技術広報誌ET

技術広報誌ET 2019年発刊号

都心における
ミッドサイズオフィスビルの設計と施工

492号(2019年01月01日) S-GATE日本橋本町 設計本部 北峰 健一 / 東京本店 工事事務所 石橋 康

はじめに

中規模サイズでありながら大規模ビルと同等のグレードと機能性を併せ持つ、新しいカテゴリーのオフィスビルとして誕生したのが、ハイグレードミッドサイズオフィスです。その背景には、入居する企業からの要望として、より快適に付加価値を生み出すことができるワークスペースの提供がありました。

当社はミッドサイズオフィスの研究を行い、設計施工の実績を重ねてきました。ここでは、株式会社サンケイビル様が都心に展開するシリーズのうち、当社が設計施工した「S-GATE日本橋本町」について概要を紹介します。

建築計画

計画地は金融業や薬業など幅広い企業が集まる日本橋のオフィスエリアに位置し、昭和通り沿いの視認性の高い角地にあります。鉄骨造11階建て、延床面積が約8,500㎡のテナントビルで、ブランドアイデンティティであるゲート(GATE)をイメージした、彫りの深いファサードデザインが印象的な建物です。

写真-1 完成建物外観

写真-1 完成建物外観

オフィスワーカーを支えるハイグレードな仕様

○都心のビジネスシーンに相応しいエントランス
アプローチにはエントランスホールへと連続する光壁を設け、訪れる人を迎え入れるに相応しい空間を創出しました。また、ニュースやビル情報をリアルタイムで発信するデジタルサイネージや、潤いと安らぎを演出する壁面緑化、心地良いアロマの香りによって、上質で洗練されたエントランス空間を演出しています(写真-2)。

○リフレッシュコーナー
アメニティスペースとして、カウンターやパントリーを備えるダイニング感覚のリフレッシュスペースを各フロアに設置しています。テレビモニターも設置され、コミュニケーションスペースとしても利用が可能です(写真-3)。

写真-2 エントランスホール

写真-2 エントランスホール

写真-3 リフレッシュコーナー

写真-3 リフレッシュコーナー

○ホテルライクなトイレ
女子トイレにはゆっくりと身だしなみを整えられるパウダーコーナー、フィッティングボードを設置し、リラックス効果に配慮した上質な空間を演出しました(写真-4)。

○屋上テラス
日本橋の風景を臨む屋上テラスは、緑を囲むベンチやレインボーブリッジを見ながらリフレッシュできるカウンター席を設けた快適なひとときを過ごせる空間です(写真-5)。

写真-4 パウダーコーナー

写真-4 パウダーコーナー

写真-5 屋上テラス

写真-5 屋上テラス

○快適で安全なオフィス環境を実現する仕様

①快適なオフィス環境
最適・快適な環境を提供できる個別空調システムを採用しています。また、Low-Eペアガラスや昼光センサー照明などの採用によりエネルギー消費を抑えています(図-1)。

②セキュリティ
ICカードリーダーによるオートロックシステムを採用し、1階エレベーターホール、エレベーター内および貸室扉の3重のセキュリティを構築しています。

図-1 オフィス空間の仕様

図-1 オフィス空間の仕様

BCP対策

○耐震基準1.25倍相当の強度

建築基準法において必要とされる強度の1.25倍の耐力を確保し、震度6強~7程度の大地震動に対しても比較的小さな損傷に留め、耐力低下等による大きな補修を必要としないことを目標に設計しています。

○停電時対策

①非常用発電機
非常用発電機を設置することで、不測の停電時に貸室(15VA/m2)および共用部に約24時間の電源供給が可能です。さらに、独自の機能維持を希望するテナントには、テナント用発電機設置スペースを屋上に用意しています(図-2)。

②異系統2回線受電方式
災害時や送電事故などのトラブルにより本線が停電した場合は、予備電源線に切り替えして電源供給が可能です(図-3)。

○防災備蓄・非常時トイレ
災害時に備え、備蓄倉庫を各階に設置しています。また、停電時および下水道途絶時の一定時間は1階トイレが継続して使用できます。

図-2 非常用発電機

図-2 非常用発電機

図-3 異系統2回線受電方式

ユニット型アルミカーテンウォールによる施工の合理化

都心部における施工面での共通する課題として、既存地下躯体利用、高速道路や地下鉄の近接、交通量の多さによる搬入・揚重計画への影響があります。当工事においては、搬入・揚重の関係からファサードを構成するカーテンウォールをシリーズの仕様であるプレキャストコンクリート(PCa)製から軽量化が可能なアルミ製に変更しました。

当シリーズの前回施工物件では、前面道路を使用しての揚重が可能でしたが、交差点に面した当工事では昼間の道路使用許可が下りないため、全ての資材を敷地内で搬入車両から取り込む必要がありました。そのため1ユニットが3t以上あるPCaでは施工が困難なため、各フロアで水平運搬が可能なアルミカーテンウォールを採用しました(写真-6)。

アルミカーテンウォールは、国内外で多くの実績を持つメーカーを採用し、中国・上海の工場で製作しました。超高層ビルで培われた独自の品質管理のもと、複雑なディテールにもかかわらず高品質な製品ができました。また、メーカーと設計段階から協議を重ねることで、当シリーズの特徴である彫りの深いエッジの効いたデザインを損なわない、クオリティの高いファサードに仕上げることができました。

写真-6 アルミカーテンウォールの施工状況

写真-6 アルミカーテンウォールの施工状況

1. パレットによる水平運搬

1. パレットによる水平運搬

2. ユニット仕分け

2. ユニット仕分け

 3. ユニット吊り込み

3. ユニット吊り込み

4. ユニット据付

4. ユニット据付

おわりに

ハイグレードミッドサイズオフィスに対する需要は今後も続くと思われます。これまでの経験を活かし、さらに研究開発を進めることで、快適で魅力あるオフィス空間を創出していきたいと考えています。

なお、当社東京本店・海外支店は、昨年11月に当ビル「S-GATE日本橋本町」に移転しました。

ミッドサイズオフィスビル

工事概要

工事名称 (仮称)S-GATE日本橋本町計画建設工事
工事場所 東京都中央区日本橋本町1-9-1
発注 (株)サンケイビル・三菱倉庫(株)
設計・監理 (株)鴻池組
施工 (株)鴻池組
工期 平成29年5月~平成30年10月
主要用途 事務所
構造・規模 S造 地上11階
建築面積794.57m2
延床面積8,537.31m2

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