技術広報誌ET

技術広報誌ET 2025年発刊号

RCS構法による冷蔵倉庫の設計・施工

西宮市鳴尾浜三丁目計画 516号(2025年1月1日) 大阪本店 工事事務所 柴田 泰英 / 設計本部 溜池 博樹

はじめに

当冷蔵倉庫の建設場所である兵庫県西宮市鳴尾浜は1976年に完成した埋立地で、大阪の南港と神戸の垂水を結ぶ阪神高速5号湾岸線の南に立地しています。近くには阪神タイガース二軍の拠点である阪神鳴尾浜球場があり、30年にわたって多くのファンに親しまれてきましたが、2025年より隣の尼崎市へ移転することになりました。敷地周辺は多くの物流施設が建ち並ぶ環境(準工業地域・臨海産業地区)で、大阪湾越しの南側には現在建設中の「2025年大阪・関西万博」の施設群をみることができます。
ここでは、倉庫用途の建物に適するRCS構法(柱RC+梁S)を採用した冷蔵倉庫の設計・仕様の特徴、および施工上の留意点と品質管理について紹介します。

建物概要と冷蔵倉庫の需要

建物は地上4階建て、長辺が約53m、短辺が約35mで延床面積は7,323㎡、最高高さ29.94m、階高7m前後の中規模な冷蔵倉庫です(図-1)。1階は倉庫としての汎用性を持たせるため、-25℃~+5℃に対応できる可変倉庫、2~4階は-25℃の冷凍倉庫で、屋上には冷凍機器等の設備機器が配置されます。また、1階の床下は凍上防止のために通気ピットを設けています。建物の躯体は日本建築総合試験所から性能証明(GBRC 性能証明 第08-04号 改1)を取得した独自のRCS接合構法を採用し、1~3階はRCS造、4階はS造となっています(図-2)。

図-1 完成予想図

図-1 完成予想図

図-2 RCS構法の概要

図-2 RCS構法の概要

冷蔵倉庫は、国内外の産地から送られてくる食品をスーパーなどの小売店に配送するまでの間、品質を保てる低温で保管・管理する施設です。保管する食品は水産物、畜産物、農産物など多岐にわたり、食品に合った温度管理(C級・F級を細分化した10種類の級に分類)が必要となります(図-3)。また、荷捌きスペースは保管スペースと異なる温度設定が求められます。
一方、2024年問題の一つである物流問題には、輸送だけでなく保管に関わる問題もあります。その中でも「食」を支える冷蔵倉庫は、老朽化が進んだ施設が多いこと、冷凍食品の消費量が増加していることなどから不足しており、より付加価値の高い高性能な冷蔵倉庫が求められています。

図-3 食品と保管温度(出典;日本冷蔵倉庫協会パンフレット)

図-3 食品と保管温度(出典;日本冷蔵倉庫協会パンフレット)

冷蔵倉庫としての設計上の特徴

ここでは普通倉庫と異なる設計上の特徴や仕様、検討事項について紹介します。
1)防熱・防湿仕様
 冷蔵倉庫は家庭の電気冷蔵庫を大きくしたような構造で、保管空間は防熱材で覆われます。防熱方式には「プレハブ式(防熱パネルを組み立てて形成)」と「築造式(防熱材を現場施工して構築)」があります。当倉庫は、ウレタン吹付およびスタイロフォームでの防熱がメインの築造式を採用しています。
冷凍倉庫部分の防熱仕様は以下の通りです(図-4)。

図-4 冷凍倉庫外壁部分の断面詳細図 (拡大)

2)冷凍設備の選定
 設備計画において普通倉庫と最も異なる点は、冷凍設備です。運用時に膨大なエネルギーを消費することになるため、設備機器のイニシャルコストだけでなく、ランニングコストを加えたライフサイクルコスト(LCC)で判断する必要があります。今回は自然冷媒の「NH3冷媒」と「CO2冷媒」について検証しました。
NH3冷媒はエネルギー効率がよく、年間の電気料金としては下がる傾向にありますが、アンモニアを使用しているため火災や爆発の危険性があり、それを防止するための除害装置が必要となります。また、その除害装置を常時稼働させるための非常用発電機も必要となります。電気料金、機器本体のメンテナンス費用や除害装置のメンテナンス費用、およびアンモニアを凝縮させるための冷却塔給水の水道料金を合わせた20年間のLCCとCO2冷媒を採用した場合のLCCを比較した結果、CO2冷媒が安価となりました。この結果、安全性の観点も含め当建物ではCO2冷媒を採用することになりました(図-5)。なお、建物規模が今回の1.5倍程度になると電気料金の低減が効き、NH3冷媒の方がLCCで有利になるという結果でした。

図-5 CO2冷媒冷凍機の内部構成(出典;日本熱源システム㈱パンフレット)

図-5 CO2冷媒冷凍機の内部構成(出典;日本熱源システム㈱パンフレット)

3)構造躯体に関わる検討
 冷蔵倉庫であることに伴う構造計画上の検討事項としては、RCS構法のS造梁の低温対策および床ひび割れ対策があります。-25℃になるような温度帯では、地震の衝撃力などにより低温域での鉄骨脆性破断が危惧されます。この対策として柱をRC造とし、大梁には低温下でも所定の性能を発揮する低温靭性保証鋼を採用しました。この鋼材は、シャルピー衝撃試験により低温時のシャルピー吸収エネルギー(27J)が保証されています。
床のひび割れ対策については普通倉庫と大きな違いはありませんが、ひび割れ防止に有効となる水セメント比、単位セメント量等を規定するとともに、膨張材の投入や石灰石骨材を使用しています。

施工上の留意点と品質管理

1)防熱・防湿工事
 冷蔵倉庫においては結露により水分が断熱層の内部に入り込んで断熱性能が低下することが一番の問題となるため、防湿対策が重要になります。断熱性能が高いサンドイッチパネルが外壁に用いられていますが、パネルの縦目地部分への外部からのシーリングに加え、横目地部分についても内部からシーリングを施し、建物外部からの湿気侵入を防いでいます。床の保護コンクリート下の防熱層には、改質アスファルトシートをコンクリート面とスチレン成型板の上に施工しています(写真-1)。また、1階柱の2.0m高さまでやトラックバース上部、上階が冷凍倉庫の低温室上部、低温室と冷凍倉庫の間仕切壁には、防湿材となる高濃度ゴムアスファルトエマルジョンを吹き付けています。
防熱工事の核となるウレタンの吹き付けについては、仕様厚さの確保はもちろんのこと、外壁と柱型、耐風梁と外壁、スラブ端部と外壁などの吹き付け作業が難しい部分については、空隙が発生しないように1回の吹付厚さを30mm以下とすることで確実に充填できるようにしました。また、温度差があって熱を伝え易い熱橋部への対策である折り返し部分の範囲確認にも十分な配慮を行いました(写真-2)。

写真-1 冷凍倉庫床の施工状況

写真-1 冷凍倉庫床の施工状況

写真-2 冷凍倉庫の防熱工事状況

写真-2 冷凍倉庫の防熱工事状況

2)設備工事における断熱
 設備工事においては、耐火断熱パネルの貫通部仕舞いおよびスラブ貫通部の緩衝帯(2m以内)の断熱を重点的に管理しています。壁の貫通部については、空気の流れをなくすため貫通箇所にボックスを設置し、配管・配線の完了後にボックス内にウレタンを充填することで、空気を遮断して断熱を行っています(写真-3、4)。
給水管や排水管などの竪管が床を貫通する箇所は、通常パイプスペース内の常温帯ですが、温度緩衝帯内に掛かる場合は管内を流れる液体が凍らないように貫通部とその前後を断熱します。

写真-3 冷凍機の室内機

写真-3 冷凍機の室内機

写真-4 壁貫通部に設置されたボックス

写真-4 壁貫通部に設置されたボックス

3)RCS(躯体)工事
 柱(RC)は建物の規模や工期を考慮して、プレキャスト工法ではなく現場打ち工法としました。型枠については、階高が高いこと(7m超)からシステム型枠の採用を検討しましたが、敷地が狭く1フロア当たりの柱本数が24本と少ないことから転用によるメリットがないと判断し、大判パネルの在来型枠工法を採用しました(写真-5)。また、鉄筋は立てた状態で地組し、クローラークレーンにて揚重・取付を行いました。
今回のRCS工事における重点管理項目として、RC柱へのパネルゾーン部鉄骨の取付精度(±20mm)の確保、およびパネルゾーン部のコンクリート充填があります。鉄骨の取付精度については、建方用ガイドとして柱頭部にアンカー筋を設けることで、±10mmの精度で鉄骨を取り付けることができました。また、コンクリート充填については、高さ60mmのまんじゅう(無収縮モルタル)を設けることで鉄骨下へのコンクリート充填が容易になりました(写真-6)。

写真-5 建込み後の柱型枠

写真-5 建込み後の柱型枠

写真-6 RC柱の柱頭部

写真-6 RC柱の柱頭部

おわりに

西宮市鳴尾浜で建設中の冷蔵倉庫の設計・施工について、特徴的な内容に絞り紹介しました。現在、工事をほぼ終え3月の竣工に向けて検査工程、稼働に向けた予冷へと進みます。冷蔵倉庫に対するニーズは今後も高まると予想されています。今回の実績を踏まえ、環境にやさしく効率的な建設方法への改善に今後も取り組んでまいります。

工事概要

工事名称 (仮称)西宮市鳴尾浜三丁目計画
工事場所 兵庫県西宮市鳴尾浜三丁目11-3, 21-4
発注 JA三井リース建物(株)
設計・監理 (株)鴻池組
施工 (株)鴻池組
工期 2023年10月~2025年3月
用途 冷蔵倉庫(倉庫業を営む倉庫)
構造・規模 RCS造(一部S造) 地上4階
建築面積1,842.59m2 延床面積7,323.02m2

516号(2025年1月1日)の記事

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