JOG工法による不同沈下建屋の復元
大阪本店 吉田 雅之 / 田中 英男 / 山下 直人
はじめに
新日鐵住金㈱交通産機品事業部製鋼所内の最南に位置する本館書庫(RC3階建て)は、1937年(昭和12年)に築造され、以来79年間、書類保管庫として重要な役割を果たしています。しかし、長年の支持地盤の圧密の影響で書庫の南東部が310mm沈下しており、目視で確認できるほどの状態でした。そのため、不同沈下部を持ち上げて傾きを修正することとなりました。
復元対象である本館書庫は、東面・南面に別の建屋が近接しているほか地中梁基礎の下端がG.L.-2.0mと深く、油圧ジャッキによるジャッキアップは困難でした。そこで、建屋内や狭所での施工が可能で、大掛かりな掘削をすることなく建物を持ち上げることのできる「JOG(Jacking Of Grout)工法」を採用しました。
JOG工法
JOG工法は、油圧ジャッキを用いずにグラウト材を基礎下に注入することで建物を持ち上げる工法であり、従来工法のような複雑な作業工程が不要で、特殊注入のみで不同沈下構造物を復元する工法です。グラウト材は2液タイプで、配合によりゲルタイムを設定でき、強度は最大で1000kN/m²となり、化学的に安定した恒久性グラウトです。
JOG工法の標準的な基本作業手順は以下の①~④です(図-1参照)。
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①構造物の荷重や基礎や隣接物の状況から、最適な注入位置を決め、基礎下部まで削孔して注入管を挿入します。
②割裂浸透注入が可能な中結グラウト(硬化時間:数十秒)を基礎下部支持地盤に注入し、地盤反力を確保するための改良支持層を形成します。
③数秒で硬化する瞬結性グラウトを、集中管理装置・自動分岐バルブを使用してインターバル法(各孔に適量を順次注入)により注入します。ゲル化により拘束領域外への流動が制止され、周囲へ拡散せず上下に広い面積で圧力を伝播します。この操作を繰り返して構造物基礎を持ち上げます。
④隆起量を計測しながら集中管理装置にて注入量、注入箇所、インターバル設定を随時変更していくことにより、ミリ単位の精度で目標値に近付けます。
施工結果
隣接建屋の基礎が、対象の書庫と平面的に近接していることが試掘で判明し、対象範囲を掘削して目視確認しながら施工しました。また、書庫外壁に付属している配管、鉄骨屋根・鉄骨階段の縁切りを行いました。書庫の目標隆起量は最大310mm(図-2)で、隆起量および隣接建屋や付属構造物の常時監視を行いながら注入しました(写真-1)。開始から13日後に目標値まで隆起させ、不同沈下の復元を行いました(写真-2)。周辺の建屋・付属構造物への影響は全くありませんでした。
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おわりに
今回のJOG工法の施工にあたっては、隣接建屋基礎の試掘や書庫外壁などの準備工事で苦労をしましたが、当社ならびに協力会社である㈱コンステック、平成テクノス㈱のそれぞれの職員の連携による監視体制を作ることで、書庫の不同沈下を無事に修正・復元することができました。
工事名称 | 本館書庫傾き修正・耐震補強土建工事 |
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工事場所 | 大阪市此花区島屋5-1-109 (新日鐵住金工場内) |
発注者 | 新日鐵住金(株) 交通産機品事業部 製鋼所 |
施工者 |
(株)鴻池組 |
工期 | 平成27年10月~平成28年4月 |
対象物概要 |
構 造:RC造・3階建(建築面積:72.72m2) 基礎形式:直接基礎(連続フ―チング) 松杭φ200㎜ |