国内初のPCB特別管理産業廃棄物の現地処理が完了

鶴見川遊水地土壌改良工事  

東京本店 工事事務所
柏熊伸治/縁田正美 

はじめに

鶴見川多目的遊水地は、鶴見川下流域の洪水対策を目的とし、国土交通省が、平成6年から工事を進めてきた施設で、その敷地内には日産スタジアム等のスポーツ施設を備えています(写真-1)。この建設工事の過程でポリ塩化ビフェニル(PCB)などの有害物質および異物(木材、プラスチック、がれき等)が混在している土砂(異物混入土)が確認されました。
当時は、サッカーワールドカップの開催を控えており、PCBを含む異物混入土の処理技術が確立されていなかったため、遊水地敷地内に一時保管する対策が平成14年に行われました。
その後、PCBを含む異物混入土の無害化処理技術が確立されたことを受け、平成21年2月に高度技術提案型の入札が行われ、当社の提案した「ジオスチーム法TM1)による無害化処理技術が採用されました2)。その土壌改良工事が平成25年10月に完了しました。 

 

本工事の特徴

工事の実施に当たっては、異物混入土の無害化処理がPCB廃棄物の中間処理に該当するため、現場内に「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に規定されたPCB廃棄物中間処理施設を設置して処理を行う必要がありました。このため、横浜市環境影響評価条例に基づく環境影響評価および施設の設置許可申請を行ない、遊水地の敷地内に処理施設を設置しました。
この施設は、国土交通省が市街地に設置したPCB廃棄物無害化処理施設で、施設の設置許可申請者は関東地方整備局長であり、運転中の施設の管理責任者も国土交通省の職員が担当されました。
本工事は、9,248t(5,828m3)に及ぶPCB廃棄物を、現地で無害化処理した国内で初めての事例です。当社は、本施設の設計・製作、環境影響評価手続き、施設の設置・撤去および無害化処理施設の運転を行いました。
無害化処理に当たっては、写真-2および写真-3に示す現地の異物混入土の性状を考慮した処理設備を新たに製作・設置しました。
また、確実な無害化処理を担保するため、計量証明機関での分析に加え、PCBの現地簡易分析を行うとともに、改質剤を用いた対象物の均質化など各種の新技術を適用しました。 

 

工事工程

本工事の実施工程を図-1に示します。平成21年に受注し、約2年半で設計および環境影響評価を終えています。本工事では、異物混入土の発見から、国土交通省および有識者の委員会が地元住民との対話を行い、情報公開しながら無害化処理方針を決定してきたため3)、実際の申請段階での反対意見はほとんどなく、スムーズに施設設置手続きを行うことができました。
無害化処理開始後、当初想定した重量以上の廃棄物が埋設保管されていたことから、処理期間を延長しましたが、全期間を通じ、ほぼ計画した処理速度(1.2t/h)で無害化処理を完了しました。 

 

情報公開

本工事は、市街地でのPCB廃棄物の無害化処理であったため、周辺住民の方だけではなく、多くの自治体や学識経験者、民間企業の注目を集めました。このため、処理期間中は、情報開示室を設置して、常に情報を公開するとともに、多くの見学者を受け入れました(見学会数101回、見学者数834名)。また、環境影響評価の一連の報告書は横浜市のホームページで全文が公開されており、今後、同種事業の貴重な参考事例になるものと考えています。
 

おわりに

写真-4に工事完了後の状況を示します。当社は、これまで、和歌山県橋本市での高濃度ダイオキシン類汚染物、汚染土壌の現地無害化処理4)、大阪府能勢町のダイオキシン類汚染土壌の現地無害化処理5)、PCB汚染土壌の拠点型処理施設6)など、PCBやダイオキシン類をはじめとする難分解物の無害化処理に積極的に取り組んできました。
今後も、同様の処理を通じて、難分解性物質に汚染された環境の回復に取り組んでまいります。 

 

参考文献
1)ジオスチーム法によるPCB汚染土壌の浄化:中島他、鴻池組技術研究報告、2007、pp19-24
 ※ ジオスチームは(株)東芝の登録商標です。
2)国内初、PCB特別管理産業廃棄物の現地処理:永塚他、ET465号(2012/4/1)
3)国土交通省 京浜河川事務所HP:土壌処理について:http://www.ktr.mlit.go.jp/keihin/keihin_index065.html
4)日本工業所に係る不適正施設等除去-ジオメルト工法によるダイオキシン類汚染物処理を開始:安福敏明、ET330号(2001/6/15)
5)TPS+ジオメルト工法によるダイオキシン類汚染土壌の浄化:大石啓史、ET431号(2007/6/1)
6)国内初の拠点型PCB汚染土壌処理施設稼働開始:西村良平、ET434号(2007/9/1) 

 

工事概要 
工事名称 鶴見川遊水地土壌改良工事 
入札方式 総合評価落札方式(高度技術提案型(Ⅲ型)) 
発注 国土交通省関東地方整備局 
施工 (株)鴻池組 横浜支店 
工事内容

工事の種類
 廃棄物処理施設の建設(第1分類事業:産業廃棄物処理施設の新設)

 及びPCB産業廃棄物の現地処理(国土交通省の自ら処理)
工事の場所
 横浜市港北区小机町及び鳥山町地先
工事の規模
 事業実施区域  約40,000m2
 敷地面積      約10,000m2
 建築面積      約3,300m2
 処理対象物   異物混入土(PCB特別管理産業廃棄物) 5,828m3
工事期間
 環境影響評価       平成21年3月~平成25年10月
 施設の設計・建設    平成21年3月~平成24年1月
 処理の実施         平成24年2月~平成25年 6月
 施設の解体・撤去    平成25年7月~平成25年10月

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472号(2014年01月01日)