技術広報誌ET

技術広報誌ET 2017年発刊号

狭隘空間における
高架橋損傷部の断面補修工事

486号(2017年07月01日) 九州新幹線:新玉名・新八代間土木構造物災害復旧 九州支店 工事事務所 葛原 茂 / 技術統括本部 土木技術部 内田 博之

はじめに

当工事は、平成28年4月に発生した熊本地震により損傷を受けた九州新幹線新玉名駅から新八代駅間のうち、約7.9kmの区間について、RC単T桁(上部工)、橋脚・ラーメン高架橋(下部工)の復旧を行っています(写真-1)。ここでは、上下部工を連結するストッパーの衝撃に起因した端横はり・桁座コンクリートの損傷について、ウォータージェット工法により復旧を行った内容を紹介します(写真-2)。

写真-1 ラーメン高架橋・RC単T桁全景

写真-1 ラーメン高架橋・RC単T桁全景

写真-2 橋脚-RC単T桁(復旧完了状況)(S;ストッパー、G;ゴム支承)

写真-2 橋脚-RC単T桁(復旧完了状況)
(S;ストッパー、G;ゴム支承)

損傷箇所における復旧方法について

端横はりと桁座のずれを抑制するストッパーへの衝撃により発生したひび割れは、ストッパーを中心に正面側および背面側にほぼ放射状に発生しており、0.2mm程度の軽微なものから、1.0mmを超えて、段差や浮き(コンクリートの一部が内部と一体性を失いつつある状態)にまで進展している損傷が確認されています(写真-3)。

ひび割れ幅0.2mm以上で段差もしくは浮きを伴う損傷箇所について原形復旧を行うことが求められました。端横はりおよび桁座の線路軸方向の部材厚は0.7~1.0mであり、ストッパーはそのほぼ中央に配置され、端横はりと桁座とのクリアランスは100mm程度しかありません。ストッパーの正面側に発生している浮きについては、通常の復旧方法である「人力・手工具でのはつり+グラウト充填による修復」工法により正面側からの施工が可能です。しかし、背面側に発生している浮きについては、通常の復旧方法では健全な部分もはつり取るような大掛かりな解体工事となってしまいます。

そこで、狭小な空間でも施工が可能で、健全な範囲を極力撤去することがなく、かつ修復材の接着効果を最大限に発揮できる「ウォータージェット(以下 WJ)+グラウト充填」工法を採用しました。

今回採用したWJ工法は、ノズルから高圧水を噴射してコンクリートをはつる工法です。先端ノズル(ノズル高;30~70mm)は上向きで、角度調整が任意に行える構造となっており、損傷箇所を局所的かつ効率的に撤去することが可能となりました(写真-4)。

グラウト材には、①狭隘な箇所に充填可能な流動性および十分な可視時間であること、②既設構造物との一体化が図れること、③ひび割れ抵抗性に優れていること、が要求されるため、「ポリマー配合型無収縮グラウト材(収縮ひび割れ低減タイプ)」を採用しました。

写真-3 端横はりストッパー背面損傷(段差浮き)状況

写真-3 端横はりストッパー背面損傷(段差浮き)状況

写真-4 WJ工法 先端ノズル状況

写真-4 WJ工法 先端ノズル状況

WJ+グラウト充填工法の施工手順

STEP-1 飛散防止工

端横はり背面側遊間部より、WJの高圧水が軌道部へ噴出するのを防止するため、厚さ3.2mmの鋼板を側部遊間部(幅100mm)より設置します。鋼板はキャスター付移動台車に固定し、任意のストッパー位置に移動させた後、エアチューブで固定します(写真-5、6)。なお、鋼板はグラウト充填時の褄型枠となります。

写真-5 鋼板設置状況

写真-5 鋼板設置状況

写真-6 エアチューブ固定状況

写真-6 エアチューブ固定状況

STEP-2 直噴射型ノズルWJによる1次撤去工

端横はり正面より幅300mm、高さ100mmの範囲を通常のWJ工法で使用される直噴射型ノズルで、ストッパー背面側まで撤去します(写真-7)。ストッパー正面側の撤去範囲は、グラウト充填の際の充填口として使用します。また、撤去高さは、グラウト材と確実に一体化するようにせん断補強筋が十分に露出する100mmとしました。

写真-7 1次撤去完了

写真-7 1次撤去完了

STEP-3 角度調整型上向ノズルWJによる2次撤去工

1次撤去完了後、角度調整型上向ノズルWJによる2次撤去を行います。2次撤去はストッパー背面の放射状(ハの字)に広がった範囲を行います。躯体構造物を反力とするためWJ本体を構造物に固定し、先端ノズルの角度(①)および線路方向の位置(②)を角度調整用ハンドルで調整しながらはつり作業を行います(写真-8)。また、作業性を考慮し、高さ(③)・線路直角方向(④)には自由に調整・スライドできる構造(スライド型反力固定台)としました。背面側の損傷範囲が確実に撤去されているか、適宜ファイバースコープにより確認しながら2次撤去を行いました(写真-9)。

写真-8 2次撤去状況(角度調整型上向ノズルWJ)

写真-8 2次撤去状況(角度調整型上向ノズルWJ)

写真-9 2次撤去状況(ストッパー背面側)

写真-9 2次撤去状況(ストッパー背面側)

STEP-4 グラウト充填工

2次撤去完了後、飛散防止用鋼板を一旦撤去して、背面側撤去範囲の清掃を行い、褄型枠として鋼板を再度設置します。また、端横はり下面の型枠は、ストッパー背面側まで確実に支保できるよう、褄型枠同様にエアチューブにより固定しました。

グラウト充填は正面側に設置した充填口に注入ホースを接続し、モルタルポンプにより充填を行いました(写真-10)。

 写真-10 型枠設置・グラウト充填状況

写真-10 型枠設置・グラウト充填状況

おわりに

本工法は、橋梁関係の維持管理等で採用されています。今回は、新幹線走行下での復旧工事であり、安全、品質に特に留意し施工を行っています。当工事で得た知見および施工上の工夫を、今後の同種工事に活かしてまいります。

工事概要

工事名称 新玉名・新八代間土木構造物災害復旧7
工事場所 熊本市西区、八代市
発注 九州旅客鉄道株式会社
施工 (株)鴻池組
工期 平成28年8月~平成29年12月
工事概要 1.断面修復工事(ウォータージェット) 2.断面修復工(左官) 3.ひび割れ注入工(低圧・高圧) 4.表面被覆工 5.仮設足場工

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486号(2017年07月01日)

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