技術広報誌ET

技術広報誌ET 2019年発刊号

補助工法時穿孔データを活用した
切羽前方探査

492号(2019年01月01日) 中村宿毛道路 寺山トンネル工事 大阪本店 工事事務所 / 山田 浩幸

はじめに

中村宿毛道路は、国道56号の四万十市から宿毛市間の交通混雑の緩和および交通安全の確保を図るとともに、災害に強い道路として地域の安全性向上に大きく貢献する道路です。そのうち、当工事の寺山トンネルを含む平田IC~宿毛IC(仮称)間の約7.6kmは、平成31年度開通に向けて工事が進められています。

寺山トンネルは延長485mの山岳トンネルで、起点側坑口部は1D程度(D:トンネル幅14m)の小土被り区間が180mも続き、地表面の一部は、沢地形や偏圧地形を呈していました。地質的には、砂岩の玉石(人頭大)を含む泥岩主体の混在岩(メランジェ)であり、スレーキング※性が高く破砕質で脆弱な状況でした(写真-1)。起点側小土被り部のトンネル掘削時には、天端の安定対策として採用した小口径注入式長尺鋼管フォアパイリング施工時の穿孔データに基づく切羽前方予測を行い、追加対策を検討・実施しました(写真-2)。

写真-1 切羽状況

写真-1 切羽状況

写真-2 前方探査

写真-2 前方探査

※ スレーキング: 土塊や軟岩が乾燥、吸水を繰り返すことで、細かくバラバラに崩壊する現象のこと。

切羽前方探査による地質予測

○切羽前方探査の概要
当トンネルの掘削パターンおよび実施した補助工法を表-1に示します。トンネル掘削は、終点側から起点側に向かって行いました。地山が破砕質で脆弱であり、トンネル掘削当初に切羽(鏡面)の肌落ちが発生しました。危険予知および補助工法の事前検討(採用区間等)、また、その検討結果の妥当性を確認するため、トンネル掘削に先立ち全線で切羽前方探査を実施しました。掘削起点の終点側では、トンネル切羽面の3箇所(天端、左右)L=30mの穿孔を行いましたが、起点側では当初より補助工法が計画されていたため、補助工法施工時の穿孔データを用いた切羽前方探査を行い、詳細な地質予測を実施しました。

表-1 当トンネルの掘削および補助工法

表-1 当トンネルの掘削および補助工法

なお、探査の評価精度を高める目的で、図-1に示すように切羽前方探査により得られた穿孔エネルギーを指標にして、 3次元ソリッド解析により穿孔エネルギー分布を3次元で表現しました。さらに、トンネル掘削時に速やかな追加対策が行えるように、切羽前方探査に基づく補助工法採用フローを作成して、事前に施主と協議を行い、切羽状況や計測結果を参考にして対応しました。

図-1 前方探査精度向上手順

図-1 前方探査精度向上手順

○前方探査結果と施工へのフィードバック
 図-2に補助工法施工範囲とトンネル全線の穿孔エネルギーの分布を示します。トンネル切羽は全体的に脆弱な状態でしたが、中間部のDⅠ-b区間では150J/cm3以上の比較的高い穿孔エネルギーを示し、土被りの小さい終点側の沢部や起点側の補助工法区間では、概ね100J/cm3以下の穿孔エネルギーでした。土被りと穿孔エネルギーの間に相関性が認められ、探査結果を俯瞰的にみるとトンネル全体の地形が反映されていることがわかります。

図-2 前方探査結果

図-2 前方探査結果

CIMの活用

施工では、図-3に示すようなCIM(Construction Information Modeling)による3次元地質モデルを構築し、掘削時の切羽観察結果による修正を行いながら、切羽前方探査の結果や施工情報との関連づけにより切羽前方地質予測に活用しました。また、切羽前方探査結果に基づく岩判定を実施し、補助工法の必要性について検討するとともに、切羽状況や計測結果を参考にして、長尺鏡ボルトや吹付けインバートによる早期閉合を実施しました。

○リフレッシュコーナー
アメニティスペースとして、カウンターやパントリーを備えるダイニング感覚のリフレッシュスペースを各フロアに設置しています。テレビモニターも設置され、コミュニケーションスペースとしても利用が可能です(写真-3)。

図-3 CIMによる施工データの管理イメージ

図-3 CIMによる施工データの管理イメージ

おわりに

今回、小土被りの脆弱な地山において、切羽前方探査を全線で行い、3次元ソリッド解析により精度を高めることで地山挙動に応じた適切な補助工法の選定を行いました。

地質変化の著しい地山において、補助工法の穿孔エネルギーの低下量により、地山の緩みの程度や範囲を定量的に評価することができ、補助工法時の穿孔データによる3次元切羽前方予測の有効性を確認することができました。

今回の報告が今後の同種地山条件におけるトンネル工事の参考になれば幸いです。

工事概要

工事名称 中村宿毛道路 寺山トンネル工事
工事場所 高知県宿毛市平田町中山地先
発注者 国土交通省 四国地方整備局
施工者 (株)鴻池組
工期 平成29年3月~平成31年3月
工事概要 工事延長 L=850.0m
①トンネル(NATM)
 機械掘削工法L=480.0m
 内空断面積: A=101.891m2(DⅢa)
  A=100.878m2(DⅠ-b)
 掘削方式: 上半先進ベンチカット工法(ショートベンチ)
 インバート工: L=480.0m
 覆工・防水工: L=479.5m
 坑門工(起点側): L=5.0m(明り巻)
②道路改良
 道路土工: 掘削工V=1,290m3
 法面工 : 法面整形(盛土部)190m2

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