技術広報誌ET

技術広報誌ET 2022年発刊号

既設建物を活用した焼却工場の大規模リニューアル

506号(2022年7月1日) 住之江工場更新 大阪本店 工事事務所 中川 博行

はじめに

ごみ処理における様々な問題に対応するため、全国でごみ処理施設の集約化、広域化が進められています。大阪府域においては6つのブロック(北大阪、大阪、東大阪、南河内、堺、泉州)が設定され、大阪市・八尾市・松原市は大阪ブロックに位置付けられています。2015(平成27)年から3市による環境施設組合として事業が開始されました。
この大阪ブロック内にある住之江工場は、大阪市南西部の湾岸部に位置し、1988(昭和63)年7月の竣工から約28年間稼動した後の2015年に老朽化のため稼働を休止し、既設の建物を活用した工場設備の更新を行うことになりました(写真-1)。この事業には、プラント設備の更新・運営を民間事業者に委ねるDBO(Design Build Operate)方式がとられ、㈱タクマを代表企業とする㈱鴻池組、㈱タクマテクノスのグループによる提案が採用されました(図-1)。
ここでは、更新工事全体の流れを紹介すると共に、更新工事に特徴的な技術や施工計画について紹介します。

写真-1 更新前の工場全景

写真-1 更新前の工場全景

図-1 完成予想図

図-1 完成予想図

更新工事の概要

更新工事は、プラント設備の更新工事、既存建屋である本館・増築棟・ランプウェイ等の改修および耐震補強による耐震化や機能向上などを図る工事、これらの工事にあたり必要となる解体工事の3構成となっています(図-2)。また、ごみ処理能力は計画ごみ質の範囲で、既設工場の600t/日(300t/24h×2炉)から400t/日(200t/24h×2炉)に縮小し、ストーカ式焼却炉の更新となります。なお、工事は調査、設計期間を含めると4年半、着工からは3年半の工期となっています(図-3)。

図-2 配置図

図-2 配置図

図-3 概略工程表

図-3 概略工程表

解体・撤去工事

○事前調査
事前調査としてダイオキシン類(DXN)・重金属類の付着物や堆積物の調査、DXNの濃度や総粉じん濃度などの作業環境に関わる調査、さらにアスベストやPCBに関する調査が実施されました。また、工事計画に当たっては追加の調査を実施して管理区域や保護具レベルを設定し、除染方法や解体工法を決定しました。
○プラント設備の除染
プラント設備の除染に当たっては、敷地境界における大気および土壌に含まれるDXN濃度を施工前後で測定し、流出がないかを確認します。また、DXNの流出防止対策として、仮設排水処理設備、負圧集じん機およびクリーンルームを設置し(写真-2)、解体ヤードや解体発生材置場を設けました。
管理区域内の除染作業は、プレ洗浄、機器洗浄の順に行い、高圧洗浄車、高圧吸引車および洗浄ノズルを用いて30MPa/㎠の水圧で汚染物を除去しました(写真-3)。また、除染後にはサンプリング等により、DXNの含有や重金属等溶出について確認しています。

写真-2 クリーンルーム

写真-2 クリーンルーム

写真-3 除染作業状況

写真-3 除染作業状況

○プラント機器の解体
除染後、建物躯体に影響を与えないように、粉じんの飛散防止のため湿潤化しながら、人力または機械にて解体作業を行いました。機械は低騒音型で排ガス規制対応型を用いています。また、アスベスト含有建材は「廃棄物処理施設解体時等の石綿飛散防止対策マニュアル」などに準拠し解体しています。
なお、プラント機器を搬出入するための開口部を建物屋上に設け、開口部には開閉式テントを設置しています。解体工事時は開口部周囲に送風機を設置し、エアーカーテン化することにより開口部からの有害物質の飛散を防止しています(写真-4、5)。

写真-4 上空からみた解体・撤去工事状況

写真-4 上空からみた解体・撤去工事状況

写真-5 屋上の開閉式テント

写真-5 屋上の開閉式テント

○煙突内筒の解体
高さ100mのRC造煙突に内蔵される2本の鋼板製内筒は、解体・更新しています。解体は煙突上部より順次ガス切断し、350tクローラクレーンを用いて地上に設けた解体品小割ヤードに吊り下ろします。なお、内筒の両端部はシートにより密閉養生対策を施し、さらに煙突下部に設けた負圧集じん装置により下向きの気流をつくることで、有害物質の飛散を防止しています(図-4)。

図-4 内筒の解体方法

図-4 内筒の解体方法

既存建屋の補強・改修

○躯体の補強・補修
耐震診断の結果、本館については耐震スリットの増設を行い、増築棟についてはRC袖壁と鉄骨ブレースによる耐震補強を行いました(写真-6)。一部のコンクリート躯体にみられた不具合部分については、不良箇所を撤去して鉄骨や鉄筋を溶接により配置し、コンクリートを再充填しています。その他、炉室等の躯体改修や新たに設置する機器類の基礎や鉄骨架台を構築しました。また、管理棟においては、居室区画の変更、照明や衛生機器の更新、壁・床・天井等の内装更新を行い、工場勤務者や見学者の利便性を高めています。

写真-6 鉄骨ブレースによる耐震補強

写真-6 鉄骨ブレースによる耐震補強

○洗浄・補修・塗装
ごみピット上部の鉄骨については、ごみクレーンの上に設けた足場上から埃や塗膜を洗浄により落とし、塗装を施しました(写真-7)。また、ごみピットのコンクリート躯体については、汚れや脆弱部、クラックや欠損・剥離、機器類の衝突跡があり、全面左官補修しました。プラットホームについては、壁面等の洗浄を行い、床の押さえコンクリートを撤去・更新しました。

写真-7 ごみクレーン上に設置した足場

写真-7 ごみクレーン上に設置した足場

○外壁の改修
外壁の改修は通常の工事と同様に、洗浄、調査・マーキング、補修、塗装の順で行いました。クラック処理は幅が0.3㎜以上の場合は、短繊維混入アクリル樹脂によるJKラビング工法を採用し、浮きにはアンカーピンニング注入工法を採用しています。また、欠損・露筋に対しては、樹脂モルタル充填工法を採用しています。
○ランプウェイ・煙突の改修
ごみ運搬車をプラットホームへ導くランプウェイの建物部分については、RC袖壁と鉄骨による耐震補強を行い、屋根を葺き替えました(写真-8)。また、煙突の改修は4面に一本構タイプのリフトを設置し、洗浄・補修・塗装作業を行いました。リフト同士は接続しての使用も可能となっています(写真-9)。

写真-8 補強工事中のランプウェイ

写真-8 補強工事中のランプウェイ

写真-9 リフトによる煙突の改修

写真-9 リフトによる煙突の改修

プラント機器の更新

既存建屋の改修を進めると同時に、新たなプラント機器の据付作業が行われます。据付に先行してコンクリート基礎や鉄骨架台が作られ、仮設開口や局所的な揚重装置が必要となるなど、建築工事との取り合いも多くなっています(写真-10、11)。約1年半かけてプラント機器を設置し、その後半年間にわたって試運転が行われます。

写真-10 炉室ボイラー架台鉄骨建方

写真-10 炉室ボイラー架台鉄骨建方

写真-11 炉室灰出しコンベヤ据付

写真-11 炉室灰出しコンベヤ据付

おわりに

地球環境への関心が高まる中で焼却処分されるごみの量は減少傾向にありますが、より効率的で環境への負荷が少ない焼却工場への転換が求められており、既存躯体を活用したリニューアル工事は今後も増加するものと考えられます。新築とは異なり、除染等を伴う解体・撤去工事が前段階としてあるなど、工期も長く複雑な施工計画が必要となります。今回の経験を活かし、より安全で効率的な更新方法を今後も提案してまいります。

工事概要

工事名称 大阪市・八尾市・松原市環境施設組合 住之江工場更新工事
工事場所 大阪市住之江区北加賀屋4丁目1番26号
発注 大阪広域環境施設組合
設計 タクマ・鴻池特定建設工事共同企業体
監理 (株)土屋総合設計
施工 タクマ・鴻池特定建設工事共同企業体
工期 2018年9月~2023年3月(現場着工:2019年9月)
用途 焼却工場
構造・規模 (本 館) SRC造・RC造・S造 地下1階 地上5階
建築面積8,642.85㎡ 延床面積22,035.66㎡
(増築棟) RC造・S造 地上3階
建築面積538.00㎡ 延床面積1,430.35㎡

506号(2022年7月1日)の記事

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