械的に切断できず人力での取り壊し作業を余儀なくされました。そのため、既設床版の撤去には多くの手間を要しましたが、前述の工夫や工事関係者の尽力により、1期、2期施工ともに遅延なく無事に床版取替を完了することができました。
大規模更新工事はさらに加速していきますが、今回のような街中での施工は今後避けて通れません。今回の知見を活かし、床版取替がより効率的になるように施工方法をブラッシュアップし、社会インフラの有効活用に貢献してまいります。

工事概要

工事名称 東名高速道路(特定更新等)庄内川橋他1橋床版取替工事
工事場所 愛知県名古屋市(名古屋IC)~愛知県春日井市(春日井IC)
発注者 中日本高速道路(株) 名古屋支社
施工者 鴻池組・極東興和特定建設工事共同企業体
工期 2019年1月~2021年11月
工事内容 庄内川橋【 鋼4径間連続合成鈑桁】 上り線 延長L=163.5m、橋面面積A=2,084m² 下り線 延長L=167.2m、橋面面積A=2,131m² 神領橋【 鋼3径間連続非合成鈑桁】 上り線 延長L=113.1m、橋面面積A=1,442m² 下り線 延長L=114.8m、橋面面積A=1,463m² 舗装工 15,368m² 交通規制工、床版防水工、塗替塗装工

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