技術広報誌ET

技術広報誌ET 2021年発刊号

ECI方式による地域色豊かな文化施設の建設

501号(2021年4月1日) やぶ市民交流広場(YBファブ) 山陰支店 工事事務所 恩地 浩一

はじめに

養父(やぶ)市は、兵庫県北部の但馬地域の中央に位置する豊かな自然に恵まれた町です。養父市立八鹿(ようか)文化会館は、40数年間にわたって文化芸術の振興とコミュニティの醸成に大きな役割を果たしてきましたが、施設や機材の老朽化等により建て替えられることとなりました。
新たな文化会館(図-1)の建設工事には、ECI(early contractor involvement)方式が採用されました。ECI方式は、設計段階から施工者が参画し、施工実施を前提として設計に対する技術協力を行うというものです。ここでは、このECI方式による設計見直し例、および打ち放しコンクリート工事における施工上の工夫について紹介します。

図-1 南側外観

ECI方式と建物の概要

ECI方式は、設計段階から施工者のノウハウ等により建設コストの縮減や工期短縮を具体的に検討できる一方、設計者は基本設計における設計方針や意匠性を守るため設計変更提案を受け付けないことが予想されます。この間の調整は発注者が行う必要があり、その業務支援者として阪急コンストラクション・マネジメント(株)が参画しています。
新たな文化会館は、ホール、公民館、図書館、公園の4機能から構成されており、ホールはプロセニアム形式の舞台で、客席数は650席となっています(図-2)。また、公民館の機能として大会議室、中会議室、和室、調理室を配置し、図書館には一般図書エリアと児童図書エリア(図-3)があるなど、より多くの市民に利用していただけるように工夫された施設です。

図-2 ホール内観

図-3 図書館児童図書エリア

大屋根仕様の見直し

原設計では、ホール舞台部の屋根が陸屋根となっていましたが、ECIの協議の中で発注者より「降雪地帯であるため屋根を全て勾配屋根にしたい」という要望が出されました(図-4)。この実現に向けて設計者・施工者が検討を重ねた結果、屋根全体を勾配屋根とし(写真-1)、建設地が兵庫県の景観形成地区内であることから、屋根材をガルバリウム鋼板から瓦に変更し、地元で焼かれていた八鹿瓦を再現することで(写真-2)、より地域色を備えた文化会館を実現しました。再現に当たっては、養父市内に残る八鹿瓦を成分分析して数値化し、そのデータに基づいて9つの瓦サンプルを作成しました。最終的にサンプルの中から色味が近い3種類の瓦を採用することとしました(図-5)。

図-4 屋根形状の変更

写真-1 勾配屋根の鉄骨工事状況

写真-2 今回採用する瓦(モックアップ)

図-5 八鹿瓦の成分分析による再現瓦

凹凸のある化粧打ち放しコンクリート壁

ホール棟客席部の壁は、日本遺産に認定された養父市の明延鉱山や中瀬鉱山の坑道をイメージしたストライプ状の凹凸がある化粧打ち放しコンクリートとなっています。通常のベニヤ型枠では形状への対応が難しいため、発泡スチロール製の造形ボードを型枠の内面材として採用しました。CADデータに基づくコンピューター制御でニクロム線により発砲スチロールを切断することで、凹凸に加工しました。凹凸の発砲スチロールは8パターンを組み合わせた形状で、割付図に基づいて間違いのないように型枠パネルに取り付けました(写真-3)。
コンクリート打設に当たっては、コールドジョイントの発生を防ぐため打設工区を細かく分け、1回の打設数量を120m3~160m3程度に抑えることで綿密な打設管理ができるようにしました。なお、コンクリート打設後のスチロール撤去は、高圧洗浄機サイクロンノズル付(8MPa)を用いて行いました(写真-4)。

写真-3 凹凸のある発砲スチロール型枠

写真-4 脱型後のコンクリート凹凸面

おわりに

工事は2021年3月末現在、ホール棟では舞台・客席などの内装工事、図書館棟では屋根工事を進めている段階です。竣工まであと僅かとなりましたが、養父市の文化芸術の振興と市民交流、文化活動の新たな拠点となる文化会館の完成に向け、関係者一丸となって取り組んでまいります。

工事概要

工事名称 養父市文化会館(仮称)建設工事
工事場所 兵庫県養父市八鹿町字家下モ538番地1他
発注 養父市長 広瀬 栄
コンストラクション
マネージメント
阪急コンストラクション・マネジメント(株)
設計・監理 (株)佐藤総合計画
施工 (株)鴻池組
工期 2019年3月~2021年6月(ECI期間を含む)
用途 劇場 図書館
構造・規模 RC造(一部S造) 地上3階
建築面積4,094.14m2
延床面積4,352.61m2

501号(2021年1月1日)の記事

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