プレキャストPC工法による卸売市場の施工

南三陸町地方卸売市場   

東北支店 工事事務所 森田 昌博 

はじめに

 当工事は、平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震による津波で壊滅的な被害を受けた南三陸町の卸売市場の建て替え工事です。南三陸町にとって漁業は基幹産業であり、震災後はテント張りの仮設市場で業務が行われていたことから、漁業関係者だけでなく南三陸町の皆様が完成を待ち望んでいた施設です(写真-1)。
 
 

  

建物概要

 構造はPC(プレストレストコンクリート)ラーメン造で、外壁には押出成型セメント板が採用されています。これは今回のような大津波に襲われた際に、外壁が壊れてラーメン(柱・梁)が残るという設計方針によるものです。もう一つの特長として食の安全、安心のニーズに応えた衛生管理型の市場であることが挙げられ、魚のトレーサビリティを追跡できるようになっています。

 

プレキャストPC工法の概要

 今回採用されたプレキャストPC工法は、プレストレストコンクリート工法とプレキャスト工法を組み合わせたPC圧着関節工法で、柱・梁とも工場生産によるフルプレキャスト部材となっています(写真-2)。運搬中の衝撃や架設時の応力に対応するため、梁には工場でプレストレスを導入しています(1次ケーブル)。これにより一部の部材を除いて、梁は柱に設けられたアゴに載せることで無支保工での架設が可能となります(写真-3)。また、柱と梁を圧着接合するための2次ケーブルには、現場でシース管に挿入後、降伏応力の75%~80%のプレストレスが導入されます(写真-4)。
 この工法のメリットとして、耐震性能に優れた高靱性・復元力、ひび割れ防止などの性能・品質向上が挙げられます。これに加え復興工事の影響で生コンクリートの供給事情が極端に悪く、また躯体職が不足している状況において、工期の短縮にも非常に有効な工法です。

 

 

 

プレキャスト部材の建方

 本工法の採用により、柱・梁は全てプレキャスト部材となり、その最大重量は柱が21.5t、梁は36.5tとなっています。部材の建方は、建物の南面および西面は海に面しクレーンの設置が難しいことから、後施工となる基礎工事が発生することなく、1階床コンクリートを打設した後に建物北側から550tオールテレーンクレーンを使って建方を行う計画としました(図-1)。
 また、海側の宮城県が管理する岸壁の上空に出幅が5.26mの上屋が架かる設計となっており、この上屋を支える9tの片持ち梁およびその先端に直行する方向に7tの小梁を架設しました(写真-5)。架設時の支保工の計画については、プレストレスを導入するまでにかかる部材の荷重以外にも、片持ち梁に勾配があるため架設時には一時的に部材の全重量が支保工にかかること、さらに海からの強風に対する対策などを慎重に検討しました。
 また、卸売市場という用途から荷捌き室は21.2mという大スパンであり、この部分については梁を2分割して製作し、現場で接合する工法を採用しました(写真-6)。

 

 

 

 

おわりに

 平成28年3月末現在、建物、外構とも工事はほぼ完了し、IT関係の調整、排水処理機械、製氷機械、海水井戸等の試運転調整を行っています。その後、実際に市場を使用される漁協職員や漁業者、仲買人の方々のトレーニング期間を経て、6月から稼働する予定です。
 基幹産業である漁業が、この市場の稼働により震災前の活況を取り戻し、南三陸町が今後益々発展していくことを願っております。

 

 

 工事概要 
工事名称 南三陸町地方卸売市場建設工事
工事場所 宮城県本吉郡南三陸町志津川字旭ケ浦1番
建築主 南三陸町
設計・監理 一般財団法人 漁港漁場漁村総合研究所
施工 鴻池組・志津川建設特定建設工事共同企業体
工期 平成27年1月~平成28年3月
構造・規模

プレストレストコンクリート造(一部鉄骨造)、地上2階
建築面積5,318.83m2、延床面積6,806.19m2

 

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481号(2016年04月01日)