技術広報誌ET

技術広報誌ET 2019年発刊号

日本初の人工カヌー・スラローム競技場の建設

495号(2019年10月01日) カヌー・スラローム会場整備工事 東京本店 工事事務所 畑 真哉 / 技術本部 土木技術部 村下 富雄

はじめに

カヌー・スラロームセンターは、東京都が整備するカヌー専用の競技施設です。そのうち、当工事はカヌー・スラロームの競技場部分を建設するもので、国内初の人工コースとなります(図-1、写真-1、2)。建設場所は東京都江戸川区臨海町にある葛西臨海公園の隣接地で、東京湾に面した埋立地です。ここでは、競技コース建設にあたり実施した軟弱地盤対策、および地中障害物に起因する施工上の工夫についてご紹介します。

写真-1 着工前(2015年7月)

写真-1 着工前(2015年7月)

写真-2 施工状況(2018年8月)

写真-2 施工状況(2018年8月)

図-1 完成イメージ(東京都提供2016年5月時点)

図-1 完成イメージ(東京都提供2016年5月時点)

プレロード盛土による軟弱地盤対策

建設場所の地盤は、GL-12mまでが埋土層で、その下に軟弱な粘性土層(有楽町層、東京層)がGL-60mの東京礫層まで堆積しています(図-2)。

コース本体は鉄筋コンクリート構造で、ポンプ等の機械設備を格納する構造物、およびその周囲の盛土上に構築するスタートプールなどの構造物は杭基礎構造(鋼管杭φ800:L=62.5m、PHC杭φ600:L=60.0m)、それ以外は直接基礎構造となっています。直接基礎部のうち、盛土高さが変化(H=0~5m)する競技コース部(縦断勾配2%)、およびスタートプール~競技コース部周囲の嵩上げ部は、本体構造物や水の自重による軟弱地盤の圧密沈下対策としてプレロード盛土を施工しました(図-3、4、写真-3、4)。

-2 地層縦断図

図-2 地層縦断図

図-3 山留め計画断面図

図-3 競技場平面図

図-4 競技場断面図

図-4 競技場断面図

写真-3 プレロード 盛土全景

写真-3 プレロード 盛土全景

写真-4 プレロード 盛土近景

写真-4 プレロード 盛土近景

プレロード盛土による沈下は設計時の予測と実際の挙動が異なることが多いため、盛土時には沈下板の測定による沈下管理を行いました(写真-5)。プレロード盛土による沈下挙動を把握し、双曲線法により残留沈下量(今後予測される沈下)を算定しました。また、地盤内部の挙動を把握するため、層別沈下計および地中傾斜計(深さ30m)を設置し、周辺地盤および構造物(荒川護岸、葛西水再生センター)への影響を確認しました。

※双曲線法:実測した沈下量と時間の関係から将来の沈下量を双曲線関数で近似して予測する方法。主に施工途中の短期の沈下量推定に使用される。

図-5 プレロード盛土一般図

図-5 プレロード盛土一般図

写真-5 プレロード盛土施工状況

写真-5 プレロード盛土施工状況

所定の工期内で工事を完了するために、本体構造物の施工着手前のプレロード盛土の撤去時期が重要なポイントとなりました。圧密沈下量は施工箇所の地歴(過去の土地利用履歴)によりばらつきがあり、全体的に設計時の予測沈下量よりも小さくなりました。構造物完成後も圧密沈下は緩やかに継続するため、竣工後のあと利用時に構造物の不具合が発生しないよう、設計上の残留沈下許容値10cmの50%を自主管理値に定め、これを満たすことを確認したうえで、プレロード盛土を撤去しました(表-1)。周辺構造物にも大きな影響は認められず、懸念された競技場本体の不等沈下も2019年9月時点で発生しておりません。

図-5 プレロード盛土一般図

プレキャストL型擁壁部の構造変更

スタートプール~競技コース部の外周部は、プレキャストL型擁壁(H=2.6~5.8m)と盛土により本体構造物と同じ高さまで嵩上げしました。当初設計では、プレキャストL型擁壁の基礎地盤を深さ7.0m、幅12.0mで中層混合処理することになっていました(図-6)。しかし、表層埋土層内にがれき類などの地中障害物が存在したため、十分な地盤改良が実施できない状態でした(写真ー6)。地中障害物を撤去した場合、大幅に工程が遅延し、工事費もかさむため、プレキャストL型擁壁部の構造変更を提案しました。

擁壁背面の盛土材料を土砂(比重17kN/㎥)から軽量盛土材(カルグリ:比重12kN/㎥)に変更し、擁壁背面の荷重を低減しました。これにより地盤改良範囲の縮小と地中障害物が存在しても施工可能な表層安定処理工法に変更が可能となり、予定通りに工事を進めることができました(図-7、写真-7~9)。

写真-6 地中障害物

写真-6 地中障害物

図-6 当初設計断面

図-6 当初設計断面

図-7 変更断面

図-7 変更断面

写真-7 表層安定処理

写真-7 表層安定処理

写真-8 軽量盛土投入

写真-8 軽量盛土投入

写真-9 軽量盛土完了

写真-9 軽量盛土完了

おわりに

国際カヌー連盟(以下、ICF)が規定する競技コース等の技術要件確認検査を経て、無事ICFより認証を取得し、カヌー・スラロームセンターは2019年7月6日より一般供用を開始しています。当社が建設に携わる機会を得たこの競技場で、日本代表選手が活躍することを期待し、今後のカヌー・スラローム競技大会の開催を見守りたいと思います。

写真-10 工事完了全景

写真-10 工事完了全景

写真-11 競技コース全景

写真-11 競技コース全景

工事概要

工事名称 カヌー・スラローム会場整備工事
工事場所 東京都江戸川区臨海町6丁目地内
発注 東京都
施工 鴻池・西武・坪井建設共同企業体
工期 2017年6月~2019年5月
工事内容 土工 掘削62,730㎥、埋戻し等63,680㎥    プレロード盛土22,290㎥、大型土嚢10,817袋 既製杭工 鋼管杭 φ800 L=62.5m 30本    PHC杭 φ600 L=60.0m 168本 コンクリート工 12,930㎥ 鉄筋工 578t 擁壁工 プレキャストL型擁壁h=2.6~5.8m L=252m 地盤改良工 表層安定処理1,449㎡ 舗装工 アスファルト舗装7,020㎡    コンクリート舗装6,340㎡ 競技器具 障害ブロック3,180個 ゲートサスペンションシステム 支柱φ101~177mm 76基 ラテラルケーブル φ8mm L=978m ボートコンベア 製作・設置1基 横断歩道橋 製作・架設2基 雨水汚水本管工 鉄筋コンクリート管工 φ400~1350mm L=1,303m 基盤整備工 1式    (植栽、給水管、雨水排水設備、電気照明設備)

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