技術広報誌ET

技術広報誌ET 2020年発刊号

長距離岩盤シールド工事における大量湧水対策

496号(2020年1月1日) 豊平川シールド工事 東京本店 工事事務所 加藤 卓男 / 深井 正行

はじめに

札幌市では水道水源の98%を担う豊平川の水源水質を将来にわたって保全するために「バイパスシステム」(図-1)を構築する事業が計画されました。このシステムは導水路を用いて、通常時は上流におけるヒ素、ホウ素などの水質悪化要因となる自然湧水をせき止め、浄水場の取水地点より下流まで迂回させることにより排除し、一方、事故・災害時には、一時的に水の流れを切り替え、良質な河川水を浄水場まで直接導水する計画です。

図-1 バイパスシステムの概要(出典:札幌市水道局HP)

図-1 バイパスシステムの概要(出典:札幌市水道局HP)

写真-1 発進基地全景

写真-1 発進基地全景

当工事は、前述の導水路のうち、定山渓温泉東1丁目の豊平川に隣接する発進基地(写真-1)から、他工区との地中接合地点まで仕上がり内径2,200㎜、延長3,286mのシールドトンネルを構築するものです(図-2)。

図-2 導水路位置図(札幌市水道局資料より抜粋・加工)

図-2 導水路位置図(札幌市水道局資料より抜粋・加工)

地質概要およびシールド機の仕様

図-3に調査ボーリング結果より推定した地質縦断図を示します。最大土被りは257mで、安山岩、凝灰角礫岩、石英斑岩、火山礫凝灰岩などの岩盤区間が大半を占めていましたが、途中神居沢川(かむいざわかわ)、百松沢川(ひゃくまつざわかわ)と2カ所の沢下を通過することから、湧水の影響が懸念されました。最も水圧が高くなると想定される百松沢手前の堆積物がある土被り30mでの掘進を想定し、最大水圧0.3MPaに対応する岩盤対応型泥土圧式シールド機を製作し、掘削を開始しました(写真-2)。

写真-2 シールド機

写真-2 シールド機

図-3 地質縦断図

図-3 地質縦断図

泥土圧式シールド工法による掘進状況

泥土圧式シールドでは、切羽の安定を図るためカッターチャンバー内の泥土の塑性流動状態(加圧された掘削土が自由に変形・移動できる状態・性質)を保持する必要があります。最初の沢部である神居沢を通過後、チャンバーへの地下水流入が増大し、掘削土の塑性流動性が確保できなくなりました。排土は土砂と水が分離した状態となり、排土用ベルトコンベアから分離した水がこぼれ、切羽に溜まる事態が生じました。下り勾配1‰(パーミル)の掘進であることから、坑内にこぼれた水の排水は不可欠であり、水量増加(写真-3)に対しては、排水設備を増設して対応しました。

しかし、土被りの増大とともに徐々に切羽水圧および水量が増大し、日進量が著しく低下しました。地質の変動で日進量が回復することもありましたが、1,226m地点で排土口から掘削土砂とともに大量の湧水が噴出し、水圧0.5MPaを計測しました(写真-4)。坑内排水の処理が間に合わなくなったため、掘進を中断しました。

写真-3 湧水量の増加

写真-3 湧水量の増加

写真-4 掘進停止前の切羽状況

写真-4 掘進停止前の切羽状況

空中電磁探査の実施

中断地点以降の掘進区間における地下水の賦存状況(存在量の推定)を把握するため、空中電磁探査を行いました。

空中電磁探査は、ヘリコプターを用いて空中から地下水や地質に関係する電気的性質(比抵抗)を面的に測定する物理探査方法です(図-4)。

図-4 空中電磁探査の概要

図-4 空中電磁探査の概要

調査の結果、残り区間に万遍なく地下水の賦存が確認されました(図-5、地下水位推定図の青い着色部)。今後の掘進においても大量の湧水に遭遇することが予測されたため、抜本的な対策が求められました。

図-5 地下水位推定図

図-5 地下水位推定図

「地山湧水クローズドシステム」への変更

高水圧に対応し、大量湧水を処理するため、泥水式の切羽安定機能を付加したシールド機に変更しました。これを「地山湧水クローズドシステム」と称します。スクリューコンベア後方からトンネル坑外まで流体輸送を行うシステムへの変更を行いました。

シールド機チャンバーから掘削土を排出するスクリューコンベア内に改質材を充填し、切羽からの湧水漏出を遮断し、スクリューコンベアの後方に密閉型のゲート(写真-5)と混合槽(写真-6)を接続して、泥水循環方式の流体輸送による排土方式に変更しました(図-6)。混合槽で、スクリューコンベアから排土された掘削土と送泥管から送り込まれる泥水を混合して、排泥管にて坑外へ排出しました。

写真-5 交換後のゲート

写真-5 交換後のゲート

写真-6 混合槽

写真-6 混合槽

図-6 地山湧水クローズドシステムにおける泥水循環概要

図-6 地山湧水クローズドシステムにおける泥水循環概要

取り込んだ湧水を流体輸送によって地上設備に送ることで、坑内水没のおそれがなくなりました(写真-7)。流体輸送された湧水は、20㎥タンク2基と50㎥タンク2基の計140㎥の余剰槽にストックし、100㎥/hの濁水処理設備および4㎥のフィルタープレスを設置して掘進時の泥水増加に対応しました。掘進時以外はスクリューコンベアゲートを閉鎖し、濁度の低い湧水をシールド機から排水して切羽水圧を制御し、濁水処理、二次処理を併用しながら排水処理をすることで多量の湧水処理を行いました。

写真-7 掘進再開後の切羽状況

写真-7 掘進再開後の切羽状況

おわりに

高水圧・大量湧水という厳しい施工条件、かつ1,226m地点の掘進途中にて排土方式の変更を行う稀有な工事でしたが、検討から施工まで関係者各位の様々な協力のもと、地中接合点に無事到達することができました。今回の知見が、同種工事の参考となれば幸いです。

工事概要

工事名称 施設整備事業の内導水施設 国庫補助事業
豊平川水道水源水質保全 導水路新設工事その2
工事場所 北海道札幌市南区定山渓温泉東1丁目地先
発注者 札幌市水道局
施工者 鴻池・道興特定共同企業体
工期 2015年 3月~2019年12月
工事内容 シールド工 掘削外径2,730㎜ 掘進延長3,286m 一次覆工:二次覆工省略型RCセグメント 外径2,550㎜(内径2,200㎜)、3,280リング 地中接合工:一式

496号(2020年1月1日)の記事

技術広報誌ETトップへ
技術に関するお問い合わせ
お問い合わせフォームへ