技術広報誌ET

技術広報誌ET 2017年発刊号

埋蔵文化財包蔵地における
文化財研究施設の建設

486号(2017年07月01日) 奈良文化財研究所本庁舎 大阪本店 工事事務所 内部 博信

はじめに

奈良文化財研究所の本庁舎は1964年に建築後、約50年が経過したことから老朽化および狭隘化が著しく進み、主要構造部である柱・壁・床などに経年損傷による無数のひび割れが発生していました。このような状況を受け、施設の安全性や防災対策の強化、および適切な調査研究環境を確保することで、高度な研究を実施するナショナルセンターとして再開発することになりました(図-1)。

図-1 平城宮跡方向からみた完成予想図

図-1 平城宮跡方向からみた完成予想図

発掘調査と建築計画

当敷地は図-2に示す通り、平城宮跡の西隣に位置しています。新庁舎の建設に先立って2014年4月から2015年2月まで発掘調査が行われた結果、奈良時代に造られた一条南大路と南北両側溝が確認され、平城宮西面中門(佐伯門)周辺の様相を知る上で重要な成果が得られました。また、平城京造営時には、秋篠川旧流路を改修した斜行大溝を埋め立てる大規模な土木工事を行っていることがわかりました。これらの地下遺構の保護を図るため、当初の計画が大幅に見直されました。

建物は鉄骨鉄筋コンクリート造と鉄骨造が併用され、規模は地下2階、地上4階、延床面積11,387㎡、北棟と南棟の2棟から構成されています。なお、敷地周辺は風致地区に指定されていることなどからグレー系を基本とした外観が採用され、建物高さは「15m高度地区」指定により高さが制限されています。

図-2  敷地周辺状況 (文献②より引用・加筆)

図-2  敷地周辺状況 (文献②より引用・加筆)

遺構と地下工事計画

前述の発掘調査結果を受け、掘削等の地下工事計画において地下遺構に対する様々な配慮を行いました。北棟は地下2階でベタ基礎が採用され、掘削深さはGL-12.05mとなっていますが、北棟の東側部分は地下階がなく、掘削深さはGL-1.87mで杭基礎が採用され、遺構に配慮した杭配置となっています。一方、南棟は一条南大路と北側溝の上に配置されるため地下階はなく、掘削深さはGL-2.20mで杭基礎が採用され、建物全体の軽量化や旧建屋の杭跡を活用するなど、地下遺構に配慮した計画となっています(写真-1、図-3)。なお、北棟地下部の施工にあたっては、山留め壁に当社の保有技術「ECO-MW工法」を採用しています。

施工に当たっては、発掘調査遺構図および旧建屋基礎図を重ね合わせて掘削計画図を作成しました(図-4)。重機掘削で遺構を傷めないように作業を進め、遺構に近い杭基礎周囲は手掘り作業となっています(写真-2)。また、発掘調査後に遺構上に施した保護層(砂30㎝厚)が現れた時は作業を一旦中断した上で、担当者の立会いのもと慎重に作業を進めました。写真-3は杭頭部に表出した保護層とボイド型枠です。

また、仮設物である仮囲いの設置においては、敷地北側部分で地下遺構が地表から浅い位置にあり、控えの単管パイプが打ち込めないため鋼材(H-400)を使用しました(写真-4)。

写真-1 施工状況

写真-1 施工状況

図-3 遺構・新築重ね合わせ図(断面)

図-3 遺構・新築重ね合わせ図(断面)

図-4 遺構・新築重ね合わせ図(掘削計画図、抜粋)

図-4 遺構・新築重ね合わせ図(掘削計画図、抜粋)

写真-2 手掘り作業状況

写真-2 手掘り作業状況

写真-3 杭頭部に表出した遺構保護層

写真-3 杭頭部に表出した遺構保護層

写真-4 鋼材を用いた仮囲い

写真-4 鋼材を用いた仮囲い

地下書庫の湿度対策

監理者、JV職員および作業者が一体となって取り組んだことにより美しいコンクリート面をつくることができました(写真-6)。

写真-5 先やり防水施工状況

写真-5 先やり防水施工状況

図-5 地下外壁断面詳細図

図-5 地下外壁断面詳細図

おわりに

平城宮跡に隣接する埋蔵文化財包蔵地において、現在進行中の研究施設建設について報告しました。これからも地上躯体、内外装、外構と工事が続きますが、地下遺構や周辺環境に配慮されたすばらしい建物を引き渡しできるように、竣工に向け職員一丸となって取り組んでまいります。

工事概要

工事名称 奈良文化財研究所本庁舎新営その他工事
工事場所 奈良市二条町2-9-1
発注 独立行政法人国立文化財機構 奈良文化財研究所
設計 (株)日本設計、(株)総合設備計画
監理 (株)内藤建築事務所
施工 (株)鴻池組 ※建築工事
工期 平成28年5月~平成30年3月
構造・規模 鉄骨鉄筋コンクリート、鉄骨造
地下2階 地上4階
建築面積2,812.4㎡ 延床面積11,387.0㎡

〈参考・引用文献〉

  • ① 奈良文化財硏究所ホームページ
  • ② 奈良文化財硏究所第118回公開講演会パンフレット

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486号(2017年07月01日)

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