技術広報誌ET

技術広報誌ET 2022年発刊号

明治末に建てられた旧本店が登録有形文化財(建造物)に登録

506号(2022年7月1日) 鴻池組旧本店(洋館・和館) 建築事業総轄本部 技術統括部 岩下 智

はじめに

鴻池組の創業の地である北伝法(現・大阪市此花区伝法)に創業者である鴻池忠治郎によって建てられたのが、鴻池組旧本店です。洋館と和館が連接するかたちの建物で、扉一枚を隔てて行き来ができるという特徴があります。
両館は1910(明治43)年に竣工し、洋館は4年後の1914(大正3)年に、セセッション様式の外装、2階応接室はアール・ヌーヴォー様式へと改修されました。なお、洋館は1968(昭和43)年まで本店として使用されていました。
この度、この鴻池組旧本店(洋館・和館)が国の登録有形文化財(建造物)として登録されましたので、建物の特徴および建築に携わった3人の匠を紹介します。

洋館の特徴

木造2階建てでスレート葺きの屋根、モルタル塗りの外壁にタイルによるボーダーラインを巡らせ、大正期に流行したセセッション様式の特徴を有し(写真-1)、2階応接室は暖炉や調度品、壁や天井など部屋全体の装飾がアール・ヌーヴォー様式となっています(写真-3)。また、玄関ホールには孔雀と薔薇をモチーフにしたステンドグラス(写真-4)、天井にはキューピットの彫刻が配されています。

写真-1 洋館北面

写真-1 洋館北面

写真-3 2階応接室

写真-3 2階応接室

写真-4 玄関ホールのステンドグラス

写真-4 玄関ホールのステンドグラス

和館の特徴

木造2階建てで屋根は瓦葺き。道路に面した1階北側は、出格子・大戸を構えた大阪の伝統的な町家の表構えで、2階は軒下を漆喰で塗り込めて格子窓を開き、両端には袖卯建(そでうだつ)が立っています(写真-2)。建物の南側には浜座敷が配され、数寄屋の意匠が採り入れられています。また、多くの欄間に透かし彫りや丸彫りが施されています(写真-5、6)。

写真-2 和館北面

写真-2 和館北面

写真-5 2階座敷

写真-5 2階座敷

写真-6 鳳凰の透かし彫り欄間

写真-6 鳳凰の透かし彫り欄間

建築に携わった三人の匠

一人目の匠は、建物の設計を行った住友本店臨時建築部より招聘の技師・久保田小三郎です。小三郎は建築家・辰野金吾に師事し、日本銀行本店をはじめ図書館や学校の建築に携わり、アール・ヌーヴォーの館として有名な旧松本健次郎邸(国・重要文化財)の工事監督および和館設計を務めています。
二人目の匠は、洋館応接室の調度品等や和館の欄間などを刻んだ、彫刻家・相原雲楽です。雲楽は彫刻家・高村光雲に弟子入りした後、住友家に認められて住友本家および別邸、中之島図書館、住友銀行、旧松本健次郎邸、大阪倶楽部などに数多くの作品を残しています。
三人目の匠は、玄関ホールの鮮やかなステンドグラスを制作した木内真太郎です。真太郎は日本最初のステンドグラス作家・宇野澤辰雄の弟子として学んだ後、大阪で独立し旧松本健次郎邸や三木楽器など鴻池組が施工した多くの建物にステンドグラスを残しています。

おわりに

鴻池組旧本店は、セセッションおよびアール・ヌーヴォー様式を伝える貴重な建物として評価され、登録有形文化財となりました。この建物の素晴らしさを多くの方々にお伝えするため、見学会の開催や情報発信等に今後も努めてまいります。

鴻池組旧本店 特設サイト

URL:https://www.konoike.co.jp/dempo/

506号(2022年7月1日)の記事

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