技術広報誌ET

技術広報誌ET 2021年発刊号

CLTを活用した木造化・木質化によるホテルの再生

503号(2021年10月1日) 海士町ホテル魅力化プロジェクト・ジオ拠点施設 大阪本店 建築技術部 藤井 一成

はじめに

島根県海士(あま)町は島根半島から北へ約60㎞、西ノ島、中ノ島、知夫里島の3島により構成される隠岐島前諸島の中ノ島に位置します。隠岐の島町の島後を含め、2013年には隠岐ユネスコ世界ジオパークとして世界ジオパークに認定されました。
今回、海士町の玄関口である菱浦港に面する海士マリンポートホテルの別館として当建物の建設を行いました。ここでは、主要構造として採用されたCLT(Cross Laminated Timber、直交集成板)の施工について紹介します。

建物概要

建物の最も大きな特徴として挙げられるのは、木造化・木質化を図るために採用されたCLTです。再生産が可能である木材から成る材料で、国がCLT活用促進のために支援制度を設けるなど近年注目を集めています。
ジオ棟は地下1階(RC造)、地上1階(CLT造)の建物で、宿泊棟は地下1階(RC造とCLT造の複合)、地上2階(CLT造)の建物です(図-1)。今回ホテルを建設した敷地は、海に面しており、すべての客室から海の眺望を楽しめるように、海に対して間口を広げた計画となっています(写真-1)。宿泊室はシングルからスイートまでの6種類18部屋の構成となっています。
また、宿泊者以外でも訪れることのできるジオ棟には、世界ジオパークについて学べるラウンジや展示室、収蔵庫などを備えています。宿泊施設としてだけでなく、世界ジオパークの拠点施設として、さらに、宿泊者と島の人々との交流の場としての機能を兼ね備えた建物です。

配置図

図-1 配置図

完成した宿泊棟

写真-1 完成した宿泊棟

CLTの特徴

CLTは、ひき板(ラミナ)を並べた層を、板の方向が層ごとに直交するように重ねて接着した大版のパネル(写真-2)です。建物の軽量化を図れるメリットや木材の優れた断熱性能を活かせるだけではなく、CO2削減や国内の伐採期を迎えた森林資源を有効活用できるなど、環境面からも注目されている技術です。
また、ラミナを直交集成することで均質性が高まり、安定した構造材料としての使用が可能です。当建物では壁および床にCLTが採用され、梁には集成材が用いられています。CLTの厚さは、壁が150㎜と210㎜、床が120㎜と150㎜となっています。

CLTの壁材

写真-2 CLTの壁材

CLTの施工

CLTの施工において最も苦労した点は、アンカーボルトの精度確保です。長さや本数の異なるアンカーボルトが連続する箇所については、リップ溝形鋼にて仮設架台を製作し、アンカーセットを行いました(写真-3)。コンクリート打設後にアンカーボルトの全数実測を行い(写真-4)、CLT部材の孔加工を行いました。アンカーボルトのクリアランスは、基本2㎜(引きボルトは4㎜)という高い精度が求められました。また、レベルについてはCLT下端から20㎜を躯体天端とし、グラウトにてレベル調整を行いました。

壁CLTのアンカーボルトセット

写真-3 壁CLTのアンカーボルトセット

コンクリート打設後のアンカーボルト

写真-4 コンクリート打設後のアンカーボルト

CLT部材の建方は、25tラフタークレーンを用いて行いました。全体の施工数量は約600㎥、約1,550ピースとなっており、施工速度はRC躯体と取り合いのある地下1階を除き、1日当たり30ピース程度でした(写真-5)。
壁と梁、床と壁の取り合いにおいては、遮音性能を確保するために防振ゴムを敷き込みました(写真-6)。また、コンクリートとCLTの接する箇所においては、防湿シートをCLTに貼り付け、CLTへの水分の吸い込みを防止しました。建方手順は、「壁→梁→床(→壁…)」の順に積み上げていく方式で、それぞれの部材同士はボルト、ビス、専用金物にて固定します(写真-7)。
今回のCLTにおいて、特に納まりの検討および監理者との協議が必要となった事項としては、準耐火被覆の施工方法(写真-8)、CLT面と防水との相性についての検討、遮音性能の検討などがありました。

CLTの建方状況

写真-5 CLTの建方状況

防振ゴムの敷き込み状況

写真-6 防振ゴムの敷き込み状況

接合部金物

写真-7 接合部金物

CLT材の準耐火被覆処理

写真-8 CLT材の準耐火被覆処理

おわりに

2021年5月31日に建物の引き渡しを行い、7月1日に施設のグランドオープンを迎えました。CLT造としては国内最大級のホテルであり、海へ開かれた開放的なデザインからも非常に注目される建物となりました。世界ジオパークの拠点施設として、また、島を訪れる方と島の方々の交流施設として、多くの皆様に愛される建物となることを願っています。

工事概要

工事名称 海士町ホテル魅力化プロジェクト・ジオ拠点施設
工事場所 島根県隠岐郡海士町福井1375-1
発注 海士町長 大江 和彦
設 計・監 理 (株)マウントフジアーキテクツスタジオ一級建築士事務所
施工 前田建設工業・鴻池組特別共同企業体
工期 2020年2月~2021年5月
用途 ホテル
工事内容 CLT造(一部RC造、S造) 地下1階 地上2階
建築面積781.32㎡
延床面積1,639.67㎡

503号(2021年10月1日)の記事

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