技術広報誌ET

技術広報誌ET 2022年発刊号

低速度帯が頻出する砂岩層における切羽崩落対策

506号(2022年7月1日) 大野油坂道路川合トンネル 大阪本店 工事事務所 小林 亘 / 技術本部 土木技術部 北野 敬太

はじめに

当工事は、長野県松本市を起点に飛騨、奥越地方を通り、福井県福井市に至る中部縦貫自動車道(全長約160km)の一部である大野油坂道路(35km)のうち、全長2,550mの山岳トンネルの起点側1,592mを施工するものです(図-1)。
当トンネルの地質は、坑口からの距離832m以降では砂岩主体の硬質な岩盤の分布が想定されていましたが、一部区間に低速度帯(弾性波速度が低速度となる軟弱な岩盤が分布するゾーン)が挟在していました。その区間では、岩盤の劣化により切羽の肌落ちや抜落ちが懸念され、前方地山の状態を把握する必要がありました。
ここでは、トンネル掘削時の前方地山調査とその結果を基にした切羽崩落対策について紹介します。

図-1 工事位置(大野市HPより)

図-1 工事位置(大野市HPより)

前方地山調査

設計では、坑口からの距離832m以降は砂岩主体(弾性波速度Vp=4.0km/s)の硬質な岩盤の中に、延長20m程度の低速度帯(弾性波速度Vp=2.0km/s、亀裂の多い不安定地山)が複数箇所に挟在すると想定していました。坑口からの距離1,200m付近までの地山は安定しており、設計のCⅡパターンで施工していました。しかし、坑口からの距離1,202m地点の掘削時に天端より土量40㎥程度の抜落ち(図-2,写真-1)が発生し、抜落ち後の切羽では50L/分の集中湧水(写真-2)が見られました。
地山は砂岩主体から泥岩主体に変化しており、ブレーカでの打撃が必要ないほど地山状態が悪化していました。それを受け、支保パターンの変更(CⅡ→DⅠ)と補助工法の必要性を検討するため、穿孔探査法を用いて前方地山調査のためのボーリングを実施しました。このボーリング調査は、湧水による地山の緩みや押出しを抑制するための水抜きボーリングを兼ねています。補助工法の判定基準は、「NPO法人臨床トンネル工学研究所トンネル補助工法委員会 平成20年~21年年度活動報告書」に記載されている削孔エネルギー(E=150J/㎤)の数値を適用しました。
前方地山調査位置を図-3に、前方地山調査結果(3回実施)を図-4に示します。坑口からの距離1,200~1,230m付近では削孔エネルギーE=100J/㎤以下の箇所を多く含み、不安定地山(低速度帯 延長30m程度)であることが想定されました。また、削孔時のクリ粉の色が真黒であったことから泥岩主体であることも想定されました。以上のことより、この区間においては、天端および切羽からの肌落ちや抜落ち対策として補助工法が必要であると判断しました。

図-2 天端抜落ち状況概要

図-2 天端抜落ち状況概要

写真-1 天端抜落ち状況

写真-1 天端抜落ち状況

写真-2 集中湧水状況

写真-2 集中湧水状況

図-3 穿孔位置

図-3 穿孔位置

図-4 前方地山調査結果(3回実施)

図-4 前方地山調査結果(3回実施)

切羽崩落対策

坑口からの距離1,200~1,230m付近では補助工法として、注入式フォアポーリング(φ27.2、L=3.0m、n=29.5本)と注入式長尺鋼管先受工(φ76.3、L=12.5m、n=31本)の2通りを検討しましたが、今回は抜落ち範囲、奥行きが大きいため、より剛性が高い注入式長尺鋼管先受工を選定しました。また、鏡面の崩壊も懸念されたため、長尺鏡ボルト(φ76.3、L=12.5m、n=20本)も施工することにしました。地山の不安定な状態が継続していた約30mの区間で、4スパンで補助工法を施工しました(図-5、写真-3)。

図-5 補助工法施工位置

図-5 補助工法施工位置

写真-3 補助工法施工完了

写真-3 補助工法施工完了

おわりに

今回の工事では、前方地山調査を行うことで、低速度帯の位置を特定することができました。さらに、削孔エネルギーやクリ粉から地質や岩盤性状を事前に把握でき、最適な補助工法の判断材料として活用し、安全にトンネルの掘削を施工することができました。
トンネル工事において前方地山を把握することは非常に重要であり、今後のトンネル工事においても前方地山調査を有効に活用し、より安全に、より効率よく施工を行えるよう努めていきたいと思います。

工事概要

工事名称 大野油坂道路川合トンネル川合地区工事
工事場所 福井県大野市川合地先
発注者 国土交通省近畿地方整備局
施工者 (株)鴻池組
工期 2018年10月~2022年6月
工事内容 ・トンネル工
 掘削工:L=1,591.2m
 覆工:L=1,431.2m
 インバート工:L=832.2m
 坑門工:1基
 標準内空断面積:A=92㎡
・トンネル仮設備:一式

506号(2022年7月1日)の記事

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