技術広報誌ET

技術広報誌ET 2022年発刊号

カーボンニュートラルの実現を目指す新たな研究開発拠点

504号(2022年1月1日) 大阪テクノセンターの建設 設計本部 池田 賀典 / 大阪本店 工事事務所 藤田 周一

はじめに

大阪テクノセンターは、鴻池組創業150周年事業の一環として大阪市住之江区南港に建設された新たな技術研究開発施設です(写真-1)。これにより、つくば市にある既存の研究施設「つくばテクノセンター」と合わせ、技術研究所の施設が東西2拠点に整備されました。
大阪テクノセンターでは、長期ビジョン「KONOIKE ONE VISION 2050」に基づいて、カーボンニュートラルの実現に向けた技術など、土木・環境関連技術を中心とした研究開発に取り組む予定です。ここでは、建物概要および最新技術を適用した環境配慮型建築、安心・安全な建物について説明するとともに、施工段階での先端ICT活用へのチャレンジについて紹介します。

写真-1 建物外観

写真-1 建物外観

写真-2 エントランス内観

写真-2 エントランス内観

建物概要

建物は、管理棟、実験倉庫棟および駐車場棟の3棟から構成されています。建物外観には、鴻池組のスローガンである「まじめに、まっすぐ」を表現するため、白の垂直なアルミルーバーを配し(写真-1)、内観には「癒し」を感じ「アイデア」や「インスピレーション」をかきたてる木のルーバーを採用しました(写真-2)。
管理棟は地上4階建て、延床面積2,665㎡で、執務スペースおよび実験室に加え、4階には社員教育を主な目的とした「KONOIKE HISTORY LAB」を設けています。このLABは、①旧本店再現ゾーン、②ヒストリーロード、③技術ゾーン、④イノベーションプレイスの4エリアから構成され、鴻池組の歴史と技術、未来への挑戦を紹介しています(図-1)。
実験倉庫棟は地上3階建て、延床面積1,890㎡で、実験室および書庫・倉庫を配置しています。また、駐車場棟は地上1階建て、延床面積249㎡となっています。いずれの建物にも屋上に太陽光発電パネルを設置しています。

図-1 KONOIKE HISTORY LAB概要

図-1 KONOIKE HISTORY LAB概要

環境配慮型建築

○管理棟『ZEB』
設計当初より管理棟の『ZEB』達成を目指して検討を進め、自然エネルギーの活用としては、太陽光発電システムに加え、杭を利用した地中熱採熱利用システム(写真-3)や吹抜けに設けた自然換気システム、免震ピットを利用したクールトレンチを採用しています。また、太陽光発電以外の創エネとして回生エレベーターによる蓄熱システムを採用し、省エネとしてはLow-E複層ガラスによる高断熱化を行い、高効率空調機や自動調光型LED照明などを用いています。その結果、設計一次エネルギー消費量の削減率52%に創エネルギー49%を加え101%となり、目標の『ZEB』を達成しました(図-2)。なお、BELS(最高評価の☆5)および『ZEB』認証を取得しました。

写真-3 杭鉄筋に固定されたUチューブ(熱交換器)

写真-3 杭鉄筋に固定されたUチューブ(熱交換器)

図-2 設計時のエネルギー消費性能結果

図-2 設計時のエネルギー消費性能結果

○CLTの採用
一方、カーボンニュートラルの有効手段とされる木材を積極的に活用するため、CLT(Cross Laminated Timber)を管理棟の吹抜け部耐震壁(1~2階)および西外壁(2~4階、非耐力壁)に採用しました。耐震壁の断面構成は5層5プライで厚さ150mm、鉄骨梁とは接合金物を介してドリフトピンにて接合され、吹抜けを乾式耐火構造壁とシャッター等で防火区画することで内装制限緩和を受け“現し”としました(写真-4)。一方、西外壁は3層4プライで厚さ120mm(写真-5)、強化石膏ボードと金属板で被覆することで耐火構造としています。

写真-4 吹抜け部に設置されたCLT耐震壁

写真-4 吹抜け部に設置されたCLT耐震壁

写真-5 西面に設置されたCLT外壁(耐火被覆前)

写真-5 西面に設置されたCLT外壁(耐火被覆前)

安心・安全な建物

○球面すべり支承を用いた免震構造
建設地は、近い将来に発生が予想される南海トラフ地震により、告示波の2倍の長周期地震動による揺れが予測されるOS1地域で、想定外の揺れに対する対策が求められていました。様々な検討を行った結果、管理棟には軽量な鉄骨造においても免震効果が得やすく、装置がコンパクトで免震層の高さを低減できる球面すべり支承(12基)による免震構造を採用しました。上部の鉄骨架構が免震装置に直接取り付く方式となっています(写真-6)。また、減衰装置としてU型ダンパー(2基)を用い、過大変形を抑制する制動装置(2基)を採用しています。

写真-6 鉄骨建方後の球面すべり支承

写真-6 鉄骨建方後の球面すべり支承

○構造ヘルスモニタリング
地震時に「建物が安全」「避難検討」などの情報を発信する技術として構造ヘルスモニタリングが注目されています。安全と判断された場合、揺れによる不安を解消し不要な避難を防ぐことができ、事業継続の面では早期復旧による被害低減が期待できます。
当センターでは管理棟を対象に、大地震が発生した場合に建物の損傷推定を行う詳細診断を加えた、鴻池組独自のシステム・診断方法による構造ヘルスモニタリングを採用しています(図-3)。

図-3 鴻池組の構造ヘルスモニタリング

図-3 鴻池組の構造ヘルスモニタリング

先端ICTを活用した施工

施工段階においては、様々な先端ICTを用いて計画や管理を行っています。特にBIMモデル等の3Dデータの活用を積極的に取り入れました。ここでは取り組みの一例として、複合現実(MR;Mixed Reality)および3Dスキャナーを活用した施工について紹介します。

○MRの活用
Microsoft HoloLens2を用いて基礎杭打設前の杭芯位置確認を行いました。事前に杭伏図のデータと起点情報を登録することで、装着した機器のスクリーンに現況を背景とした杭伏図データを重ね合わせることができ、杭芯位置を精度良く確認できました(写真-7)。
また、上部躯体工事ではBIMモデルデータに工事区分と日時情報を持たせてHoloLens2へ取り込むことで、4Dシミュレーションを可能としました。これにより関係者による施工手順の確認や検討が容易に行えました(写真-8)。

写真-7 杭芯出し状況(左:図面モデルを合成 右:実際の投影画像)

写真-7 杭芯出し状況(左:図面モデルを合成 右:実際の投影画像)

写真-8 鉄骨建て方ステップを現地で確認

写真-8 鉄骨建て方ステップを現地で確認

○3Dスキャナーの活用と家具の再現
4階「KONOIKE HISTORY LAB」内の「旧本店再現ゾーン」は、創業の地、伝法(大阪市此花区)に現存する鴻池組旧本店洋館の一室を再現したものです。アール・ヌーヴォー様式の家具類を精緻に再現するため、100分の1㎜精度の3Dスキャナーによる計測を行いました(写真-9)。取得したデータにより構造や組立方法、耐久性について検討を行い、部品単位のデータとする、いわゆるリバースエンジニアリングを行いました。その後、NC切削機、3Dプリンター、レーザー加工機等の最新技術を用いて加工、家具等に組み立て、最後に手作業によるエイジングを行い現地に設置しました。

写真-9 3Dスキャナーによる家具類の計測状況

写真-9 3Dスキャナーによる家具類の計測状況

おわりに

自然エネルギーの活用や最新の省エネ機器を採用することで、『ZEB』を達成した最新の環境配慮型建築が誕生しました。KONOIKE Next Vision[for SDGs]に掲げる「地球環境の保全」「住環境の向上」「労働環境の充実」の実現に向け、この大阪テクノセンターとつくばテクノセンターが両輪となって研究開発に取り組むことで、社会に役立つ新たな技術を提供したいと考えています。

工事概要

工事名称 (仮称)KONOIKEテクノセンター新築工事
工事場所 大阪市住之江区南港北1-19
発注 (株)鴻池組
設 計・監 理 (株)鴻池組
施工 (株)鴻池組
工期 2020年7月~2021年10月
用途 研究施設、倉庫
構 造・規 模 (管理棟)S(柱CFT)造 地上4階、延床面積2,665.06㎡
(実験倉庫棟)S造 地上3階、延床面積1,890.25㎡
(駐車場棟)S造 地上1階、延床面積249.41㎡

504号(2022年1月1日)の記事

技術広報誌ETトップへ
技術に関するお問い合わせ
お問い合わせフォームへ