当プロジェクトは、茨城県つくば市みどりの南に開発された工業団地内に、当社の設計・施工にて大規模な物流倉庫を建設するものです。この地域は「谷田部」と呼ばれ、低地すなわち川に挟まれた谷地に開かれた田に由来するこの地名が示す通り、独特の風景を醸し出しています。
ここでは、厳しい工期の中で工期短縮と生産性向上を図るために採用した、RCS構法の「柱プレキャスト(PCa)化」を中心に紹介すると共に、柱を現場打ちする在来工法との比較検証について報告します。
〇計画概要
当建物は、地上4階建て、長辺が約208m、短辺が約94mの矩形で延床面積が80,000㎡を超える大規模な物流倉庫です。1階は両面バース、2階はスロープで接続する片面バースで、1・4階、2・3階の組み合わせによるテナント貸しの構成で、4階には1階から、3階には2階から荷物用EV、垂直搬送機による縦動線が計画されています。また、各階は2分割または3分割可能なマルチテナント型倉庫となっています。
内外装デザインには、谷を形づくる河川網、谷まわりに敷き詰められるように開墾された水田など、谷田部の原風景を形成する地形の特徴をデザインモチーフに取り入れ、地域に溶け込み共生する建物となることを目指しました(図-1)。
〇構造概要
建物の構造種別は、柱が鉄筋コンクリート(RC)造、梁が鉄骨(S)造のRCS造(最上階はS造)です(図-2)。架構形式は、XY方向ともブレース併用のラーメン構造で、ブレース形状はA型またはV型を設置位置の条件に応じて選択しています。
図-1 完成予想パース
図-2 RCS構法の概要
〇PCa化への対応
当工事では工期短縮や生産性向上を目的として柱部材、柱梁仕口部材にプレキャスト工法を採用しています。柱主筋の継手部には、(一財)日本建築センターのSA級継手の評定を取得しているスプライススリーブ継手工法を採用しました(写真-1)。SA級継手は強度・剛性・靭性等が母材と同等の性能を有しているとして評価されているため、柱脚部の塑性ヒンジを形成する部分にも採用することができます。ただし、SA級継手とするためには、「竹節鉄筋」を使用する必要があるため、1、2階の柱主筋は竹節鉄筋を用いていますが、3階の柱主筋は柱頭部の鉄筋定着に機械式定着版を使用することから「ねじ節鉄筋」を使用しました。ねじ節鉄筋の併用により継手の性能はA級継手となることから、3階部分については柱の部材ランクをFCランクとし、必要保有水平耐力を割り増して構造計算を行いました(図-3)。
写真-1 スプライススリーブ継手
図-3 柱主筋継手概要図
〇施工手順
柱および柱梁仕口部にPCa工法を採用した架構の建方施工手順を説明します。
< STEP0:N階のデッキ張り完了 >
翌日のPCa部材建方のために天端レベルを測量し、ライナープレートを設置します。
< STEP1:柱PCa取付 > (写真-2)
先行搬入した柱PCaに仕口部施工用の足場や昇降設備を設置し、揚重します。工区によって多少変化しますが、おおむね2×3スパン、柱9本を1ブロックとして施工します。
写真-2 柱PCa取付状況
< STEP2:仕口部PCa取付 > (写真-3)
先行設置した足場、または高所作業車を使用してセットします。軸組ブレースがV型で単独の場合は、大梁取付前に取り付けます。
写真-3 仕口部PCa取付状況
< STEP3:大梁鉄骨取付 > (写真-4)
A型の軸組ブレースを地組し、取り付けます。
写真-4 軸ブレース大梁鉄骨取付(A型)
< STEP4:小梁鉄骨取付と本締め・溶接 > (写真-5)
大梁はウェブがボルト、上下フランジが溶接です。小梁も大多数が剛接合で、ウェブがボルト、上下フランジが溶接です。
写真-5 梁接合部溶接状況
< STEP5:スラブデッキ敷込・鉄筋材揚重 > (写真-6)
たわみ防止対策として鉄骨小梁上にコマ材を設置し、その上に100角パイプを配置して鉄筋を仮置きします。
上記STEP完了後に建方作業は次工区へ移ります。なお、床コンクリート打設までに、①仕口部PCaにグラウト注入、②仕口部下部の目地埋め、③柱PCa足元のグラウト注入、④スラブ配筋を行います。
写真-6 鉄筋材揚重状況
〇在来工法との比較
1工区当たり柱10本とした場合、在来工法による柱製作に対してPCa工法は約5日間の工期短縮となります(図-4)。また、PCa工法ではデッキ敷込後、N+1階のPCa柱取付ができる建て逃げ方式が可能ですが、在来工法ではN階の床コンクリート打設が完了しないとN+1階の作業が不可能な積み上げ方式となることから、全体で約2カ月の工期短縮となりました。
なお、物流施設の建設において重要なポイントとなる床の精度や品質を確保するためには無理のない施工計画が求められますが、当工法では床コンクリート打設がクリティカルな工程とならないため、十分な養生期間の確保が可能となりました。
図-4 工程比較図
今回報告したPCa部材や鉄骨の建方工事は7月末に終了し、現在は仕上工事を中心に来年1月末の竣工に向けて安全第一に作業を進めています。このマルチテナント型物流施設が谷田部地域に溶け込み、テナント様をはじめ施設関係の皆様が気持ち良く働ける場となることを願っています。
工事名称 | (仮称) LF谷田部新築計画 |
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工事場所 | 茨城県つくば市みどりの南21番-1、-2、-3 |
発注 | 谷田部ファシリティ特定目的会社 |
設計・監理 | (株)鴻池組 |
施工 | (株)鴻池組 |
工期 | 2023年8月~2025年1月 |
用途 | 倉庫(マルチテナント型) |
構造・規模 | RCS造(一部S造) 地上4階 建築面積21,705.33m2 延床面積80,873.40m2 |