張弦梁構造による大屋根の施工

いちき串木野市総合体育館  

南九州支店 建築部
上原 健一 

はじめに

平成25年10月、いちき串木野市総合体育館がオープンしました(写真-1、2)。南九州自動車道の串木野ICに程近いアクセス良好な地にある総合運動公園の中に配置されています。その公園には多目的グランドやテニスコートなどがあり、また周辺にサッカーの全国大会では常連である神村学園のサッカー場があり、その中に市のスポーツ拠点として当総合体育館は建設されました。
当建物は、いちき串木野市の長年の構想に基づいて、市の象徴である「マグロ」をモチーフに「流線型」をテーマとして設計されています。ここでは、大屋根に採用された張弦梁構造による鉄骨工事を紹介します。
 

 

建物の概要と特徴

1、2階部分はSRC造、大屋根部分とエントランス部分はS造で構成され、外観はスポーツの力強さと流れるような躍動感を表現するため、外壁にはコンクリート打放し、大屋根にはステンレス屋根を採用し、耐久性に優れた市民に永く愛されるデザインとなっています(写真-2)。
アリーナは、国際大会基準のバレーボール公式試合に対応した天井高さ12.5mのセンターコートをはじめ、バスケットボール、バトミントン、剣道など多彩な競技種目に対応できる計画となっています。また、多目的な市民イベントにも対応するため、LED大型ビジョンや音響設備システム、アリーナも含めた全館空調設備も取り入れられ、音楽祭や各種文化イベント等も開催可能な多目的アリーナとして計画されています。
アリーナ以外では、車いす用を含め915席を配置した観覧席、周回式ランニングロードや卓球スペース(多目的スペース)、トレーニングルーム等のスポーツ機能、医務室や託児室、更衣シャワー室等の利用者サポート機能が、アリーナを中心に利用者の動線を考慮して配置されています(図-1、写真-3)。
 

 

張弦梁構造による大屋根の施工

○張弦梁の特徴
曲げ剛性を持つ梁と引張材(ケーブル等)とが、束柱を介して結合したハイブリット構造(混合構造)で、特徴として鉄骨材の軽量化、かつ構造安全性が高い大屋根が構築でき、デザイン性にも富んだ大空間を演出することができます。
当建物は、最大36mの張弦梁をV型支柱とバックステイ柱で支えており、張弦梁を全て露出させて大空間を演出しています。そのため設計段階で、張弦梁以外の梁へのスラスト(水平方向への反力)を減少させ鉄骨材を均一化させるため、地組工法にて構造検討し施工時の応力状態も考慮した構造計画が採用されています。
○施工時の解析
ロッドやケーブルなどを主構造部材として使用したテンション構造は、「張力導入の方法」「張力導入のタイミング」により建物完成時の応力状態が変わる場合があるため、施工の各段階における状態を事前につかむための解析を行うことが重要となります。


①フローチャートの作成
・ 屋根架構施工時のフローチャートを作成し、ステップ毎に施工時解析を行う(図-2)。 

②各ステップでの施工時解析
・ 前ステップでの応力と変形を考慮した解析を行う。一例として張弦梁建方(Step3)時の解析例を示す(図-3)。 

③解析モデル図
・ 各ステップの施工時解析を組合せた解析モデル図を作成する。地組(Step1)から小梁・ブレース取付(Step4)までのモデル図を示す(図-4)。 

④施工時解析の結果
・ 施工時解析では、完成時のケーブル張力が設計値とほぼ同じになるように設定する。
・ 各ステップでの応力状態と変位を把握し、施工途中の管理目標値を設定して施工する。これにより、施工途中での異常の有無が確認でき、異常発生時には早期発見による対処が可能になる。
・ 各部位にかかる応力や変位量がわかるので支保工計画や建方計画に反映でき、安全でスムーズな施工が可能になる。
○施工状況
以上の施工時解析結果に基づいて、各ステップの施工は安全に進められました(写真-4)。 

 

おわりに

着工当初から様々な技術検討を行うことにより、張弦梁構造による大屋根の鉄骨工事を予定通り2ヶ月で完了し、次の工程へスムーズに進むことができました。当工事での施工経験を今後の類似工事の計画や管理に活かしたいと考えます。
市民の皆様の悲願であったこの総合体育館が、今後、スポーツの拠点として末永く愛され、開放的な大屋根の下で様々な競技やイベントが行われることを願っています。
 

工事概要 
工事名称 いちき串木野市総合体育館建設工事 
工事場所  鹿児島県いちき串木野市生福 
発注  いちき串木野市 
設計・監理 ・ (株)日本設計 九州支社
施工 鴻池・渡辺 特定建設工事共同企業体 
工期

平成24年10月~平成25年9月 

工事概要

S RC造+S造(屋根)、地上2階
建築面積 6,567.26m2
延床面積 6,854.24m2
 26m2
 
 

本誌掲載記事に関するお問い合わせは、経営管理本部 経営企画部CSR・広報課までお願いします。なお、記事の無断転載はご遠慮ください。    

472号(2014年01月01日)