景観対策と見せる現場づくりに配慮した地下鉄建設

中之島新線

大阪本店 工事事務所
樋口昌典

はじめに

中之島新線建設工事は、平成15年5月の着工から5年有余を経て昨年10月19日に開業しました。
中之島線は、京阪本線天満橋駅から分岐し地下鉄堺筋線、御堂筋線、四つ橋線と交差しながら中之島を貫く、延長約2.9kmの地下鉄工事です。当社JVは、始点となる延長334mの中之島駅を開削工法で施工しました(図-1)。

イメージアップ

着工以来、中之島新線事業は全体として、環境保全をキーワードに「人と工事現場を遮るのでは なく融合させる」市民協力参加型の新たな工事スタイルに取り組みました。当現場は、「第三者に見せる現場づくり」を目指し、「水と緑と光」をテーマにイメージアップの具体化を図りました(ET397号参照)。話題性の提供として新聞紙上にも取り上げられ、集客性の向上や中之島新線の認知度の向上にも寄与 できました(写真-1)。
また、工事期間中は、国内外から大勢の視察団や見学者を迎え、延べ3万人を超える方々が来場されました(写真-2)。

高精度土留壁の施工と産廃汚泥処分量の減量化

土留壁工法は盤膨れ防止対策として(削孔長さが40m以上の大深度施工となったため)SMW工法を採用しました。また、新規開発されたUD-HOMET工法を採用しました。
UD-HOMET工法は、

  1. 攪拌翼の先端部が駆動するため、モータートルクが減衰しないことから、大深度施工が可能
  2. 地上から貫通した固定軸を使用した連続計測により、掘削精度が向上
  3. 各軸を個別に回転制御できるため掘削施工中に変位修正が可能

などの特徴を有し、杭先端部で1/200以上の削孔精度を確保することができました(図-2、写真-3)。

また、ソイルセメントの流動化剤としてベントナイトの代わりに[アロンソイル]を用いる「ECO-MW工法」を併用しました。土粒子に対する高い分散性とソイルセメントの流動性と強度を効果的に高めることで、セメントミルク使用量を抑制しました。建設汚泥の発生量は、単軸の先行削孔方式による従来工法に比べ、約60%に低減できました。

高品質躯体コンクリートへの取り組み

躯体コンクリートについては、ひび割れの発生低減と耐久性に優れた構造物の提供を目指しました。まず、ひび割れ指数1.45以上、最大ひび割れ幅 0.25㎜以下を目標に温度応力解析を行いました。解析は2次元有限要素法による非定常温度解析およびCP法による応力解析(図-3)を行い、ひび割れ指 数を算出して評価した結果、低熱セメントの採用と側壁に5mごとの誘発目地(写真-4)を設けることで対応しました。誘発目地設置個所以外では、ひび割れの発生を確認できない程度の仕上がりが確保できました。
構内湧水を極力低減するため、躯体側面の先防水部には接着性防水シート(エバブリッド)(写真-5)を採用しました。当シートはセメント成分と化学的に 接着することを特徴としたもので、その接着効果により防水材料とモルタル境界面への水の浸透が抑制されることから、防水材料に欠陥が生じた場合でも、高い防水性能が確保できます。

都心の地下で癒しとおもてなしを演出する駅空間

中之島線の各駅は、すべてのコンコースに「木(無垢)」と水を象徴する「ガラス」を統一して採用しています。
中之島線の始点となる中之島駅については、大阪国際会議場、リーガロイヤルホテルなど大阪の国際都市としての機能が集中するエリアです。そのため、木洩 れ日を感じるコンコースデザイン(写真-6)に基づき、地下駅では初めての試みとしてホーム対向壁やコンコースの一部に不燃加工を施したカナダ産のレッドシダー(ヒノキの一種)が採用(写真-7)されました。また、グラデーションを施した波型のガラス壁面は「水都」を表現しています。

おわりに

中之島線の開通により、大阪中之島の東西交通アクセスの飛躍的な向上や京都の都心部や洛北とも直結することで、関西全域の交通ネットワークの充実が図られました。一方、中之島地区は大規模再開発や水都復活を目指す数々のプロジェクトが動き始めています。当工区は最終復旧形態として堂島川の河川空間を利用した堂島川賑わい空間創出事業が計画されており、「水都再生」へ向けた動きが本格的に動き出しています。

工事概要
工事名称 中之島新線建設工事のうち土木工事(第1工区)
工事場所 大阪市北区中之島5丁目
発注 中之島高速鉄道(株)
管理 京阪電気鉄道(株)
施工 鴻池組・清水建設・大本組共同企業体
工期 平成15年3月~平成21年8月
工事内容 中之島駅部 工事延長334m(開削工法)
RCボックスラーメン構造(2層2径間~2層3径間)
付帯工事(躯体内装)
出入口
換気口工事
復旧工事
関連工事
工事名称 中之島駅連絡通路工事
工事場所 大阪市北区中之島5丁目
発注 (株)ロイヤルホテル
設計 (株)安井建築設計事務所
施工 鴻池組・清水建設・大本組共同企業体
工期 平成19年11月~平成20年9月
工事内容 中之島駅連絡通路 一式

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451号(2009年02月01日)