実建物による連結制振構法の検証

旧鴻池ビル

技術研究所 井川 望

はじめに

振動性状の異なる隣接する建物をエネルギー吸収能力を持った部材で連結し、互いの振動を制御する連結制振は地震に対して効果的な構法であり、当社では数例の施工実績があります。今回、隣接する複数の建物をオイルダンパーで連結した建物の解体にあたり、連結制振効果の確認を目的に振動実験を行いました。以下に実験の概要と結果を紹介します。

検討対象建物

大阪市に立地する旧鴻池ビルは、9~12階の4棟からなる事務所ビルです。1995年の兵庫県南部地震(大阪で震度IVを記録)後、棟間にオイルダンパーが設置され、ダンパーのエネルギー吸収により耐震性能を向上させ、また、建物同士の衝突を防いでいます。建物配置図と断面図を図-1に、建物概要、ダンパーの設置状況を表-1、表-2に示します。

実験概要

実験対象は12階建てのA棟と9階建てのB棟とし、解体開始直後の時期に実験を行いました。急速開放油圧ジャッキ(最大荷重1800kN、ストローク150mm)3台を9階床レベルの建物間に設置し、押し広げた後、急速に除荷し、建物を自由振動させました。ダンパーの取り付けられた状態と取り外した状態で実験を行い、実験結果を比較することにより、ダンパーの効果を確認しました。実験では、建物屋上などで絶対加速度、相対変位を測定しました。

実験結果

ダンパーの取り付けられた状態とダンパーを取り外した状態について、A棟-B棟の棟間変位、A棟、B棟の加速度を図-2に示します。全てA棟10階床、B棟屋上床レベル(建物中央付近)の加力方向のものです。なお、ダンパーの有無にかかわらず、建物は幾分ねじれが生じており端部では最大27mm程度の棟間 変形が生じました。また、B棟では除荷直後に200cm/s2を超える加速度が発生しました。ダンパーを取り外した場合と比べダンパーが取り付けられている場合、棟間変位、加速度とも振幅が早く減衰していることが分かります。加速度では、特にB棟にお いて減衰が大きくなっています。B棟ではダンパーを取り外した状態では9%である減衰が、ダンパーが取り付けられることにより13%に増大しています。A棟においても4秒付近でダンパーが取り付けられている場合の振幅はダンパーを取り外した場合の振幅の70%程度に低減されています。

実験結果の検証

耐震改修時に、各館ごとに各階を1質点としたモデルにより時刻歴解析が行われています。この時の解析モデルをもとに、実験結果について数値解析を行いました。今回の解析ではA棟とB棟の加力方向について検討しました。まず、ダンパーを取り外した状態での解析を行い、モデルを修正し、実験結果と一致するモデルを作成しました。次に、ダンパーの解析モデルを建物間に追加し解析を行いました。ダンパーが取り付けられている状態での解析結果を実験結果とともに図-3に示します。解析結果は実験結果とよく一致しており、解析モデルの妥当性が検証されました。

おわりに

複数の建物をダンパーで連結した建物で強制振動実験を行い、実建物による連結制振効果の確認を行いました。その結果、ダンパーで連結することにより振幅が 急速に低下することが確認されました。また、解析結果ともよく一致し、設計法の妥当性が検証され、ダンパーは設計どおりに性能を発揮していたものと考えら れます。
この建物では耐震改修後地震観測を行っており、多くの記録が得られています。今回の実験結果をもとに地震時についての解析を行い、地震時のダンパーの効果についても検討を行う予定です。また、建物に設置されていたオイルダンパーの一部を回収し、出荷時と同じ条件で振動試験などの検査を行い、性能確認を行う予定です。
今回のような実建物による振動実験の機会は少なく、複数の建物による連結制振やアウトフレーム連結制振の今後の設計・施工に当たり、貴重なデータを得ることができました。

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442号(2008年05月01日)