技術広報誌ET

技術広報誌ET 2020年発刊号

複合用途ビル建設におけるICT活用による省力化

498号(2020年7月1日) 神戸駅前プロジェクト 大阪本店 工事事務所 花岡 清勝 / 池田 隆浩

はじめに

当プロジェクトは、放送局とホテルから構成される複合用途ビルを神戸市中央区のJR神戸駅前に建設する工事です(写真-1)。敷地は周囲を高速道路や国道・県道、ビルや住宅に囲まれ、地下鉄が近接する市街地です。ここでは、働き方改革を推進する中で取り組んだICTの活用事例を中心に紹介します。

写真-1 工事状況(2020年4月末)

写真-1 工事状況(2020年4月末)

建物概要

当建物は、地上12階、一部地下1階の鉄骨造による複合用途ビルです。
1階から4階は放送局およびホテルのロビーやレストランなどが配置され、5階から12階はホテルの客室となっています。ファサードデザインは、この低層部と上層部の立体構成の違いを表すとともに、低層部は周辺に残る歴史的建築物から抽出した要素を参考にして、周辺地域に馴染むデザインや素材を採用しました(図-1)。

図-1 完成予想図

図-1 完成予想図

安全掲示板の電子化

安全掲示板に100インチのモニターを組み込みました(写真-2)。朝礼時は、ラジオ体操動画の映し出し、作業予定や安全注意事項、前日の打合せ時に作成した作業配置図などを職員がiPadの画面をモニターに映し、作業員に周知しています。さらに、朝礼以外の時間帯は安全注意事項や作業員の写真などを映し出し、作業員の安全意識向上を図っています(写真-3)。これまでは、毎朝の安全当番が当日の配置や注意事項を準備していましたが、iPadとモニターを活用することで、これらの準備業務を省力化でき、多職種で多数の作業員へ分かりやすく周知ができます。

写真-2 朝礼時の注意事項説明状況

写真-2 朝礼時の注意事項説明状況

写真-3 安全周知事項のスライド表示

写真-3 安全周知事項のスライド表示

定時打合せの電子化

定時打合せは、当社開発の作業打合せシステム「KOCoミーティング」を活用し日々の作業間調整を行っています(写真-4)。打合せ室にパソコンとモニターを設置し、携帯端末から職長が翌日の作業内容や出面を入力、各職長が入力したデータをシステムでエクセルデータに変換しモニターに表示します。Web入力できるため、どこからでも作業内容や予定人数の入力ができます。また、入力したデータは、翌日の元請安全作業打合書と協力会社の安全作業指示書に反映されます。
安全通路や立入禁止などの配置図は、従来はホワイトボード等に手書きで記入していましたが、パソコンを利用して作成することで作成手間を大幅に省き、作成データは前述のとおり朝礼時に活用されています。また、オンラインミーティングシステム「ZOOM」を活用して打合せに現場事務所や外出先からWeb会議として参加できるようにすることで、職員の移動時間の削減を図っています(図-2)。

写真-4 定時打合せ状況

写真-4 定時打合せ状況

図-2 画面共有による情報伝達

図-2 画面共有による情報伝達

新規入場者教育にミニロボット採用

規模が大きく作業員が多い現場では、毎日繰り返される新規入場者教育も負担の多い業務となっています。この業務をミニロボットに手伝わせることで、省力化を図りました。現場での注意事項や周知事項をモニターに表示し、ミニロボットが説明をしていきます(写真-5)。

写真-5 説明役のミニロボット

写真-5 説明役のミニロボット

BIM活用による施工計画・納まり検証

BIMモデルで様々な段階における施工ステップ図(図-3,4)を作成し、躯体数量の積算、施工手順の周知や定例会議での説明に活用しています。また、鉄骨柱のアンカーと基礎梁主筋の納まり検証(図-5)、天井内の複雑な鉄骨と設備配管、耐震天井の納まり検証等(図-6)を行うことで、施工時の手戻り防止を図りました。

図-3 基礎部の施工ステップ図

図-3 基礎部の施工ステップ図

図-4 鉄骨建方ステップ図

図-4 鉄骨建方ステップ図

図-5 鉄骨柱アンカーと基礎梁主筋の納まり検証

図-5 鉄骨柱アンカーと基礎梁主筋の納まり検証

図-6 天井裏設備配管等納まり検証

図-6 天井裏設備配管等納まり検証

ホロレンズを用いた設備インサート墨出し

MRデバイスであるホロレンズ(マイクロソフト社)を用いて、スラブに埋め込む設備用インサート位置の墨出し作業を試行しました。デッキプレート上に柄付きスタンプを用いてマーキングします(写真-6)。現状では精度およびヘルメットへの装着等に課題があるため、新機種のホロレンズ2による再試行を計画しています。

写真-6 ホロレンズによる墨出しの試行 

写真-6 ホロレンズによる墨出しの試行 

RC造避難バルコニーのPCa化

上層部のホテル客室階には避難バルコニーが設置されます。このバルコニーは神戸市の指導によりRC造とすることが求められ、鉄骨躯体の外周部にRC床版を構築する必要が生じました。作業の安全性や工期を考慮した結果、ハーフPCa版を採用することで品質や精度の向上も合わせた効果を得ることができました(写真-7)。

写真-7 バルコニーハーフPCa版の取付状況

写真-7 バルコニーハーフPCa版の取付状況

おわりに

複合用途ビル建設現場におけるICT活用を中心とした省力化事例を紹介しました。働き方改革を進める上で建設業に関わる人員の不足や高齢化などが問題となり、これまで以上に省力化が求められています。今回紹介した以外のICT活用にも積極的に取り組みながら、関係者とのチームワークをさらに深め、竣工に向け高品質の建物を安全に構築してまいります。

工事概要

工事名称 神戸駅前プロジェクト新築工事
工事場所 兵庫県神戸市中央区東川崎1-1-11他
発注 NTT都市開発(株)
設計・監理 神戸駅前プロジェクト共同設計企業体((株)鴻池組・(株)NTTファシリティーズ・(株)東急設計コンサルタント)
施工 (株)鴻池組
工期 2018年12月~2020年12月
建物用途 放送局・ホテル
構造・規模 鉄骨造 地上12階 塔屋1階 建築面積 1,787.53m² 延床面積 13,545.66m²

498号(2020年7月1日)の記事

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