当社は、2020年に策定したKONOIKE Next Vision[for SDGs]において、使用電力に占める再生可能エネルギーの発電・調達を2030年に80%、2050年に100%とする目標を達成するため、それに先立つ2017年より再生可能エネルギー事業の開発に取り組んできました。森林を切り開く太陽光発電やダム建設、海外からの輸入バイオマス材に頼るような大規模な開発ではなく、過疎地や離島における地方創生や地産地消、地域の活性化を目的とした、地域に根差した小規模分散型のエネルギー開発を地元と協働で進めています。その取り組みのひとつが、以前より当社が多くの建設工事に携わってきた隠岐の島町での事業です。
隠岐の島町は、島根半島の北の海上に位置する隠岐諸島に位置し、島後と竹島全域を占めています。隠岐の島町では、近年脱炭素社会の推進や持続可能な街づくりを通した地域活性化を進める施策を掲げ、当社もそれに賛同する形で2022年6月に隠岐の島町と「再生可能エネルギーの推進等に関する包括協定」を締結しました。協定を契機として、離島である隠岐の島町内で取り組む小水力発電所2箇所、木質バイオマス発電所1箇所を紹介します(図-1)。
図-1 当社が運営に関わる発電所位置図(地理院地図(https://maps.gsi.go.jp)を編集・加工して作成)
当社は、2022年10月に中国電力ネットワーク株式会社より隠岐の島町内の2箇所の水力発電所である、南谷発電所と油井発電所の譲渡を受けました。南谷発電所は島根県隠岐の島町東部を流れる二級河川春日川に位置し、油井発電所は島内の西部を流れる二級河川油井川に位置するダム水路式発電所です。南谷発電所は中国電燈株式会社により1944年着手、1946年に完成(当時の最大出力100kW)、油井発電所は1950年着手、翌年に完成(当時の最大出力200kW)したものです。
両発電所の改修工事を行い、「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」の「既設導水路活用型」(既に設置している導水路を活用して、電気設備と水圧鉄管を更新するもの)を活用し、中国電力ネットワーク株式会社へ売電します。
○南谷発電所改修工事
2023年4月より水車発電機の改修工事を実施し、2024年4月より発電を開始して遠隔監視による制御を行っています。
①水車発電機
水車は、吸出し高さを利用し落差を確保することができる既設の横軸フランシス水車(写真-1)から、変流量特性に優れている縦軸ペルトン水車(写真-2)に交換しました。
写真-1 既設水車発電機(南谷発電所)
写真-2 新設水車発電機(南谷発電所)
②導水路
導水路の水圧鉄管箇所は、超音波管厚測定調査で残肉厚の最小値が60%以下に腐食摩耗していた下流部の鉄管(φ=450mm 、L=9m)のみ取替工事を行い、その他3箇所は当て板溶接にて補修を行いました(写真-3)。
写真-3 水圧鉄管撤去状況(南谷発電所)
○油井発電所改修工事
2023年5月より水車発電機の改修工事を実施、2024年7月より水圧鉄管の改修工事に着手、2025年5月の発電開始を予定しています。
①水車発電機
油井発電所も水車・発電機の撤去・新設を実施、横軸ペルトン水車(写真-4)から南谷発電所と同様の縦軸ペルトン水車(写真-5)へ交換を行いました。
写真-4 既設水車発電機(油井発電所)
写真-5 新設水車発電機(油井発電所)
②導水路
油井発電所は海からの偏西風を強く受けるため、水圧鉄管や水路橋に外観上激しい傷みが生じていました。そのため、水圧鉄管の超音波管厚測定調査を実施し、管平均残厚が80%以下である範囲の30~40年後の残肉厚を想定し、総延長930mのうち上流部470mと中間部150mの合計620mの交換を行うことにしています(図-2)。また、今後も落石や海風による塩害の影響を受けやすい場所であるため、鉄管ではなく柔軟性を有し耐腐食性に優れたポリエチレン管を採用しました。
改修工事にあたっては、資機材を運搬する道路が集落から発電所までとダム湖上流の林道のみであるため、仮設工事の検討を行いました。導水路は柱状節理の断崖絶壁真下に設置されており、途中には素掘りのトンネル内に水圧鉄管を通しています。当初、資材運搬には索道を検討しましたが、施工業者も少なく、費用も高額なため、モノレールを採用しました。発電所からトンネル下流側までは仮設工事用モノレールとし、トンネルより上流側は、今後の維持管理も見据えてモノレールを常設することとしました。
図-2 水圧鉄管配管図
鴻池組の目指す地域に根差した小規模分散型再生可能エネルギーの木質バイオマス発電事業の第一弾として着手しました。本事業では2022年6月隠岐の島町での再生可能エネルギー事業を行う隠岐グリーンパワー合同会社を設立し、2023年10月より事務所の開設と地元での従業員雇用を行っています。
隠岐グリーンパワー合同会社が所有する下西発電所は、隠岐の島町内の町営ペレット工場(隠岐の島町木質バイオマス利用推進センター)と林業事業者との連携のもと、間伐材など未利用の木質バイオマス資源の地産地消を推し進める木質ペレットを用いた事業です。当初計画では、最大出力150kWの小型木質バイオマスガス化熱電併給装置(CHP)1基での運転を予定していましたが、運用時のトラブル等で停止した場合のリスク分散とメンテナンス時の発電停止期間を短縮するため、最大出力50kWのCHP3基を設置する計画に変更しました。発電した電気は「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」の「間伐材等由来の木質バイオマス」を活用し、中国電力ネットワーク株式会社へ売電します。
2023年10月より基礎工事着手、2024年9月発電設備の設置工事を実施し、2024年11月に運転開始予定です。
本発電所で選定したCHPは、20Ftコンテナ内にガス化装置と発電用ガスエンジン、発電機が内蔵されているため、建屋は必要ありません(写真-6)。そのため、コンテナ3基と14tサイロ2基を設置するための基礎を構築しました(写真-7)。建設用地は水田跡地でGL-14mまでN値0~12の軟弱地盤であったため、ウルトラコラム工法を用いた柱状地盤改良工事(φ1000mm、L=15.5m、N=15本)と土間コンクリート打設を行いました(図-3)。
写真-6 CHP設置イメージ
写真-7 基礎工事完了
図-3 下西発電所配置図
当社では、隠岐の島町内で2018年から再生可能エネルギー事業の検討を進めてきました。水力発電では2024年4月に南谷発電所が運転を開始し、油井発電所も改修工事を経て2025年5月より運転開始を予定しています。また、木質バイオマス発電の下西発電所は2024年11月運転開始予定です。再生可能エネルギー事業は完成したら終わりではなく、運転を開始してからが本格的なスタートです。これらの施設の20年後の運用も見据えた維持管理と、発電を起点とした新たな事業展開を地域と協働しながら進めてまいります。
所在地 | 南谷:島根県隠岐郡隠岐の島町布施 油井:島根県隠岐郡隠岐の島町油井 |
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事業主 | (株)鴻池組 |
発電形式 | ダム水路式 |
水車発電機 | 縦軸ペルトン水車(IREM社) |
最大出力 | 南谷:99.1kW 油井:199.9kW |
発電使用水量 | 南谷:0.195m3/s 油井:0.155m3/s |
最大有効落差 | 南谷:71.23m 油井:178.95m |
取水堰堤高 | 南谷:48.00m 油井:40.00m |
発電開始年月日 | 南谷:2024年4月1日運転開始 油井:2025年5月運転開始予定 |
所在地 | 島根県隠岐郡隠岐の島町下西60-1 |
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事業主 | 隠岐グリーンパワー合同会社 代表社員:(株)鴻池組 社 員:(株)藤井基礎設計事務所 (株)御池鐵工所 |
発電形式 | 木質バイオマス熱分解ガス化 |
CHPメーカー | Wegscheid Entrenco(株) |
最大出力 | 50kW×3基=150kW |
燃料 | 隠岐の島町産ペレット |
燃料区分 | 間伐材等由来の木質バイオマス |
燃料使用量 | 約1,080t/年 |
発電開始年月日 | 2024年11月1日運転開始予定 |