技術広報誌ET

技術広報誌ET 2021年発刊号

マルチプロジェクトへの対応とICT活用による
施工管理の効率化

500号(2021年1月1日) Trip Base 道の駅プロジェクト 大阪本店 建築技術部 立野 哲也

はじめに

「Trip Base 道の駅プロジェクト」は、積水ハウスとマリオット・インターナショナルが国内の各自治体と連携し、道の駅を拠点とした「地域の知られざる魅力を渡り歩く旅」を提案する地方創生事業です。これまで"旅の通過点"だった道の駅に隣接したエリアにホテルをつくり、地域の観光資源をネットワーク化することで、地域の魅力を渡り歩く"旅の拠点"に変えていきます。これにより、全国各地で人気の道の駅を自動車やバイク、自転車などで渡り歩きながら、地域の人々とつながりを感じることを通じて旅行者の満足度を高めることを目指しています。このようなコンセプトからホテルは宿泊特化型とし、食事やお土産などは道の駅をはじめ地域のお店を利用してもらうことで、地域の人々との交流や道の駅との往来を促す設計となっています。
同プロジェクトのファーストステージとして、2020年秋以降に6府県15カ所、約1,000室の規模でロードサイド型ホテルがオープンする予定です。15カ所中、三重県の1件(写真-1、2、3)、和歌山県の2件、合計3件243室を当社が施工しています。ここでは、同時期に並行して施工することとなった3案件に対するプロジェクト管理、およびICTを活用した施工管理の効率化について紹介します。

写真-1 竣工した「三重御浜」

写真-1 竣工した「三重御浜」

写真-2 ラウンジ

写真-2 ラウンジ

写真-3 客室

写真-3 客室

工事の概要と特徴

3案件はいずれも紀伊半島南部に位置し、鉄筋コンクリート造の中層建物となっています。工事は2019年から2021年にかけて行われ、三重御浜が若干先行するものの、和歌山串本と和歌山すさみは、ほぼ同時期に工事が行われます。表-1に各工事の概要と特徴を示します。

プロジェクトチームの設置と施工管理の効率化

各ホテルの仕様はほぼ共通しているため、当社では道の駅プロジェクトチームを組織し各現場の情報を共有することで、施工図の精度を高め、安定した施工品質が確保できるように努めています。また、いずれの現場も交通不便地に位置していますが、WEBを利用した会議システムの導入によりスムーズな情報共有体制を構築し、発注者、設計・監理者、施工者が一体となることで、施設利用者に満足いただける建物の建設を目指しています。

〇Microsoft Teamsを活用した定例会議の効率化
現場が遠隔地にあることから定例会議をWEB会議とすることで、従来方法と比べ効率化が図れました。ファイル共有による情報展開や画面共有によるわかりやすいWEB会議の実施、複数人によるデータの共同編集ができるため、効率の良い議事録作成、質疑回答などの資料作成と編集が可能になりました。

〇プロジェクトチームによる現場見学会の実施
ファーストステージで建設した三重御浜を引き渡す前に、セカンドステージ担当のメンバーによる見学会を開催し、施工のポイントや検査指摘事項の共有と対策を討議することで、セカンドステージでのさらなる品質向上を目指しています(写真-4、5)。

写真-4 プロジェクトチームによる見学会

写真-4 プロジェクトチームによる見学会

写真-5 見学会後の討議状況

写真-5 見学会後の討議状況

表-1 工事の概要と特徴

スクロール
  三重御浜 和歌山串本 和歌山すさみ
工事名称 (仮称)
NTB三重御浜新築工事
(仮称)
NTB和歌山串本新築工事
(仮称)
NTB和歌山すさみ新築工事
建物名称 フェアフィールド・バイ・マリオット・三重御浜 フェアフィールド・バイ・マリオット・和歌山串本 フェアフィールド・バイ・マリオット・和歌山すさみ
所 在 地 三重県南牟婁郡御浜町大字阿田和6155番13 和歌山県東牟婁郡串本町鬮野川牛越1564番1夕特筆 和歌山県西牟婁郡周参見町江住675-1他
発   注 合同会社ニューツーリズム・トリップベース1号
設計・監理 (株)坂倉建築研究所 東京事務所
施   工 (株)鴻池組 名古屋支店 (株)鴻池組 大阪本店 (株)鴻池組 大阪本店
工   期 2019年8月~2020年7月 2019年10月~2021年2月 2019年11月~2021年4月
用   途 ホテル
構造・規模 RC造 地上3階 63室
建築面積 867.68m²
延床面積 2,546.00m²
RC造 地上7階 90室
建築面積 566.61m²
延床面積 3,685.50m²
RC造 地上7階 90室
建築面積 778.67m²
延床面積 4,992.90m²
特   徴 世界遺産、熊野古道浜街道の目の前にある「道の駅パーク七里御浜」に隣接。風光明媚な御浜を巡る旅の拠点に。紀伊山地を背に雄大な熊野灘を望み渚百選に選ばれた七里御浜海岸などの美しい自然が広がります。 溶岩が創った奇岩が海中に立ち並ぶ南紀の絶景を展望できる「道の駅橋杭岩」に隣接。本州最南端にあり太平洋に面する串本は雄大な自然に恵まれ、海と山の魅力を満喫する旅の拠点として、心地よいホテルステイを満喫できます。 訪れる人の"記憶"に残る、道の駅としてエビカニ水族館のある「道の駅すさみ」に隣接。眼前に広がる「すさみブルー」と言われる真っ青な海と空を眺めながら、宿泊に温泉に快適なホテルステイが満喫できます。
完成予想図

ICTを活用した施工・施工管理の効率化

〇ドローンによる敷地調査

海に向かって急な下り勾配となる敷地の和歌山すさみでは、ドローンよる空撮で敷地調査を行いBIMデータと連係することにより複雑な敷地形状を詳細に把握することで、仮設計画や建物計画の検討に活用しました(図-1)。

図-1 ドローン映像を活用した仮設検討例

図-1 ドローン映像を活用した仮設検討例

〇マーターポートによる空間撮影

共用部、客室部をマーターポート(高画質360度カメラ)による撮影を行うことで、現地に赴かないでも空間情報を共有でき、建物内部の状況を確認することができます(図-2)。また、タグ付け機能(図-3)を利用することで関係者が竣工検査指摘事項を閲覧・確認でき、セカンドステージでの情報活用が容易となります。

図-2 マーターポート映像による室内状況の確認

図-2 マーターポート映像による室内状況の確認

〇4D動画による客室内装施工手順の標準化

通常と異なる内装材取付に関する寸法の追い出し基準や、取付手順の要点をセカンドステージの関係者へ周知するために工程を時系列で追った4D動画を作成しました(図-4)。これにより、作業フローだけでは理解しにくい情報を伝達でき、施工品質の向上や工場出荷材の有効利用が可能となります。

図-3 タグ付け機能による指摘事項の確認

図-3 タグ付け機能による指摘事項の確認

トップ画面

トップ画面

STEP11_壁・天井軽鉄下地

STEP11_壁・天井軽鉄下地

STEP14_造作腰パネル貼り

STEP14_造作腰パネル貼り

STEP16_床フローリング貼り

STEP16_床フローリング貼り

図-4 4D動画による客室内装の施工手順

おわりに

 「Trip Base 道の駅プロジェクト」のファーストステージにおいて、当社が担当した3案件に関する取り組み状況を報告しました。同プロジェクトは今後、セカンドステージへと継続され、当社も施工を担当する予定です。新しいコンセプトの宿泊施設の展開に向けて、今後も現場力を結集することで、プロジェクト関係者や施設利用者の笑顔を最大にできるように取り組んでまいります。

500号(2021年1月1日)の記事

技術広報誌ETトップへ
技術に関するお問い合わせ
お問い合わせフォームへ