技術広報誌ET

技術広報誌ET 2019年発刊号

農業用調整池の中に建つ図書館の施工

495号(2019年10月01日) 松原市新図書館 大阪本店 工事事務所 竹元 康博 / 建築技術部 正垣 綱之

はじめに

松原市は、第4次総合計画に基づく「生涯学習の充実と“智の拠点”づくり」という観点から、老朽化した既存の図書館による運営を見直し、中央館機能を持つ新たな図書館の建設を検討し、2017年8月に公募型プロポーザル方式で設計および施工者の選定を公告しました。当社は図書館の設計に多くの実績があるマル・アーキテクチャ一級建築士事務所と組んで応募した結果、優れた技術提案と評価され受注することができました。

当JVは、「時代を超えていく図書館」をコンセプトに、遥か昔から松原市周辺の原風景として根付いている古墳群をイメージし、建物をため池(農業用調整池)の中に建設することを提案しました(図-1)。ここでは、建設計画、建物構造および構台等の仮設計画について紹介します。

図-1 完成予想図(提供:マル・アーキテクチャ)

図-1 完成予想図(提供:マル・アーキテクチャ)

ため池を活かした建設計画

池の中に建物を建設するには、工事範囲を埋立てて造成する方法と遮水して建設する方法が考えられ、両者を比較検討しました(表-1)。「埋立て」は、作業エリアの確保や乗入れエリアの自由度アップなどメリットがある反面、擁壁の新設や埋立て土の掘削など新たな工事が発生します。これに対して「遮水」は、貯水部分と作業エリアを区切ることで農作業の時期に影響されず工事ができる一方、揚重機や搬入車両のエリア確保や水密性の高い遮水壁の設置等が問題となります。それぞれの長所、短所を踏まえ、2つの方法を比較検討した結果、工期短縮とコスト低減に効果がある「遮水」を採用し、池底から建設する計画としました。

表-1 建設方法の比較

表-1 建設方法の比較

建物構造の特徴

新図書館は、池の中に建つということ以外にも厚い外壁という特徴があります。600㎜厚のRC耐震壁は、建築基準法で求められる耐震性能の1.25倍の性能があり、公共建築物にふさわしい安全・安心を備えています。また、この耐震壁以外は鉄骨造とすることで建物の軽量化や地震入力を低減でき、下部構造への負担を最小限に留めています(図-2)。さらに、600㎜厚のRC外壁は躯体だけで十分な断熱性能があり、熱容量が高いことから安定した室内環境を保つことができます。

作業エリアを確保する仮設計画

池底から建物を建設する際、最も問題となるのが揚重機や搬入車両のエリア確保です。当初はスロープ構台を使って池底へ車両を降ろす計画でしたが、設置場所や池底での作業エリア確保の問題から、桟橋構台を設置し構台上から全ての作業を行う計画に変更しました。なお、桟橋構台は設置スペースの問題から片側より支持杭を打設しながら覆工し、構台を延伸させる工法を採用しました(写真-1)。

図-2 建物の構造(提供:アラップジャパン)

図-2 建物の構造(提供:アラップジャパン)

①延伸工法による構台架設

①延伸工法による構台架設

②高周波バイブロによる支持杭打設

②高周波バイブロによる支持杭打設

写真-1 桟橋構台の架設状況

工事ステップ

今回採用した「遮水」による工事ステップ図の一部を図-3に示します。桟橋構台の設置と並行して、排水ポンプによりため池内の水を水路部へ排水します。その後、浚渫や地盤改良を行い、山留め工事、掘削工事、柱状地盤改良工事へと進んでいきます(写真-2)。これらの地業工事が終了すると構台上のクローラクレーンを用いて鉄骨建方等の建築工事を行います(写真-3)。建築本体の工事が終了すると建屋外周への土の埋戻しや桟橋等の仮設物を解体撤去した後、ため池全域に注水して工事が完了します。

桟橋構台の設置・遮水
柱状地盤改良工事
建築工事
工事完了

図-3 工事ステップ図

写真-2 柱状地盤改良工事

写真-2 柱状地盤改良工事

写真-3 鉄骨建方工事

写真-3 鉄骨建方工事

おわりに

松原市の新たな“智の拠点”としての新図書館は、2019年11月末に竣工予定です。ユネスコ世界遺産に新たに登録された百舌鳥・古市古墳群と同様、市民の皆様に長く愛される建物となるよう、職員一丸となって竣工に向け工事を進めてまいります。

工事概要

工事名称 松原市新図書館建設工事
工事場所 大阪府松原市田井城3丁目103番地
発注 松原市長 澤井 宏文
設計・監理 (株)鴻池組 (有)マル・アーキテクチャ一級建築士事務所
施工 (株)鴻池組
工期 2018年11月~2019年11月
主要用途 図書館
構造・規模 RC造(一部S造)、地下1階 地上3階 塔屋1階 建築面積1,043.24㎡ 延床面積2,987.33㎡

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