有機凝結剤による高効率濁水処理システム

江の川トンネル  

大阪本店工事事務所 小山 起男/水沼 健次 

はじめに

本工事は、将来、山陰自動車道として機能する一般県道浅利渡津線のバイパス事業として整備が進められている路線のうち、島根県江津市に位置する延長L=1,320mの2車線道路トンネルを建設する工事です。
トンネル工事は、平成24年8月より掘削作業を開始し、平成25年11月に貫通(掘削完了)、掘削作業とともに順次施工してきた覆工・防水工及びインバート工事を平成26年3月に終えて完成しました(写真-1)。
トンネルの工事中には、削孔水や坑内湧水、生コンの洗浄水といった多くの濁水が発生しますが、これらを河川に放流する前に放流基準値以下となるよう処理を行う必要があります。
本号では、一般的に使用する無機凝集剤(PAC)に替えて、有機凝結剤(ソイルフレッシュ)を使用した高効率濁水処理システムについて紹介します。
なお、「有機凝結剤による高効率濁水処理システム」は、当社と栗田工業(株)、(株)フジテックスとの共同開発技術(特許出願中)です。 

高効率濁水処理システム

濁水処理に使用する薬剤については、一般的に無機凝集剤としてポリ塩化アルミニウム(以下「PAC」という)及び高分子凝集剤を使用します。当現場では、PACに替えて有機凝結剤である「ソイルフレッシュ」を使用した高効率濁水処理システムを採用しました。
一般に濁水に含まれる懸濁粒子・微細懸濁粒子は、マイナスに荷電しており、これが凝集を妨害しているため、マイナス荷電の中和(プラス荷電を持つ薬剤の添加)が必要となります。ソイルフレッシュはカチオン密度が高く、荷電中和量が強いため、PACに比べて少量の添加量で有効にコロイド粒子の荷電中和作用を発揮します(図-1)。
さらに、スラッジ中に水酸化アルミニウムを含まないため、脱水性が良く短時間で低含水率の脱水ケーキができます。このことにより、経済的に廃棄物の発生を抑制することにつながります。 

トンネル掘削の途中で薬剤をPACからソイルフレッシュに変更しましたが、変更後の処理濁度は、10ppm以下で、PAC処理より安定した処理が可能となりました(図-2)。当現場ではソイルフレッシュの凝集効果が高いため、沈降分離槽において形成されたフロックの沈降速度が速くなり、フロックの浮遊、上昇、越流を防止できたと判断しています(写真-2)。

薬剤の使用量については、PAC添加量平均166ppmに対して、ソイルフレッシュ添加量平均1.5ppmとなり、1/100以下の添加量で同様の濁水を処理することが可能です。また、高分子凝集剤もPAC添加に比べてソイルフレッシュ添加では、約1/2の使用量で処理しました(図-3)。以上のことにより、処理水に含まれる薬剤を低減し、放流河川への影響を低減できたと考えています(写真-3)。 

おわりに

ソイルフレッシュは、材料単価としてはPACに比べ割高(薬剤1kg当り単価は約50倍)ですが、添加量が1/50~1/100となるため薬剤のトータルコストは安価となります。また、凝集効果が優れていることから従来より安定した処理ができ、最終的に廃棄物となる脱水ケーキの含水比低下(約10%減)による減量化にもつながることから、さらなるコストダウンが可能となりました。
今後、同種のトンネル工事への適用事例を増やすことにより、環境への影響低減も配慮した確実で経済的な濁水処理の実現へ向けて取り組んでいきたいと考えています。 

 

工事概要 
工事名称 一般県道浅利渡津線渡津工区社会資本整備総合交付金(改良)
(仮称)江の川トンネル工事 鶴見川遊水地土壌改良工事 
工事場所 島根県江津市松川町太田~渡津町地内 
発注 島根県
施工 (株)鴻池組 
工期 平成24年3月~平成27年3月 
工事内容

トンネル延長 L=1,320m
NATM、 発破掘削、 内空断面積65.2m2
坑門工2基、 舗装工1式、 非常用施設工1式 

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474号(2014年07月01日)