技術広報誌ET

技術広報誌ET 2020年発刊号

ICTを活用した新たな建築生産への取り組み

496号(2020年1月1日) 豊田地域医療センター改築 名古屋支店 工事事務所 吉藤 尚登

はじめに

豊田地域医療センターは、愛知県豊田市の西部に位置し、地域に密着した病院となっています。1980年のオープンから40年近くが経過したことから施設の老朽化が進み、また、高齢化が急速に進むなど医療環境が大きく変化する中で、現状の施設では対応が難しい状況となったことから、地域医療ニーズに即した機能をもつ病院へと再整備が進められています(図-1、写真-1)。

ここでは、既存棟の建替工事において、プロジェクト関係者とのコミュニケーションの活性化や生産性向上等を目的として取り組んでいる、ICTの活用について紹介します。

図-1 完成予想図(提供:日建設計)

図-1 完成予想図(提供:日建設計)

写真-1 工事状況

写真-1 工事状況

再整備の概要

当医療センターには、主な既存建物として北棟、中棟、南棟および西棟があります。今回の再整備事業においては、新たな棟を建設し、南棟を改修、北棟・中棟を解体します(図-2)。新棟には一般外来・病棟機能を集約し、1・2階に外来・中央診療、3階にリハビリ機能、4~7階に計190床の病室を配置しています。また、南棟には1・2階に健診機能を、3・4階に管理機能を配置しています。

図-2 配置図

図-2 配置図

施工計画概要

既存の病院施設が稼働している中での建て替え、改修工事であり、敷地内には関連の看護学校や豊田加茂医師会の施設もあるため、来院者を始め、多くの来客や学生が行き交っています。そのため、第三者災害等が起きないように搬入ルートや時間に配慮した施工計画としています。

大まかな工事スケジュールは、新棟の新築工事が2018年7月~2020年10月(28ヶ月)、新棟への引越し後、南棟の改修工事、北棟・中棟の解体、外構整備工事が2021年1月~2022年12月(24ヶ月)となっています。

また、医療施設の特徴から、建物の様々な「もの決め」に多くの関係者が関わることから、綿密な施工計画、確認作業が必要となります。これらをスムーズに進めるべく取り組んだICTの活用事例を以下で紹介します。

BIMデータの活用

病院関係者や設計事務所との打ち合わせにBIMデータを活用しています。設計事務所にて作成されたBIMモデルデータをベースに、施工で必要な情報を加えて活用しています。特に、BIMモデルから複数のカットを作成するデータ加工業務については、海外の協力会社と連携を図り、早期の「もの決め」を推進しています(図-3、4)。

図-3 BIMによるパース(総合受付イメージ)

図-3 BIMによるパース(総合受付イメージ)

図-4 BIMによるパース(外来待合イメージ)

図-4 BIMによるパース(外来待合イメージ)

作成したBIMモデルは、各種ICTと連携することで一層の活用を行っています。その1つにMR(Mixed Reality)との連携があります。MRは、現実空間にBIMモデルをバーチャルデータとして重ね合わせる(MIXさせる)ことができる技術です。鉄骨と設備の納まりの確認では、鉄骨施工後の現実空間に設備の配管データをMRで映し、設備配管のスリーブの位置や納まりを確認しました。その他、関係者へのプレゼンにVR等を用いて合意形成に役立てています(写真-2)。また、建築物と機械設備、電気、医療設備配管等との干渉確認をBIMデータにより行ない、施工段階での手戻り防止を図っています(図-5)。

写真-2 MRによる躯体と設備の納まり確認状況

写真-2 MRによる躯体と設備の納まり確認状況

図-5 干渉確認モデル

図-5 干渉確認モデル

ビジネスチャットツールの活用

職員間で情報共有をタイムリーに行うため、ビジネスチャットツール「direct」を導入しています(図-6)。このツールはセキュリティポリシーが設定でき、協力会社の関係者を招待して利用することも可能です。また、当社で開発し、運用している工事管理支援ツール「KOCoチェック」との連動もでき、新たな情報共有ツールとして効果を上げています。

図-6 チャットによるコミュニケーション

図-6 チャットによるコミュニケーション

ICT建機を用いた次世代掘削

地下掘削作業において、マシンコントロール機能を搭載したバックホウを使用し、情報化施工による施工効率の向上を図りました。実際の施工では、運転席のモニターに写し出された掘削図によりGPSによる正確な掘削位置、深さが常時確認でき、バケット等の可動範囲を自動制御により誤差約1㎝に収めることが可能になります。従来の測量、丁張、相番者による掘削位置、深さの確認作業が不要となり、工期の短縮や省人化に加え、安全性の向上が図れました(写真-3、4)。

写真-3 ICT建機による掘削状況

写真-3 ICT建機による掘削状況

写真-4 運転席モニター表示例

写真-4 運転席モニター表示例

タワークレーン吊り荷のIoT遠隔監視

タワークレーンのブーム先端に取り付けた吊荷監視カメラの画像データをインターネット経由で送信することにより、工事事務所のモニターやスマートデバイス、さらに遠隔地にある機材センターで確認することが可能になりました。これにより、作業の安全性を常時確認できる「安全の見える化」を図っています(図-7、写真-5)。

図-7 システムイメージ図

図-7 システムイメージ図

写真-5 iPadによる吊荷監視カメラ画像の確認

写真-5 iPadによる吊荷監視カメラ画像の確認

おわりに

医療センターの建替工事におけるICTの活用状況について紹介しました。現在(2019.12)、地上躯体工事を進めていますが、今後の仕上げ工事においては、今回紹介した以外の先端ICTも積極的に取り入れ、関係者と綿密なコミュニケーションを取りながら、高品質の建物を効率よく、安全第一に構築してまいります。

工事概要

工事名称 豊田地域医療センター改築ほか工事
工事場所 愛知県豊田市西山町3-30-1
発注 豊田市長 太田 稔彦
設計・監理 豊田市都市整備部公共建築課、(株)日建設計
施工 鴻池・太啓建設共同企業体
工期 2018年6月~2022年12月(改修・解体含む)
構造・規模 <新棟> SRC造+S造 基礎免震構造 地上7階 塔屋1階 建築面積3,956.36m2 延床面積16,403.86m2

496号(2020年1月1日)の記事

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