JR東海道線支線地下化事業は、うめきた2期基盤整備事業のうち、大阪駅北付近2.4km区間の鉄道地下化および新駅を整備するものです。当社JVは、そのうちの北3工区、施工延長305mの工事を担当しました(写真-1、図-1、2)。鉄道が地下化されることにより、分断されていた「まち」を一体化し、踏切事故の解消や交通の円滑化が図れます。また、うめきた地区と関西国際空港間のアクセスが向上し、国際競争力が強化されます。
ここでは、鉄道用の地下函体構造物を開削工法(一部覆工)にて構築するにあたり、当社JVが実施した施工技術について紹介します。
写真-1 航空写真
図-1 完成予想図
図-2 平面図(上)および縦断図(下) (拡大)
当工事は、GL-5~20mの位置に開削工法を用いて地下函体(ボックスカルバート)を構築するものです。当該地盤は軟弱な沖積粘土層であったため、当初設計では、切梁・中間杭が多数配置された土留支保工が計画されていました。そのため、中間杭打設や土留支保工の架設手間に加え、函体構築時の支保工撤去・盛替やコンクリート打設上の制限など施工方法の複雑化による工程の長期化が懸念されていました。これらの問題を解決するため、通常の土留支保工材よりも部材耐力が優れる高強度土留支保工材を採用しました。高強度腹起材(ヒロセメガビーム®、図-3)は曲げ耐力が高く、切梁間隔を大きくすることによって切梁本数を削減することが可能です。また、高強度切梁専用材(ヒロセツインビーム®、図-4)は座屈耐力が高い部材で、中間杭設置間隔を大きくすることで中間杭の本数を削減することが可能です。
図-3 高強度腹起材
図-4 高強度切梁専用材
当初設計では切梁の設置間隔は最大3.0m、中間杭設置間隔は最大6.5mでしたが、高強度土留支保工材の採用により、切梁の設置間隔は最大5.0m、中間杭設置間隔は最大12.5mまで広げることが可能となりました(図-5、写真-2)。
これにより、切梁設置本数は全5段で550本から325本に削減(約40%減、先行BLを除く)、中間杭の本数は485本から144本に削減(約70%減)することができました。
切梁および中間杭の削減によって、施工空間が大きくなったことから、鉄筋などの長尺の資材の荷降ろしが容易となり作業効率が向上しました。また、土留支保工の設置・撤去に要する期間も大幅に短縮することができました。
写真-2 高強度土留支保工 架設状況
図-5 土留支保工平面図(3段目) (拡大)
地下函体を構築するにあたり懸念されるのがコンクリートからの漏水です。特に今回の地下函体は鉄道用の構造物であり、列車を走行させるための軌道設備や電気設備が多数設置されるため、防水性の高い地下函体を構築する必要がありました。
従来工法では連続土留壁にセパ金物を溶接し、このセパ金物にセパレータを取り付け、型枠を固定します(図-6)。そのため、コンクリート壁にセパレータが貫通した状態(以下、貫通セパレータと称す)で残されることになります。連続土留壁とコンクリートの間には、防水性の高い化学接着性防水シートを設置しコンクリートへの地下水の浸透を防止していますが、セパ金物を取り付けた部分は防水シートを貫通しているため、貫通セパレータを伝って地下水が漏水するリスクが高くなります。
図-6 従来工法
この貫通セパレータを無くして漏水リスクを軽減するため、トラス端太(バタ)を使用したノンセパ工法を採用しました(図-7、写真-3,4)。先に打設した下床版コンクリートにはアンカー(5分、5/8インチ)を埋設しておき、縦端太材(130mm×70×2.3)の下端を固定します。縦端太材の上端はコンクリート打設範囲より上部に設置したタイロッド(5分、5/8インチ)を用いて固定します。
図-7 ノンセパ工法(トラス端太断面図)
写真-3 トラス端太上部状況
写真-4 トラス端太設置状況
ノンセパ工法の採用により、地下水が漏水するリスクの少ない側壁コンクリートとなりました(写真-5)。また、密集した鉄筋内部にセパレータを通す作業やセパ跡処理が無くなり、作業効率の向上にも繋がりました。
写真-5 コンクリート外観
コンクリート構造物の品質を確保する上で、施工時におけるコンクリートの養生は重要です。また、当工事では温度ひび割れ対策として、強度発現の遅い低熱セメントを用いていることから、長期間養生することがより一層構造物の品質を向上することに繋がります。水平面のコンクリートを養生する場合は、湛水養生や湿潤させた養生マットを設置するなど比較的容易に養生が可能ですが、壁や柱などの鉛直面のコンクリートを養生する方法は限られています。そこで、壁面のコンクリート養生に、当社がユニチカ(株)、(株)クレインと共同で開発したコンクリート湿潤養生シート「アクアパック」を採用しました。アクアパックは、乾燥を防止するフィルムと保水性の高い不織布で構成され、水を浸み込ませてコンクリート表面に貼り付けることで、コンクリートに必要な水分を供給し、かつ、水分の逸散を防止することができます。当工事では、型枠脱型後に、アクアパックを貼り付け、材齢56日以上の湿潤養生を実施しました(写真-6)。表-1に従来の密封型の養生シートとアクアパックを使用した場合の各コンクリート面での透気試験結果を示します。アクアパックの透気係数は、密封型シートの60%程度を示しており、アクアパックにより、コンクリート表面の緻密性が向上したことを確認することができました。
写真-6 アクアパックを貼り付け状況
表-1 透気係数
当工事はJR大阪駅すぐ北側での工事で、周囲には高層ビルが隣接し、人々が集まる大都市部での大規模工事でしたが、安全に工事を終えることができました。工事を進めるにあたり多くの方々にご協力いただき感謝申し上げます。
工事名称 | 東海道線支線北3地区T新設他工事 |
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工事場所 | 大阪市北区大深町2付近 |
発注者 | 西日本旅客鉄道(株) |
施工者 | 鴻池組・前田建設工業共同企業体 |
工期 | 2016年8月~2021年6月 |
工事内容 | ・仮土留工:連続壁(ECO-MWφ850) A=24,093㎡ ・覆工板設置撤去:1式 A=2,130㎡ ・ボックスカルバート 中間杭:N=144本 土工:掘削 V=108,000㎥ 土工:埋戻 V=43,000㎥ 鉄筋:W=4,015t コンクリート:V=27,400㎥ 型枠:A=15,480㎡ 型枠支保工:V=12,160空㎥ 防水工:A=19,270㎡ ・下水管防護工:1式 Φ1650mmFRPM管 L=33m |