上下2段の大口径近接管を推進工法で施工

桜町排水区浸水対策貯留管工事   

東京本店 工事事務所 藤分 雅己 / 山内 佳樹
土木事業本部技術部 神田 勇二

はじめに 

  
  

対策の実施と効果

 ○切羽の安定対策
 切羽の安定性を向上させるため、鴻池組・南野建設が共同開発した濃縮式推進工法(CCモール)を採用しました。本工法は送泥水に高性能分散剤AK-2000(東亞合成・鴻池組共同開発)を添加して、粘性上昇を抑制しつつ比重1.3以上の高比重低粘性泥水を還流させて掘削する工法であり、切羽の泥膜形成能力を高めることで、その安定性を向上させるものです。
 適用にあたっては事前に加圧ろ過試験を実施し、造壁性の向上効果を確認しました(写真-2、3、表-1)。

    写真-2 加圧ろ過試験装置 

○テールボイド保持対策
テールボイド(掘進に伴い推進管外面と地山間に生ずる空隙)から生じる周辺地盤の緩みを防止するため、2段階(一次・二次)で滑材を注入しました。一次滑材としてチキソトロピー性(固形状のゲルに外力を加えると流動性のあるゾルに変わり、外力がなくなるとゲルに戻る性質)を有するゲル滑材を早期に地山に浸透・定着させ裏込め効果を発揮させます。その後、二次滑材として推力低減効果を主とする高分子系滑材を注入することで、二次滑材が地山に漏出せず間隙が生じにくくなります。さらに両滑材を大口径管外周に確実に充填させるため、「注入孔3箇所/推進管1本」を有する多孔管を延長25m間隔に設置し注入を行いました(写真-4、5)。
その結果、施工時推力は計画推力に対して下段管で約1/3、上段管で約1/2と大幅に低減できました。また、各段推進完了後、直ちにセメント系プレミックス裏込め材を充填し、滑材と裏込め材とを置換し、テールボイド部を固結安定させました。
これらにより、テールボイド部から発生する周辺地盤の緩みを確実に防止することができ、地表面の変状等も発生しませんでした。


○上段管推進時の姿勢制御対策
上段管推進時の姿勢制御対策として、急曲線用開口調整装置を掘進機後方の推進管継手部4箇所に設置しました(図-2)。本装置は継手部に8本のスクリュージャッキを設置し、ジャッキの伸縮長を調整することにより上下左右の姿勢制御が自由に行えるものです(写真-6)。本工事では、上段管推進時の沈下挙動を防止するため、下方部に設置したスクリュージャッキを当初から約2㎜伸ばすことで、掘進機による微修正のみで精度よく到達することができました。

○下段管挙動計測の実施
上段管推進時の既設下段管の挙動を把握するため、発進直後の25m区間で計測を実施しました(図-3)。計測項目は①管の内空変位、②管の鉛直変位、③管の発生応力、④継手部目開き量とし、①~③は自動計測としました。さらに地表面鉛直変位を2回/日の頻度で推進延長20m間隔に測定しました。
計測管理基準値は、事前に実施した影響検討解析(二次元FEM解析)結果及び管の許容曲げ引張応力度から定め、施工に着手しました。表-2に管理基準値と実測値を示します。全ての項目が管理基準値内で推移し、下段管に大きな影響は発生しませんでした。 

おわりに

 これまでに例のない厳しい施工条件下での推進工事でしたが、地山の緩みを防止する対策を何重にも講じると共に、先行した下段管及び周辺地盤の挙動を計測しながら施工を行った結果、安全かつ高精度に推進を完了することができました。この経験を以降の推進工事に活かしていきたいと考えています。
なお、本工事の施工報告を掲載した月刊推進技術2013年3月号の論文が、推進技術の進歩発展に顕著な貢献をなす優れた論文と認められ、黒瀬賞の優秀論文部門で表彰されました。

 

※ 黒瀬賞とは、公益社団法人日本推進技術協会の事業の一環として、故黒瀬義仁氏(株式会社イセキ開発工機会長)のご遺族からの寄付をもとに、黒瀬記念推進技術振興基金を設け、平成元年度から推進技術等の発展振興を図るため、推進工法の普及、推進技術等の開発、研究に携わる個人または団体に対して表彰、助成を行うものです。

  

工事概要 
工事名称 桜町排水区浸水対策貯留管工事
発注者  川口市
施工者 (株)鴻池組
工事場所 埼玉県川口市桜町地内
工期

平成23年6月~平成25年6月 

工事概要

内 径 φ3,000mm、上下2段、離隔1.1m
延 長 260.75m(1スパン)×2段
土被り 3.5m~9.5m
線 形 R=700m
勾 配 上り0.2‰(上下段共通)
立 坑 発進立坑築造(鋼矢板土留め)

 

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475号(2014年10月01日)