自然環境と調和した工場の計画

協同工芸社ひょうご東条工場

大阪本店　建築設計部
奥村 朋孝

はじめに

2008年3月シール（ラベル）印刷加工関連の事業を展開する（株）協同工芸社の新工場ひょうご東条工場が竣工を迎えました。この建物は、応募4社による設計プロポーザルの結果、当社が受注しました（写真-1）。
敷地は兵庫県加東市内の旧東条町、中国自動車道ひょうご東条インターチェンジからのアクセスタイムゼロを実現した「ひょうご東条ニュータウンインターパーク」の工場用地の一画にあります（図-1）。不整形な敷地形状の上、法面や残置森林が多く、工場用地としては非常に不利な条件ながら、背後には自然池や自然林が広がり、眺望に恵まれた非常に特徴のある場所でした。
普通に四角い建物はつまらない、面白い工場が出来る可能性を感じてこの土地を購入した発注者からは、敷地特性を最大限に活かしたアピール性の高い建物が要求されました。

写真-1　建物全景

図-1 位置図

設計のポイント

プロポーザルでは、「人を魅了する存在」をキーコンセプトとした上で、風景のデザインを主眼に置き、活かすべき風景と隠すべき風景を建物配置と形状によりコントロールしながら、建物自体も周囲の景観に存在感と調和をもたらすデザインとしたことが評価されました。

（1）訪れる人を魅了する

自然樹林を借景とし、L型に配置した建物により周辺建物の存在を消去することで、この工場だけの自然の景色を切り取り、芝生のオープンスペースや水盤と一体となった内なる風景を生み出しました（図-2）。インターパークを一望する丘の上に配した車寄せから、この風景を巡るように工場見学者の動線、諸室を配置することで、恵まれた環境をアピールしています（写真-2、3）。

写真-2　大庇をもつ車寄せ

写真-3　応接室

（2）働く人を魅了する

生産部門は、動線と物品の流れに沿った諸室配置や、充分な広さを確保することで高品質な製品づくりと生産効率のアップを図るとともに、自然の風景が広がる食堂（写真-4）、芝生広場から自然池を巡る遊歩道やデッキテラスをもつ保養棟を整備するなど、従業員にとって快適で誇りをもてる生産環境を提供しています（写真-5）。

写真-4　従業員食堂（2階）

写真-5　芝生広場の風景

（3）地域の人を魅了する

インターパークの玄関口、幹線道路に対し、工場然としない大きな構えを前面に押し出すことで存在感を強調し、自然の木立と呼応するように大きく弧を描く外壁と庇のライン、風合いのある割肌タイルの色彩により景観との調和を図りました。緑と花に彩られた丘、自然林とともに魅力的な風景を生み出しています（写真-1）。

木製ユニット建築・j.Podを保養棟に採用

京都大学を中心に当社が開発に加わった木製ユニット建築＝j.Pod（ET403、409号参照）は、当社では京都大学での3物件の施工実績がありますが、このたび民間建築として初めて保養棟に採用しました。
今後、ゲストハウスや従業員の憩いの場所として利用される予定です（写真-6、7）。

写真-6　保養棟リブフレーム建方

写真-7　保養棟内部

設備システム

印刷作業室は、インクの粘度維持と原紙の帯電防止のため、室温約25℃、湿度約50％を常に保つ必要があります。印刷機械本体の排気風量が大きい条件下でこの温湿度条件をクリアするため、外調機による温度調節を行った新鮮空気を供給する他、熱源となる印刷機械紫外線発生器のダクトの室内露出部分を少なくし、局所排気を行うことで空調効率を高めています。また、印刷機械の排気量の変動に対し、給気量をインバーター制御して室内を正圧に保つことにより、隣室からの虫や埃の流入を抑制し、高品質な製品生産を可能にしています。

避難安全検証法による設備合理化

当工場の設計に当たっては、1階について階避難安全検証法（ルートB）によって安全性を確認することにより、排煙設備および防煙区画の免除を受けています。これによりクリーンルーム部分の機械排煙設備や非常用発電機を不要にする他、他の室の排煙窓をなくすことで合理化を図りました。また、開口部の削減は、虫の侵入防止という工場の要件にも寄与しています。

おわりに

自然を取り込むことは、潤いと癒しを生み出しますが、維持管理という面で見れば大きな労力を要することも事実であり、発注者の理解なしには実現できないものです。既に増築棟建設の構想もありますが、今回生まれた“内なる風景”は、これからも守られていくことでしょう。

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444号（2008年07月01日）