急勾配レール工法における安全対策

桃原トンネル

大阪本店 工事事務所 三浦邦武
/ 森山祐三

はじめに

本工事は、図-1に示すように高知県の高知三波川(さんばがわ)帯地区において、抜本的な地滑り防止対策のひとつとして排水トンネルを設置した後、トンネル内から集水ボーリングを実施するものです(写真-1)。
レール工法によるトンネル掘削にあたり、勾配が50‰(50/1000)と大きいことや、仮設基地が構台上の狭隘な場所であることから、バッテリー機関車の逸走による重大事故が懸念されたため、さまざまな安全対策を行いましたので紹介します。

施工概要

トンネル延長は463mであり、坑口から239mのアクセス部が50‰、その後224mの集水部が5‰であり、それぞれ上り勾配です。坑外部の仮設ヤードは幅9m、延長28mの構台部分からなり、構台端部の高低差は最大で16mあります。ズリは構台から下方へ落とします(図-2、写真-2)。

安全上の問題点

機関車の選定

急勾配に適する機関車としては、50‰以内であればサーボ制御式が採用されます。サーボ制御式は、負荷、勾配の変化に関わらず一定速度での走行が可能であるなどの特徴を有します。当初、6tサーボ機関車を計画していましたが、機関車の牽引能力と制動距離、および施工ヤード上確保できる停止距離を考慮し、最終的に8tサーボ機関車を採用しました。

自動停止装置の設置(写真-3)

坑口より15m入った地点にセンサーを設置し、自動的に一旦停止するようにしました。これは作業員の不注意による暴走も防ぐことができます。また、再発進して構台上を走行する場合、最高速を3km/hに制御することにより、分岐部分での脱線防止にも役立ちました。

 

トラックブレーキの採用(写真-4)

サーボ制御式機関車には、非常用としてトラックブレーキ(機関車本体を磁気によりレールに吸着させる)を装備しています。今回は、設定速度を超えて逸走を始めた場合に自動的にトラックブレーキが働くようにしました。

 

 

エンドストッパーに油圧吸収ダンパーの取り付け(写真-5)

エンドストッパーへの衝突時の構台への衝撃を最小限に抑えるために、油圧式の衝撃吸収ダンパーを取り付けました。12km/h程度で衝突しても耐えられる規格としました。

 

その他の安全対策

坑内は湿度が高く、レール面が錆びやすくなります。錆は摩擦抵抗を低下させるため、機関車逸走の原因となります。そこで、機関車の前後にワイヤーブラシによるレールスイーパーを取り付け、走行時に常にレール面を清掃するようにしました(写真-6)。その他、滑り止め用として砂(珪砂)やアルミナ(アルミの粉)を坑内に設置し、緊急時に使用できるようにしました。

 

おわりに

近年、サーボ制御式機関車が普及したことにより、50‰という急勾配のレール工法が増えています。今回、さまざまな安全対策を施すことにより無事掘削を完了することができました。この事例が今後の急勾配レール工法の参考になれば幸いです。

 

工事概要
工事名称 桃原区域(C-1)排水トンネル建設工事
工事場所 高知県長岡郡大豊町桃原地内
発注 農林水産省 中国四国農政局
施工 (株)鴻池組
工期 平成17年12月~平成20年3月
工事内容 排水トンネル工 462.8m(掘削断面 9.6m2 仕上断面 6.4m2 )
法面工 ワイヤーロープネット 1,733m2
仮設道路工 幅3m 延長 156m
ジオテキスタイル 590.4m2 排水工 舗装工一式
その他の仮設 構台工 291m2

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439号(2008年02月01日)