技術広報誌ET

技術広報誌ET 2021年発刊号

急峻かつ狭隘な屈曲区間でのICT土工

500号(2021年1月1日) 坂本改良 東京本店 工事事務所 清野 充義 / 技術本部 土木技術部 山口 充

はじめに

当工事は、千葉県鴨川市の国道128号天津交差点から北上する県道81号(通称:清澄養老ライン)の波切不動尊近くの約210m区間の道路改良工事です(写真-1)。この付近は幅員が狭く急カーブが多く、普通車でもすれ違いが困難な道路で、急峻なため降雨等の影響を受けやすい地形となっています。当工事では、その屈曲区間を解消するため、ループ橋に続く道路の一部を切土および補強土壁による盛土により構築します。この道路改良事業の完成により、地域住民の市街地への往来のほか、2021年に日蓮大聖人誕生800年祭が予定されている清澄寺への大型バスのアクセスがスムーズになることが期待されています。ここでは、切土高45m、盛土高55mの大規模土工を急峻な山岳地で行う工事において、ICTを活用することで生産性の向上に寄与した事例について紹介します(図-1)。

写真-1 着工前

写真-1 着工前

図-1 工事位置図

図-1 工事位置図

ICT土工による生産性向上

土工事の測量工数の削減および施工の効率化を図るため、ICT土工を全面的に活用しました(写真-2)。バックホウによる切土作業のほか、ブルドーザによる盛土敷均し作業や振動ローラによる締固めなどの作業で活用しました。現場内に基地局(RTK方式)を設置し、施工に用いる重機にはGNSS受信機を取り付け、人工衛星からの位置情報と基地局からの補正情報を受信することにより、マシンコントロールやマシンガイダンスにて、設計図面通りの寸法に仕上げることができます。また、測量および出来形計測には、3Dデータをもとに、手元のタブレットに位置や高さが表示される自動追尾型3Dトータルステーションを使用することで、一人で測量・計測ができるようになり、大幅な効率化を図ることができました。

写真-2 ICT建機による施工状況

写真-2 ICT建機による施工状況

ICT土工の効果

工事着手前に設計図面をもとに作成した3Dデータと、レーザースキャナ測量による現況3Dデータを重ね合わせることで、従来は手作業による測量により、丁張等の目安を設置しないと把握できなかった「設計と現況との差」が工事着手前に把握できました。発注者や協力会社と施工上の課題などを速やかに情報共有することで、早い段階での協議による方針決定をすることができました。また、完成形の立体的なイメージを工事関係者間で共有することで共通認識を持って、スムーズな作業打ち合わせを行うことができ、完成形に向けての意識の向上に繋がりました(図-2)。
出来形管理においては、3Dトータルステーションを使用することで(写真-3)、一人で行った現場計測のデータを出来形計測専用ソフトに転送することができます。これにより、管理図などの出来形帳票を自動で作成することが可能となり、作業時間の大幅な短縮を図ることができました。
これらのICT活用により、測量工数を約40%削減し、土工事の工程を14日間短縮することができました。

図-2 作製した3次元データ

図-2 作製した3次元データ

写真-3 3Dトータルステーションによる出来形計測

写真-3 3Dトータルステーションによる出来形計測

基地局増設によりGNSS受信環境を改善

当工事のような山岳地域でのICT施工においては、基地局と重機に搭載している受信機が衛星からの電波を受信できる環境を整えることが不可欠となります。当工事の切土頂部から盛土底部までの高低差は100m程度あり、見通しが悪い状況でした。当初、マシンコントロールのためのGNSS基地局を1箇所設置しましたが、山が電波を遮ってしまい、人工衛星からの位置情報と基地局からの補正情報の受信ができなくなる場面が多々発生しました。そこで、基地局を増設してGNSSの受信環境を改善しました。増設後は、通信状況が改善され、円滑なICT土工の施工が可能となりました。

図-3 基地局設置平面

図-3 基地局設置平面

おわりに

建設工事におけるICTは日々進化し、欠かすことができないものになりつつあります。今回、ICT施工を導入したことによって、レベル計測等の測量手間が削減されたほか、人と重機の接近する作業が減り、重機との接触災害をゼロにすることができました。さらに、ICTによる制御により施工精度が向上し、高品質な土構造物を築造することができました。ICTは施工の効率化や省人化に加え、安全・品質の向上の面からも、確かなメリットをもたらしてくれました。

工事概要

工事名称 社会資本整備総合交付金工事(坂本・改良工)
工事場所 千葉県鴨川市天津地先
発注者 千葉県
施工者 鴻池・久野特定建設工事共同企業体
工期 2019年3月~2020年8月
工事内容 工事延長 : 213.2m 盛土工  : 65,662m² 切土工  : 40,040m² 補強土壁工: 3,829m²(ジオテキスタイル: 22,082m²) 吹付工  : 2,919m² ブロック積工 : 1,062m² 改良工  : 52,500m² 側溝工  : 1,075m 軟岩破砕 : 23,200m² 軟岩分離 : 56,100m²

500号(2021年1月1日)の記事

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