厳寒地における寒中コンクリート工事

モンゴル東部道路

海外事業部 芝本 学

はじめに

本工事は、東西道路網が整備されていない各県を道路で結び、輸送効率、工業・サービスの促進、さらに地域開発による地方の生活向上を目的としたミレニアム道路計画の一部です。モンゴル国側が独自に実施するには技術的・資金的に困難な長大橋梁を含む2工区(約53km)の道路整備を日本国の無償資金協力で実施するものです(図-1)。

気候条件

モンゴル国の自然環境の特徴は、緯度および標高が高いために厳寒期が長く、また内陸地であるために降水量が少ないことです。本工事場所であるモンゴル東部は、平均気温が0℃を上回る期間は、4~10月と限られており(図-2)、土工、舗装工、現場でのコンクリート打設工など施工に大きな影響を与えます。また、厳寒期には最低気温が-40℃に達することもあります。本号ではこのような厳寒地における寒中コンクリート工事について紹介します。

配合設計の変更

配合設計上考慮すべき事項は、(1)低温下でのコンクリート打設による凝結や硬化の遅延、(2)硬化後の凍害、特にスケーリング対策、(3)モンゴル産骨 材の品質のばらつきでした。まず、強度発現促進および強度確保のために、単位セメント量を増加することで目標強度を30N/mm2に設定(設計基準強度24N/mm2) しました。次に、凍害対策として空気量4~6%のAEコンクリートとしました。また、スケーリング対策として、減水剤を使用して水セメント比を43%に低減し緻密化を図りました。なお、セメント量は、(3)を考慮して骨材量を抑え気味に設定しました。配合を表-1に示します。

養生方法

養生温度は10℃程度、養生期間は10日間と設定しました(圧縮強度確認後養生終了)。また、外気温が日中でも-20℃を下回るため、材料の貯蔵・コンクリート練混ぜ・養生、すべて養生上屋(写真-1、2)を設置して行うことにしました。養生上屋内部には石炭ストーブを設置し、養生温度である10℃前後に 室温を保つようにしました。養生上屋は費用が増大するとともに、資材の搬出入に手間がかかり、工程にも影響が大きいのですが、作業環境が良くなり労働者の 作業能率を上げることができました。ちなみに、コンクリートが-20℃の外気にふれた場合、約25分で練混ぜ温度20℃のコンクリート表面の凍結が目視で きます。

材料の貯蔵

材料は打設必要数量を数日前に養生上屋に搬入し貯蔵しました。外気では骨材温度が-20℃以下まで下がりますが、10℃の養生上屋内で3日間貯蔵することにより0℃まで上昇しました。

練混ぜ水の加熱

厳寒期の川は凍結し使用できない(地表面-3mはすべて凍結)ため、井戸からタンクに汲み上げた水を電熱線を利用して約40℃に加熱し、練混ぜ水として使用しました。熱効率を上げるため、タンクは発泡スチロールの蓋を使用し、フェルトで被い地中に埋め込みました。

コンクリートの練混ぜ

練混ぜ水は、大型タンク(15m3)から小型タンク(200L)への圧送時に熱損失が発生します。当現場では、練混ぜ水(25℃~35℃)+骨材(-5℃~5℃)+セメント(-5℃~0℃)=練上がりコンクリート(6℃~12℃)でした。なお、コンクリートの打ち込みは、クレーン等を使用すると開口部を必要とし外気にさらされるため、すべて人力にて行える方法にしました(写真-3)。

加熱養生

養生上屋材料は熱損失係数、入手容易さ、費用等を考慮し、平板・フェルト・ポリフィルム構造としました。空気の加熱には、石炭ストーブを使用(熱量算定により台数を決定)し、空気容積は加熱費に大きく影響するのでできるだけ少なくしました。養生上屋は仮設物のために上下の温度差が生じやすいため、温度管理 は表面付近、スラブ付近、天井面の3カ所で行いました。コンクリート表面および周囲の空気を温めるため、赤外線ランプによる輻射加熱養生を補助的に行いました(図-3)。

養生温度

当初、平板+フェルトを養生材料としていましたが、隙間風が止まらないため、外部に厚手のポリフィルムを追加しました。これにより内部温度が外気温の影響を受けにくくなりました(図-4)。

モンゴル国の厳寒期施工状況

初期強度を高めるために大量の塩化物をコンクリートに混入する方法がよく見られます。この方法は旧ソ連で行われてきた方法ですが、無筋コンクリートやマスコンクリートの場合のみ利用可能といわれています。また、養生方法としてコンクリートの内部または表面に極板、線などを配置して通電する内部通電養生なども行われています。しかし、この方法は配線が複雑になり、断線したりするおそれもあるので信頼性の高い方法ではありません。

おわりに

昨年12月20日に日平均気温-20℃の中、コンクリートを打設し、型枠脱型まで無事完了しました。この事例が類似工事の参考になれば幸いです。

工事概要
工事名称 東部幹線道路建設計画(第2期)
工事場所 モンゴル国ウランバートル市バガヌール地区およびウンドラハ市外
発注 モンゴル国 道路運輸観光省
施工 (株)鴻池組
工期 平成18年9月~平成22年3月
工事内容

道路補修 16.057km(W=7.6m)

新設道路 35.714km(W=7.6m)

橋梁 4カ所

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442号(2008年05月01日)