技術広報誌ET

技術広報誌ET 2022年発刊号

名栗断層における山岳トンネルの施工

506号(2022年7月1日) 梅ヶ谷トンネル 東京本店 工事事務所 新庄 大作

はじめに

梅ヶ谷(うめがた)トンネルは、東京都西多摩郡日の出町の大久野地区と青梅市梅郷一丁目地区を結ぶ全長1,333mのトンネルです。当地域には、北西から南東に延びる名栗断層と呼ばれる大規模断層が存在しており、当トンネルを横断して分布しています。
ここでは、名栗断層分布域における山岳トンネルの施工について報告するとともに、施工情報を統合したBIM/CIMモデルの活用について紹介します。

図-1 地質縦断図

図-1 地質縦断図

断層部におけるトンネル掘削

終点側工事箇所の地質は、中生代白亜紀~ジュラ紀に形成された秩父帯川井層の含礫泥岩、泥岩を主体としています。図-1に示すように、起点側坑口付近と中央部には塊状および層状のチャートが分布し、No.50やNo.63付近には緑色岩が分布しています。No.52~58付近に名栗断層が分布していると考えられ、それに関連する断層破砕帯が終点側坑口付近にかけて広く分布しているものと想定されました。そのため、施工当初より掘削時の崩落や崩壊が懸念されていました。
トンネルは終点側から掘削を行いました。坑口部では、全体的に黒色泥岩が分布し、砂岩や緑色岩の岩塊が点在していました。特に、泥岩部は断層に伴う破砕の影響を受けて、粘土化した部分が多くみられました(写真-1~3)。

写真-1 坑口部切土法面状況(切羽上部)

写真-1 坑口部切土法面状況(切羽上部)

写真-2 条線を伴う鏡肌

写真-2 条線を伴う鏡肌

写真-3 黒色泥岩の粘土化

写真-3 黒色泥岩の粘土化

その後のトンネル掘削においても、切羽全面に粘土化した黒色泥岩が分布し、大部分が破砕の影響を受け脆弱化していました(写真-4)。大規模断層である名栗断層の特徴の一つとされている蛇紋岩の岩塊も確認されました。切羽における地山崩落の対策工として、長尺鋼管先受け工(AGF:L=12.64m,φ114.3,N=23本)と長尺鏡補強工(長尺鏡ボルト:L=13.50m,φ76.3,N=15本)をそれぞれ3シフト施工しながらトンネルを掘削しました。
トンネル中央部の測点No.35付近では、切羽全面に細かく破砕された黒色泥岩が分布し(写真-5)、鏡吹付コンクリートだけでは切羽が自立せず、掘削中に崩落が発生しました。その後、湧水(10L/min程度)が発生し、風化や亀裂が発達した脆弱部が20m程度続いて、切羽からの剥落も多くみられました。そのため、ここでは注入式フォアポーリング(L=3m,N=25.5本)7シフトと注入式鏡ボルト(L=3m,N=13本)15シフトを施工しながらトンネルを掘削しました。

写真-4 切羽写真(No.70付近)

写真-4 切羽写真(No.70付近)

写真-5 切羽写真(No.35付近)

写真-5 切羽写真(No.35付近)

BIM/CIMモデル作成による施工情報の統合

本工事区域に分布する泥質岩においては、自然由来重金属等の溶出・含有が懸念されていました。そのため、トンネル全線でPS-WL(パーカッションワイヤラインサンプリング)工法による先進ボーリングを行い、採取したコアから重金属等溶出量・含有量調査を実施しました。この先進ボーリングの削孔データや柱状図、コア(写真-6)などの地質情報を活用し、切羽前方の硬軟などの状況や地質分布の把握を行いました。
また、数値地図(国土基本情報)を活用した地形データや、事前地質調査の結果、設計図書のトンネル線形や地質平面図、地質縦断図などの地質情報を入力して、3次元地質モデルを作成し、前述の先進ボーリングの地質情報や切羽写真や切羽観察記録、トンネル内空変位などの計測値、地山判定資料などのトンネルの施工情報を属性情報として付与しました(図-2)。さらに、3次元地質モデルのトンネル線形上に属性情報を関連付け、トンネルの施工情報を統合したBIM/CIMモデルを作成しました(図-3)。

写真-6 コアの一例 (No.41+16~No.41+6.0)

写真-6 コアの一例 (No.41+16~No.41+6.0)

図-2 BIM/CIMモデル (地質分布の3次元表示)

図-2 BIM/CIMモデル (地質分布の3次元表示)

図-3 BIM/CIMモデル (切羽観察記録の確認)

図-3 BIM/CIMモデル (切羽観察記録の確認)

おわりに

終点側坑口付近や測点No.35付近では、名栗断層をはじめとした断層破砕帯の影響を受け、粘土化した黒色泥岩が多くみられました。脆弱な岩盤の崩落などが発生しましたが、対策工を実施して地山の安定化を図ることで、岩塊の抜落ちや切羽の崩落、トンネルや地表面の沈下に対して十分な効果を得ることができ、掘削を完了することができました。
BIM/CIMモデルは地山の詳細な地質構造を視覚的に把握することが可能です。また、任意の測点の切羽観察記録や変位計測結果などのトンネル施工時の情報を即時に確認できる利点があります。そのため、維持管理段階において、変状や不具合が発生した際にトンネル構造物の周辺の地質や変位状況といった施工を確認できるなど、あらゆる場面での活用が期待できます。

工事概要

工事名称 梅ヶ谷トンネル(仮称)整備工事(西-梅ヶ谷の2)
工事場所 東京都西多摩郡日の出町大久野地内~東京都青梅市梅郷一丁目地内
発注者 東京都財務局
施工者 鴻池組・奥多摩建設工業建設共同企業体
工期 2018年3月~2022年2月
工事内容 ・トンネル工 掘削工:L=1,333m
           A=67.4~93.5㎡
       覆工:L=1,331.6m
       インバート工:L=337.45m
       坑門工:2基
・道路改良工:一式
・法面工:一式

506号(2022年7月1日)の記事

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