技術広報誌ET

技術広報誌ET 2018年発刊号

首都高の直下に人道橋を送り出し施工

489号(2018年04月01日) 日本橋川橋梁築造工事 東京本店 工事事務所 平田 学 / 技術本部 土木技術部 神田 勇二

はじめに

当工事は、東京の中心地である東京駅付近を流れる日本橋川の千代田区大手町二丁目(右岸側)と中央区日本橋本石町四丁目(左岸側)間に歩行者専用橋(人道橋)を架設する工事です(図-1)。人道橋の詳細設計と施工を当社が担当しました。

図-1 現場位置図

図-1 現場位置図

架橋箇所の上空には首都高速都心環状線の高架橋が走り、真横には東京から上野方面に向かうJRの主要幹線、日本橋川に隣接して平行に走る首都高速八重洲線の地下トンネルがあり、これらの近接する重要構造物に影響を与えないように施工することが大きな課題でした(図-2)。

ここでは、河川内に設置したPCウェル工法によるP2橋脚の施工と、大手町側から送り出し工法で架設した人道橋上部工の施工について紹介します。

図-2 平面図および断面図

図-2 平面図および断面図

河川内でのPCウェル工法による下部工の施工

河川内に施工するP2橋脚については、基礎部と橋脚部が一体構造となるPCウェル工法を採用しました。

P2橋脚の位置は、日本橋川の河積阻害を考慮し、右岸側に近い河川内に配置しましたが、日本橋川に隣接して首都高速八重洲線のトンネルが通っており、その直上には揚重機が設置できないため陸上からの施工は不可能でした。そのため、河川内から65t吊のクレーン台船を使って施工しました(写真-1)。クレーン台船は、左岸側の工事ヤードからフロートを河川内に下ろし、組み立てました。

PCウェルは、1ブロック当り11t、全10ブロックの構成とし、工場製作したブロックを左岸側ヤードに搬入後、クレーン台船にて運搬・設置しました。

クレーン台船での施工はP2橋脚と首都高速都心環状線の橋脚に挟まれているうえに、上空の首都高速都心環状線の桁下のため空頭も制限されるという非常に狭隘な条件下での施工となりました。それに加えて、日本橋川は干満差が約2mあるため、潮位によって上空の離隔が変化してしまうことも施工上の大きな課題となりました。これらの対策として、首都高速の橋脚とクレーンブームの先端にレーザーバリアを設置することにより、クレーンのブームが構造物に接触することを防止し、慎重に作業を実施しました(図-3)。また、既設護岸や首都高速八重洲線のトンネル構造物に傾斜計および沈下計を設置して常時自動計測をすることで施工による影響の有無を確認・管理しました。

PCウェルの施工完了後には、上記と同様にクレーン台船を使って、日本橋川の新設防潮堤の施工を行いました。近接構造物への影響がなく、河川内で施工が可能な自走式回転圧入工法のジャイロプレス工法(先端ビット付鋼管杭回転圧入工法)を採用し、φ1500mmの鋼管杭を設置しました。護岸の被覆コンクリートは、プレキャスト製品を用いて工期短縮を図りました。

図-3 P2橋脚および防潮堤の施工計画図

図-3 P2橋脚および防潮堤の施工計画図

上部工の送り出し工法による河川横断部施工

人道橋の上部工は全体の橋長が122mの鋼3径間連続ラーメン橋で、このうち、P3橋脚からP1橋脚までの約97m(2径間の支間長95.1m)を送り出し工法で架設しました。人道橋の橋面から首都高速都心環状線の桁下までの離隔が約6.8mしかないほか、架橋位置の周囲の河川内は河積阻害制限のため、また、P2~P3間の地上部は首都高速八重洲線のトンネル構造物への荷重制限のため、架設用の大型クレーンやベント設備(桁を仮受する支柱)が設置できず、都心部では珍しい送り出し工法による架設方法を採用しました。

送り出し用の作業構台(ステージ)は長さが64mで、右岸のP3橋脚後方に設けました。後方の区道部を関係車両以外通行止めとするとともに半車線分を占用して作業構台を設置しました(写真-2、図-4)。隣接した超高層ビルの建築工事への車両動線を確保する必要があったため、H-956×300のH型鋼を軌条梁に用いることで、5.2mの桁下空間を確保しました。

図-4 送り出し架設の概要図

図-4 送り出し架設の概要図

架設する箱桁の組立は、工場製作した幅3.5m×長さ10mの部材を作業構台の後方に据えた75t吊油圧クレーンを使用して作業構台上に揚重し、約50m分を仮組み立てしました。その後、本溶接およびボルト接合を行い、送り出しを実施しました。この作業工程を2回繰り返し、約5ヵ月間で97m分の送り出しを行いました。

今回の送り出しに伴う先端部材(手延べ機)のたわみ量は、事前の試算では最大で1.3mでした。送り出しラインを水平に設定した場合、上げ越し量はこのたわみ量と同程度必要となります。今回の施工では前述したように建築工事の車両動線を確保するため、作業構台の桁下に5.2mの空間を設けました。その結果、送り出しの施工基面が高くなり、1.3mの上げ越し料を加味すると、上空の首都高速の桁との最小離隔距離は1.5mとなりました。この値は、首都高速との近接協議で決められた最小安全離隔距離と同値となることから、送り出し時の実際の離隔距離がこれ以上小さくならないように徹底した計測管理が求められました。

1日当りの送り出し量は、1ストローク1mを10回繰り返し最大で10mになります。桁(手延べ機および箱桁)と首都高速都心環状線の桁との離隔距離を適切に保持するため、全送り出し工程を51ステップ(送り出し量と桁の支持状況の変化に応じたステップ)に分割・モデル化し、事前解析で求めた各橋脚位置(P1、P2、およびP3橋脚)での支点反力と手延べ機先端の変位量(手延べ機がP1橋脚に到達後は箱桁先端の変位量)と実測値とを対比することで管理を行いました。支点反力は鉛直ジャッキの荷重計を用いて測定し、現場事務所のモニターにて常時見える化を行い、桁先端の挙動は、トータルステーションとレベルによる水平・鉛直管理を日々行いました。徹底した管理により、安定したバランスで送り出しを行い、首都高速都心環状線との最小離隔距離1.5m以上を厳守することができました(写真-3)。

写真-1 PCウェル工法によるP2橋脚施工状況

写真-1 PCウェル工法によるP2橋脚施工状況

写真-2 作業構台上の箱桁(手前)と手延べ機(左奥)

写真-2 作業構台上の箱桁(手前)と手延べ機(左奥)

写真-3 送り出し施工状況

写真-3 送り出し施工状況

おわりに

当工事は、設計・施工一括発注の工事で、狭隘な空間かつ地下構造物の存在による荷重制限など、都市部特有の特徴を有する土木工事でした。工事計画全般にご指導・ご協力いただいた発注者である都市再生機構様をはじめ、設計協力していただいただ大日本コンサルタント様やその他の協力会社の皆様のご協力により、無事竣工を迎えることができました。

本橋の名称は、一般公募により「竜閑(りゅうかん)さくら橋」に決定しました。東京の都心部に位置する生活に密接した重要インフラの整備に携わったことを誇りとするとともに、今回の経験を活かして更なるチャレンジをしていきたいと思います

写真-4 人道橋架設完了

写真-4 人道橋架設完了

工事概要

工事名称 大手町二丁目地区(再)日本橋川橋梁その他築造工事
工事場所 東京都千代田区大手町二丁目、東京都中央区日本橋本石町四丁目
発注 独立行政法人都市再生機構 東日本賃貸住宅本部
設計・施工 ㈱鴻池組
工期 平成26年7月~平成30年3月
工事概要 ・下部工工事
 場所打ち杭
 φ3000 L=17.5m・18.5m 計2本
 φ2500 L=19.5m 1本
 φ1000 L=17.5m・21.0m 計2本
 PCウェル φ2500 L=25.0m 1本
・上部工工事 鋼3径間連続鋼床版箱桁・鈑桁 幅員7.0m 橋長122m
・鋼管護岸工事 鋼管杭 φ1500 L=23.5m 12本
・神田側橋詰広場整備工事 一式
・設備工事 エレベーター 2基
・照明設備 給水設備 一式

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