技術広報誌ET

技術広報誌ET 2021年発刊号

泉岳寺「浅野長矩公墓・夫人墓」の修復

500号(2021年1月1日) 石造文化財の修理・復旧工事 東京本店 工事事務所 森 信雄 / 技術研究所 高松 誠

はじめに

浅野内匠頭長矩公は、元禄赤穂事件、歌舞伎などの忠臣蔵でよく知られ、夫人の瑶泉院、また赤穂四十七義士とともに、東京都港区の泉岳寺境内の墓所に眠っています。墓所には、300年以上経った今日でも多くの参詣者が訪れますが、前回の関東大震災後の解体修理からおよそ100年が過ぎ、外柵の風化による損傷や歪みが激しく、墓石には傾きが生じていました。
浅野長矩公墓および夫人墓は、国の史跡に指定されている重要な歴史遺産であり、この史跡を後世に残すべく、保存修理委員会の指導の下、復旧工事を行いました。

写真-1 長矩公墓(修復後)

写真-1 長矩公墓(修復後)

写真-2 夫人墓(修復後)

写真-2 夫人墓(修復後)

写真-3 夫人墓の施工状況

写真-3 夫人墓の施工状況

施工内容

長矩公墓および夫人墓の修復では、できるだけ既存の部材を再利用し、そのための保存処理は将来の再修理に害を及ぼすことがなく、可逆性(修理前の元の状態に戻す)のある修理方法で再構築することを基本方針としました。また、損傷が激しい部材の代替には、既存部材と同じ神奈川県真鶴産の小松石を使用しました。
この方針に基づき、復旧工事では、①解体工、②保存処理(クリーニング、強化処理、割断部補修、撥水処理)、③造成工、④復元工(据直し)を行いました。
造成工では、墓石の傾きの是正と、経年による不同沈下の再発を防止するため、長矩公墓および夫人墓ともに基壇内部にステンレス鋼材による補強フレームを設置しました。埋戻しには発生土に消石灰とにがり(塩化マグネシウム)を混ぜて改良した三和土を使用した伝統工法を採用し、締固めは全て人力で行いました。また、当社がこれまで文化財保存工事で蓄積してきたノウハウをもとに、保存処理で使用する薬剤や施工法を提案し、造成工で使用した三和土の配合検討や、既存および代替石材の石質分析調査は、当社の技術研究所の施設を活用して取り組みました。

写真-4 補強フレームの設置

写真-4 補強フレームの設置

写真-1 長矩公墓(修復後)

図-1 夫人墓の埋戻し図

おわりに

大切な文化遺産を未来へと継承することに技術的な立場から貢献することで、持続可能な開発目標(SDGs)のひとつである「世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する」への取り組みを一層進めたいと考えています。

工事概要

工事名称 浅野長矩墓及び夫人墓復旧工事
工事場所 東京都港区高輪2丁目11-1 泉岳寺境内
国指定史跡 浅野長矩墓および赤穂義士墓
発注 宗教法人泉岳寺
施工 (株)鴻池組
工期 2019年5月~11月、2020年4月~11月

500号(2021年1月1日)の記事

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