技術広報誌ET

技術広報誌ET 2018年発刊号

地域の防災拠点となる
免震構造による市庁舎の建設

489号(2018年04月01日) 伊賀市庁舎 名古屋支店 工事事務所 金尾 弘司・寺井 祥彦

はじめに

伊賀流忍者発祥の地として知られる伊賀市は三重県北西部に位置し、古来より都(飛鳥・奈良・京都など)に隣接する地域であったことから交通の要衝として栄えてきました。当プロジェクトは伊賀市の拠点となる市庁舎の新築工事であり、市街中心部にある現庁舎から三重県伊賀庁舎に隣接した地区への移転となります。この地域で初めての免震構造で、柱にはCFT構造が採用されるなど防災を強く意識した建物で、延床面積が14,000㎡を超える大型案件であることから注目を集めています(図-1)。
ここでは免震装置工事および鉄骨工事における施工上の工夫について紹介します。

図-1 完成予想図

図-1 完成予想図

免震装置工事

建物の平面は、南北63m、東西45mの長方形で、構造的にバランスの良い形状の建物です。基礎の上に免震装置が配置される基礎免震構造が採用され、天然ゴム系積層ゴムアイソレーター24基、鋼材ダンパー4基およびオイルダンパー4基が、その効果を十分に発揮するように配置されています(図-2、3、写真-1)。

図-2 免震装置配置図

図-2 免震装置配置図

図-3 構造計画概要

図-3 構造計画概要

①積層ゴム
②鋼材ダンパー
③オイルダンパー

写真-1 免震装置

今回の施工上の工夫ポイントは以下の2点です。

①免震装置の架台下端へのグラウト注入充填率を、(一社)日本免震構造協会指針の90%より厳しい95%に設定し、実施に向けて試験体により確認した上で本施工を行いました(写真-2)。

②免震装置の架台設置時に、鉄筋と装置のアンカー筋との干渉を十分に検討して施工に臨みました。また、品質管理に際しては、積層ゴムのレベルを±3mm以内とした精度管理を行いました(写真-3)。

写真-2 グラウト試験施工状況

写真-2 グラウト試験施工状況

①鉄筋干渉チェック
②レベルチェック

写真-3 積層ゴムの設置精度管理

免震装置上に取り付く鉄骨の建方

当工事においては、基礎部に設置された免震装置の上に鉄骨を直接建てる工法を採用しました。施工上の工夫ポイントを以下に示します。

①免震積層ゴム拘束材
免震積層ゴムの上に第1節鉄骨(約11m)を直接建てるために、柱の転倒防止(安全対策)および建て起こし精度(品質)確保のため、免震装置の拘束材を改良しました。構造検討の結果、鋼材(L-90×90,t=7㎜)とターンバックルを併用する方法を採用し、段階的に荷重を開放しました(写真-4)。これにより、不安定な積層ゴムの上で柱脚位置の精度が確保できました。

②鉄骨建方と同時に鋼材ダンパーを設置
最下階の梁鉄骨建方前に鋼材ダンパーを設置すると梁鉄骨の取り付けが困難になります。そのため、ダンパーの基礎工事は配筋(スタッド部)までに留め、先行搬入した鋼材ダンパーを最下階の梁鉄骨にセットして柱に取り付けた後、本締め後に基礎コンクリートを打設しました(写真-5)。

写真-4 積層ゴムの拘束材

写真-4 積層ゴムの拘束材

写真-5 梁鉄骨と鋼材ダンパーの取付

写真-5 梁鉄骨と鋼材ダンパーの取付

鉄骨建方におけるその他の工夫

建物外周部の2階床が3階から吊られる構造となっているため、2階鉄骨建方時には四角支柱の仮受けを8ヶ所設けることで対応し(写真-6)、屋根小屋組についても精度確保のために四角柱で対応しました(写真-7)。
また、これに関連する仮設ピースを鉄骨に取り付けて搬入するため、鉄骨製作図作成段階(建方3ヶ月前)で建方計画を取りまとめています。これにより、作業安全性と品質を確保することができました。

写真-6 3階から伸びる2階床吊り用の柱

写真-6 3階から伸びる2階床吊り用の柱

写真-7 仮受け四角支柱建方

写真-7 仮受け四角支柱建方

おわりに

防災拠点となる市庁舎建設における免震装置の設置精度や鉄骨建方作業の安全性確保等について、施工上の工夫を紹介しました。工事は現在(H30.3末)躯体工事を終え、仕上工事を進めている段階です。市民の皆様に長く愛される建物を引き渡しできるよう、竣工に向け工事を進めてまいります。

工事概要

工事名称 伊賀市庁舎新築工事
工事場所 伊賀市四十九町3184番地
発注 伊賀市長 岡本 栄
設計・監理 ㈱日建設計
施工 鴻池・山一特定建設工事共同企業体
工期 平成29年3月~平成30年11月
工事概要 <主要用途>
庁舎
<構造・規模>
鉄骨造(柱CFT造)、基礎免震構造、地上5階 搭屋1階
建築面積3,902.54㎡ 延床面積14,288.72㎡

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489号(2018年04月01日)

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