技術広報誌ET

技術広報誌ET 2019年発刊号

老朽化した水路トンネルを
パルテム・フローリング工法で再生

494号(2019年07月01日) 大川瀬導水路改修その2・その3工事 大阪本店 工事事務所 東海 清貴

はじめに

農業用水不足の解消や水道水用の水源確保のため、1970(S45)年から1992(H4)年にかけて兵庫県南部(神戸市、三木市、稲美町ほか全5市町)を受益地とした国営東播用水農業水利事業により3カ所のダム建設と110kmにも及ぶ用水路ネットワークが構築されました。近年、施設の老朽化による維持管理費増大や酒米(山田錦、三木市は全国の15%生産)の作付け増大等による用水不足などの問題が顕在化したため、施設の長寿命化および農業用水の安定供給を図る目的で、2013年より東播用水二期農業水利事業として水利施設の改修・耐震化や用水系統の再編が実施されています。

当工事は、その用水路ネットワークの一部を成す大川瀬導水路を「パルテム・フローリング工法」により再生する工事です。ここでは、その施工事例について紹介します。施工位置を図-1に、工事概要図を図-2に示します。

図-1 施工位置図

図-1 施工位置図

図-2 工事概要図

パルテム・フローリング工法による補強

当導水路は、水路トンネル部の頂版部、側壁部、およびインバート部に地山の塑性化による土圧変動に起因すると推定される連続性のひび割れや段差が生じており、その健全度(S2:構造的安定性に影響を及ぼす変状)から補強対策が必要とされています。水路トンネルの補強にあたっては、狭小なトンネル内での長距離の資材運搬や屈曲した縦断形状への対応、補強により断面縮小しても通水能力が確保できること、11月~2月の休耕期に施工が可能である工法が求められました。そのため、あらゆる断面形状に適用可能で、小巻厚でも構造的に安定し、粗度係数が低い表面材料で水量が確保可能で、特殊な製管装置を用いずに現地組立により短期間で施工可能なパルテム・フローリング工法が採用されました。

当工事の構造断面図を図-3、施工フローを図-4に、パルテム・フローリング工法の組立モデルを写真-1に示します。現場での施工手順は次のとおりです。

①搬入した鋼製リングを坑内でボルト結合により組み立て(写真-2)、所定のピッチで連結し、アンカーで既設トンネルに固定(写真-3)。

②止水シール付きのかん合部材を軸方向で鋼製リングに取り付け(写真-4)。

③表面部材をかん合部材に取り付け(写真-5)。

④樹脂モルタルで褄部閉塞を行い、表面部材の背面に特殊充填材(高強度・高流動性モルタル)を充填。

 図-3 構造断面図
 図-3 構造断面図

図-3 構造断面図

 図-4 施工手順 写真-1 組立モデル

図-4 施工手順

写真-1 組立モデル

写真-2 坑内現況

写真-2 坑内現況

写真-3 鋼製リング組立

写真-3 鋼製リング組立

写真-4 かん合部材の取り付け

写真-4 かん合部材の取り付け

写真-5 表面部材の取り付け

写真-5 表面部材の取り付け

当工事における課題と対策

補強対象の水路トンネルは山間部に築造された長距離トンネルのため、工事関係者の出入口や資機材の搬出入口の確保および小断面のトンネル内に点在している補強箇所への移動や資機材の長距離輸送が課題でした。また、換気や照明など坑内の作業環境の確保についても工夫が求められました。

①工事関係者および資機材の出入口確保
既設坑口が遠いことから、補強箇所に近い函渠部の頂版部にワイヤーソーで開口を開けて搬入坑口を設けました。工事関係者の出入りと材料の搬出入のエリアを分離・識別するため、マーキングとプラチェーンにより境界明示しました。材料搬入時に開口下からの人員退避を指示するため警報装置を設けました(図-5)。

①工事関係者および資機材の出入口確保
既設坑口が遠いことから、補強箇所に近い函渠部の頂版部にワイヤーソーで開口を開けて搬入坑口を設けました。工事関係者の出入りと材料の搬出入のエリアを分離・識別するため、マーキングとプラチェーンにより境界明示しました。材料搬入時に開口下からの人員退避を指示するため警報装置を設けました(図-5)。

②坑内の長距離輸送
補強箇所は搬入坑口から最大約2km離れたところにありました。材料運搬車として電動タイプで旋回性能に優れた「タグノバ」を採用して鋼製リングや表面部材などを運搬して、施工のスピードアップを図りました(写真-6)。
充填モルタルはアジテータ車で屋外から長距離圧送する必要があったため、地上および坑内に最大で計5台のポンプを400m毎に配置して打設箇所まで圧送しました(写真-7)。各中継箇所では流動性試験により自己充填性を有した高流動モルタルとしての品質確認を行いました。

③坑内の安全確保と作業環境の改善
補強箇所が連続しておらず分散していることから、人員配置と資機材運搬を効率的かつ安全に行う必要がありました。そのため、坑内作業員と材料運搬車にICタグを装着し、一定距離毎に設置したICリーダーによる作業位置と運搬状況が常時把握できる坑内作業管理システムを導入しました。
坑内には停電時にも使用可能な通信設備を設けて、緊急時における退避行動が迅速にとれるようにしました。また、坑内の空気が常に新鮮に保てるように換気設備を配置し、坑内環境を良好に維持しました。

図-5 搬入坑口概要図

図-5 搬入坑口概要図

写真-6 坑内材料搬入状況(手前は運搬車タグノバ)

写真-6 坑内材料搬入状況
(手前は運搬車タグノバ)

写真-7 モルタル坑内中継状況

写真-7 モルタル坑内中継状況

おわりに

狭小空間内での施工、資材の長距離搬送および通水開始時期に伴う工事完了時期の厳守など種々の制約条件の下、当工事は施工期間内で無事完了できました(写真-8)。パルテム・フローリング工法により、小巻厚で構造的にも水理的にも高特性な水路に効率的に再生することができました。今回の経験を活かし、今後ますます増えると予測される農業水利施設の更新事業に貢献できるように取り組んでいきます。

写真-8 施工完了

写真-8 施工完了

工事概要

工事名称 平成28、29年度東播用水二期農業水利事業
大川瀬導水路(9号トンネル他)改修その2・その3工事
工事場所 兵庫県三木市吉川町金、奥谷、神戸北区淡河町北僧尾地内
発注者 農林水産省 近畿農政局
施工者 (株)鴻池組
工期 2017年7月~2018年3月(その2)2018年8月~2019年3月(その3)
工事内容 9号トンネル トンネル更生工L=372.47mひび割れ補修工L=616.80m 仮設工一式10号トンネル トンネル更生工L=372.83m 仮設工一式

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