石狩川左岸に拓けた北海地区の約27,000haを受益面積とした全長80㎞の用水施設は、築造後40年以上が経過し、老朽化・凍上などによりコンクリートの劣化が進行していたため、頭首工および幹線用水路の整備が進められています。当工事は、その事業のうち岩見沢幹線用水路の北1条工区(工事延長843.9m)の施工を行うもので、そのうち延長744mを推進工法により施工しました(図-1、写真-1、2)。閑静な住宅街の道路直下が推進路線となっており、例年1月から3月は積雪量1m以上が観測される地域(写真-3)での施工のため、積雪の影響の少ない12月までに到達するため、推進管3本分以上の日進量を確保する必要がありました。また、掘削地盤は泥炭で構成された有機質土層(図-2)でメタンガスの発生が予想されたため、その対策が施工上の課題でした。
図-1 工事位置図
写真-1 泥水式推進機
写真-2 発進基地設備
写真-3 岩見沢市の積雪状況
図-2 土層想定縦断図
曲線や長距離の推進は、周面摩擦抵抗が増加して元押ジャッキの推力以上となることが予想されるため、3箇所の中押推進設備を計画していました。しかし、中押ジャッキを使った推進は、元押しと中押しによる推進を交互に繰り返す推進サイクルのため、日進量が低下してしまいます。積雪の影響が少ない12月中の到達を目標と定め、日進量を7.3mとして計画を行いました。
①周面摩擦抵抗力の低減
推進のサイクル時間を短縮するため、管周混合推進工法を採用して総推進力の低減を図りました。先頭と中間(100m間隔で計7箇所)に注入装置(写真-4)を配置し、滑材を定量注入することで、中押ジャッキを使用することなく元押ジャッキだけで推進可能となり、推進1回ごとのサイクル時間を短縮できました。
写真-4 中間滑剤注入装置
②自動測量システムによる効率化
坑内の線形測量管理に、自動水準、視準可能な推進・シールド自動測量システム「PipeShot」(写真-5)を採用しました。推進の線形管理は、発進立坑下から先頭の推進機までを推進管1本ごとに毎回測量します。長距離推進では、測量機の盛替え回数が多くなるため、人員と時間をかけて測量を行っていました。これに対して自動測量システムは、移動した推進管の中でPipeShotを坑内約50m間隔に設置(最大12台)し、立坑下に設置したプリズム付きトータルステーションからPipeShot同士が互いに自動視準することで、先頭の推進機プリズム位置を測量します。自動測量システムの導入により、1回の測量が平均して10分前後になり、測量の省力化と時間短縮により推進サイクル時間を短縮できました。また、測量時間の短縮により、測量頻度を増やすことが可能となり、路線全体の線形を高精度に管理できました。
写真-5 自動測量機器(PipeShot)設置状況
有機質土で形成された泥炭層は、メタンガスが発生する可能性があり、路線上の3地点で追加のガス調査を行いました。その結果、2地点から爆発下限界5.0vol%を超える濃度のメタンガスが検出されたため、その対策を講じました。
①検知器および警報機の設置
推進機内、立坑下および坑内100mごとに定置式検知器と警報機(ブザー付き回転灯)を設置(写真-6)し、検知器がガスを確認すると警報機が自動で作動するシステムとしました。また、作業員が入坑する必要がある場合は、携帯型検知器を使用して安全を確保しました。
写真-6 ガス検知器設置状況
②換気設備
坑内換気設備は、可燃性ガスが管理目標濃度以下になるように施工条件から必要風量を算出し、140㎥/minの送風機とφ350㎜の送風管を設置しました。
③推進管継手部の対策
推進管と推進管の継手は、曲線区間において曲線外側の継手が開くため、溶存ガスが混入する地下水が坑内に浸入する危険性がありました。これを防ぐため、止水性に優れた止水滑材(レジルーブSW-2)を継手部に塗布しました。
これらの対策を講じることにより、推進中・後ともに坑内でメタンガスを検知することなく、安全に推進を完了することができました。
2022年8月2日に発進した推進工は、計画を上回る8.5mの日進量を確保することができ、同年12月6日に基準高+8mm、右40mmの高精度で到達しました(写真-7)。すでに積雪が始まっていましたが、工事の進捗に影響が出る前に推進工を終えることができ工程遅延を防止することができました。発進基地周辺の住宅街に対しては、防音建屋により規制値内の騒音に低減することで周辺環境への影響を最小限にすることができました。今回のような泥炭層における長距離推進工事の経験を今後の類似工事に活かしていきたいと思います。
写真-7 到達状況
工事名称 | 北海農業水利事業 岩見沢幹線用水路北1条工区建設工事 |
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工事場所 | 北海道岩見沢市北1条地先 |
発注者 | 国土交通省 北海道開発局 札幌開発建設部 (工事監理者 岩見沢農業事務所) |
施工者 | (株)鴻池組 |
工期 | 2021年10月~2024年1月 |
工事内容 | 泥水式推進工 呼び径1800 L=743.5m 立坑 2箇所(発進・到達) 水位調整施設工 1箇所 配管工事 ダクタイル鋳鉄管、鋼製異形管 (φ1800~2000) L=113.1m |