屋根鉄骨スライド工法による工期の短縮
葛飾区水元体育館
東京本店 工事事務所 小野 孝
はじめに
公園内にある現在の水元体育館(建屋は都のごみ処理施設の一部を用途変更したもの)は、昭和54年に開館してから30年以上が経過し、老朽化が進んでいるため、今回建て替えることとなりました。体育館は、多くのプログラムやスポーツ団体の活動により利用率が高く、今回の建て替えに際しては地域住民と十分な協議が行われるなど、地域の中心的スポーツ施設として期待されています。
工事に当たっては、将来の屋外運動施設計画地を利用し、鉄筋やアリーナ屋根鉄骨の地組(地上での先行組立)や鉄骨の塗装を鉄骨建て方前に行うなど、そのスペースを有効に利用しながら施工しました。ここでは、工期短縮のために採用した屋根鉄骨のスライド工法について紹介します。
![]() 写真-1 竣工間近の水元体育館 |
屋根鉄骨のスライド工法
アリーナを覆う屋根鉄骨の工事は、当初、鉄骨組立や仕上げ用の足場をアリーナ全面に組む総足場(高さ12m超)による施工を検討していました。しかし、総足場による施工では、下層階に屋根鉄骨を支える多数の支保工が必要となるため、各階の仕上げ工事の着手が屋根鉄骨工事完了後となります。そこで、「スライド工法」を採用することで、足場面積を削減(総足場の1/3)し、下階の仕上げ工事に早期着手することで工期の短縮を図りました(写真-2、図-1、2)。また、作業用ステージには、フラットデッキを敷き詰めて開口部を無くすことで、作業性の向上および安全性を確保しました。 |
![]() 写真-2 作業ステージからスライドされた屋根鉄骨 |
![]() 図-1 作業ステージ断面図 |
![]() 図-2 2階平面図(作業ステージ範囲) |
鉄骨トラスの組立
![]() 写真-3 地上でのトラス鉄骨の組立 |
![]() 写真-4 作業ステージ上でのトラス鉄骨の接合 |
![]() 写真-5 組み上がった屋根鉄骨ブロック(スライド前) |
鉄骨トラスのスライド
屋根鉄骨の1ブロックが完成後、両端のベースプレートにチルタンク(スライド用のローラー)を取り付け、油圧ジャッキで牽引して、少しずつスライドさせます(写真-6、7)。スライド時は左右のローラーの移動量が等しくなるようにスライド毎に測定し、連携を取りながら慎重に行います。また、工期短縮のためにステージを2ブロック分用意し、1ブロック目のスライド完了後、引き続いて2ブロック目の鉄骨組立を行います。隣のステージでは、1回目のスライドが完了した1ブロック目の屋根葺きと設備工事および鉄骨ジョイント部の塗装作業を同時に進行させます。これを繰り返し行い、6ブロック目のスライドが完了すると屋根鉄骨が所定の位置となり、チルタンクを取り外した後、全体を約25cm(スライド設備の高さ)ジャッキダウンし、アンカーボルトに定着させます。最後に7ブロック目の組立を行い、屋根鉄骨工事の完了となります。
![]() 写真-6 油圧ジャッキ |
![]() 写真-7 牽引設備 |
おわりに
![]() 写真-8 完成したアリーナの屋根鉄骨 |
工事名称 | 葛飾区水元体育館建築工事 |
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工事場所 | 東京都葛飾区水元1-24-6 |
建築主 | 東京都葛飾区 |
設計・監理 | (株)桂設計 |
施工 | 鴻池・永井・大翔建設共同企業体 |
工期 | 平成24年12月~平成27年9月 |
建物用途 | 体育館(アリーナ・プール・武道場他) |
構造・規模 |
RC造・一部S造(屋根)、地上3階 |
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