アーチカルバートのひび割れ対策について
第二東名豊川
名古屋支店 工事事務所 小嶋貴久
/ 前田聖士
はじめに
新東名高速道路(第二東名高速道路から名称変更)は、神奈川県海老名南JCTから愛知県豊田東JCTに至る総延長約255kmの高速道路です。新名神高 速道路とともに、東京・名古屋・大阪を結ぶ日本の「新しい大動脈」として期待され、2020年の全線開通を目指して建設が進められており、当工事は愛知県 豊川市内で延長1.3kmの施工をしています。4ヵ所ある本線横断構造物のうち、延長約172mのアーチカルバートは、水路と林道を併設する内空断面を有し、最大土被りが約30.0mと大きいため、高さ20.3m、幅15.0mの巨大な馬蹄形状となっています。本号では、底版部が2.5~4.5m、アーチ 部が約1.6~2.4mの部材厚を有するアーチカルバートのマスコンクリートとしてのひび割れ対策を紹介します。
図-1 位置図 |
図-2 平面図 |
コンクリートのひび割れ対策
本工事で施工するアーチカルバートは、アーチ上部については厚さ160.0cm、下端が拘束された壁では厚さ243.8cm、底版部が2.5~4.5m であり、それぞれがマスコンクリートであるため、セメントの水和熱に起因した温度応力によるひび割れの発生が懸念されます。このような温度応力に起因する ひび割れには、コンクリートの表面と内部の温度差から生じる内部拘束作用によって発生する応力により、初期の段階に発生する表面ひび割れと、新コンクリート全体の温度が降下するときの収縮変形が既設のコンクリートや岩盤などによって外部拘束されて生じる引張応力により、材齢がある程度進んだ後に発生する貫通ひび割れがあります。ここでは、施工段階における温度応力によるひび割れをコンクリートの温度応力解析でシミュレーションし、本構造物のひび割れ抑制対 策を検討しました。図-4および図-5に解析結果の一例を示します。
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図-3 アーチカルバート図 |
図-4 コンクリート温度履歴図(一例) |
図-5 コンクリート応力経時変化図(一例) |
(1)底版部のひび割れ対策
底版は内部拘束作用が卓越しており早期に型枠を脱型した場合、表面の温度が急に降下して躯体表面部分に引張応力が発生し、ひび割れが発生する可能性があります。表面の急激な温度変化を防止し、ひび割れを抑制するために以下に示す養生を行いました。
1. 側面:合板型枠を用い14日以上存置(妻部に関しては工程上、所定強度の発現が確認できた時点で脱型するが、上記の期間中はエアーマットを設置)。
2. 上面:湛水+養生マットで14日以上の養生。
温度応力解析にてシミュレーションした結果、標準的な養生の場合と比べ発生引張応力を経過日数100日で0.2N/mm2低減することができました。
(2)アーチ部のひび割れ対策
アーチは底版およびアーチ1ロットの既打設コンクリートの外部拘束作用による引張応力が卓越しており、壁下端から鉛直方向にひび割れが発生する可能性が あります。ひび割れの発生原因であるコンクリート温度上昇を小さくし、ひび割れを抑制するために以下の通り対策を行いました。
1. 高性能AE減水剤を使用して単位セメント量を低減(表-1)。
表-1 コンクリートの配合 |
2. 養生期間については10℃以上で7日間、外側(散水)・内側(散水養生台車)とも湿潤状態を保つ。
温度応力解析にてシミュレーションした結果、断面中央部における温度上昇をピーク時で1.7℃低くすることができ、発生引張応力を経過日数100日で0.2N/mm2低減することができました。
(3)施工順序
施工場所に用地未解決部分があり、底版部の施工が先行できなかったためセントルを2基投入し、1号機を先行部分施工、2号機を中埋施工(写真-1)として工期短縮を図っています。また、アーチ部の鉄筋径がD19からD38と太く、鉄筋量が1スパン当たり約45tあるためインセントル先行の従来工法にて施工しています。
![]() 写真-1 アーチカルバート全景(●先行●中埋) |
![]() 写真-2 アーチカルバート正面 |
(4)打設量とスパン割
当工区は、地元協議に基づく工事用車両の通行時間(8:00から17:00)の制約があり、1日当たりのコンクリート打設数量が制限されたため、アーチカルバートについては1日当たりのコンクリート打設数量を底版部360m3/日、アーチ部200m3/ 日と設定しました。これらのコンクリートの打設数量を満足するように、アーチ部を上下分割し、スパン長を先行部分6.1m、中埋部分8.3mと短くしました。スパン長を短くすることで、既設のコンクリートや岩盤などによって外部拘束されて生ずる引張応力が減少する方向に働き、ひび割れ抑制効果が期待できます。
おわりに
これらの対策を講ずることにより、0.2mm以上の有害な温度ひび割れは発生しておらず、対策の有効性を確認することができました。平成20年4月中旬 からアーチ部の施工を開始し、施工サイクルの短縮、品質の確保を図りながら、平成22年4月の完成めざし施工しています。当工事の施工実績が同種工事の品 質管理計画の参考になれば幸いです。
工事名称 | 第二東名高速道路 豊川工事 |
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工事場所 | 愛知県豊川市上長山町地内 |
発注 | 中日本高速道路(株)名古屋支社 |
施工 | (株)鴻池組 |
工期 | 平成18年10月~平成22年4月 |
工事内容 |
工事延長:1,300m のり面工:35,000m アーチカルバート:1基 付替道路:572m 調整池:1式 道路掘削:210,000m3 カルバートボックス:2基 扶壁式擁壁工:70m 付替水路:455m |
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