当プロジェクトは、名古屋大学東山キャンパスの豊田講堂と図書館を結ぶ軸線上のグリーンベルトに、大学・地域・企業など多様な「人」と「知」が集い、将来を見据えた先進的で革新的な「教育の共創拠点」となる人と建築とランドスケープが融合した新たな施設を建設するものです。建設に当たって東海国立大学機構は公募型プロポーザル方式を採り、小堀哲夫建築設計事務所からの提案が採用されました。グリーンベルト付近は、かつて谷戸(やと)と呼ばれる谷地形でした。この提案ではその地形の記憶を再現して、緩やかな窪みを持つ広場、それを包み込むように両側に広がるクスノキの並木、そして広場の下には半外部のような地下空間が配置されています(図-1、2)。
図-1 谷戸地形の再現(提供;小堀哲夫建築設計事務所・LANDSCAPE+)
図-2 完成時のイメージ(図2~4の提供:小堀哲夫建築設計事務所 )
ここでは、ランドスケープを含めた建物の概要を紹介するとともに、施設を特徴付ける凹面形状の屋根の施工を中心に紹介します。
当施設の地上部は、前述のとおり「谷戸広場」と呼ばれる緩やかな凹面形状の芝生広場として開放される予定です。地下部に主要な機能が全て配置されていますが、地上の広場を支えるコンクリート床版の両端は反り上がっているため、一直線の軒下空間を生み出しています(図-3)。また、この軒下から自然光や通風を得ることで、地下空間に明るさや開放感を与えています(図-4)。
施設は地下部で地下鉄(名古屋大学駅)に直結するとともに、既存の図書館とは新たに整備される広場を介して連絡ブリッジで繋がり、地上からは20箇所ものルートからアクセスが可能など、開かれた施設となっています。
図-3 一直線に続く軒下空間のイメージ
図-4 地下ホールのイメージ
○事前の施工検討
建物の屋根であり広場を支える凹面形状のコンクリート床版は、一定の曲率ではなく円錐を斜めに切断した形となっています。この変化する曲面をコンクリートで構築するに当たって、3Dモデルによる事前検討(図-5)およびモックアップを製作して型枠支保工を中心に詳細検討を行いました(写真-1)。屋根の下が屋内となる範囲は900mm×1800mmの平らなコンパネを用いていますが、屋外となる庇部分については仕上げの関係から曲面型枠を用いることになりました。この庇部分についてはコンクリートを実際に打設して出来栄えを確認しました(写真-2)。なお、実施工に向けて曲面型枠の転用について検討しましたが、曲率変化への対応など管理が難しいことから準備率100%としました。
図-5 3Dモデルによる検討
写真-1 型枠モックアップ
写真-2 庇部分モックアップの出来栄え確認
○鉄筋コンクリート工事
地下部耐震壁や鉄骨柱など垂直部材を施工後に、モックアップにて検討した型枠支保工組立・コンパネ貼りを行い、引き続き配筋作業を行いました(写真-3、4)。搬出入車両の出入り口や待機場所の制限等から1日当たりのコンクリート打設数量を280㎥以下とする基本計画を立て、作業工区を分割して順次鉄筋コンクリート工事を進めました。
写真-3 型枠支保工の組立状況
写真-4 配筋状況
急勾配部分のコンクリート打設は、スラブ筋上にアングルを配置することでコンクリートの流れ止めと天端出しを行いました(写真-5)。屋根スラブの乾燥収縮対策としては、コンクリート打設後に急激な乾燥が起きないように散水の上、シート+ネットで覆い湿潤養生を行いました(写真-6)。また、コンクリートの試験練りによって最終の乾燥収縮率(500μ以下)を把握し、それに応じた収縮帯を設けることで構造的に問題となるようなひび割れの発生を防止しました(写真-7)。
写真-5 止めアングル設置状況
写真-6 シートによる湿潤養生
写真-7 収縮帯の後打ちコンクリート
○既存樹木の保全対応
設計図書の特記仕様には、既存樹木の保全について工事中の対応も含め詳細な指示があります。特に並木として大きく育っているクスノキの保全が求められました(写真-8)。仮設計画に当たっては搬出入車両の出入り口、構台の設置場所や大きさが制限されましたが、乗り入れ口を増設して対応することで樹木の伐採や移植を極力減らし、樹木に損傷を与えないで工事を進めることができました。
写真-8 敷地両側の保存対象既存樹木
当施設は、「Common Nexus」と命名され、東海国立大学機構が運営する新しい価値を生み出す共創の場として今夏(2025年)よりオープンする予定です。新たなコンセプトを持ったこの施設が、学内外の皆様に愛され、自然の中に溶け込んで成長していくことを願っています。
工事名称 | 東海国立大学機構(東山) プラットフォーム(仮称)新営その他工事 |
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工事場所 | 愛知県名古屋市千種区不老町 名古屋大学東山団地 |
発注 | 東海国立大学機構 |
設計・監理 | 東海国立大学機構、(株)小堀哲夫建築設計事務所 |
施工 | (株)鴻池組 |
工期 | 2023年3月~2025年3月 |
用途 | 大学 |
構造・規模 | 鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造) 地上1階 地下2階 建築面積5,469.33㎡ 延床面積7,312.60㎡ |