技術広報誌ET

技術広報誌ET 2020年発刊号

供用中料金所におけるPC造上屋の解体

497号(2020年4月1日) 東京トールバリアPCトールゲート改修 東京本店 工事事務所 仲井間 広二 / 建築技術部 小平 幸司

はじめに

東名高速道路の玄関口である東京料金所は、設置後約50年が経過しリフレッシュ事業が進められています(写真-1)。当工事はプレストレストコンクリート(以下PC)造のトールゲート上屋を解体し、鉄骨造のトールゲート上屋を新築するとともに、ETC普及状況を勘案したレーンの削減等を含む工事です。
この事業は利用者の安全を最優先に考え、重量構造物の潜在的リスクを完全に排除するためトールゲート上屋をリフレッシュし、長期の耐久性や維持管理性を向上させるものです。また、デザインは海外からも多くのお客さまがご利用になる東京の玄関口らしく、折り紙や陣幕的な和の雰囲気を膜の構成によって表現した案が採用されました(図-1)。ここでは、既存PC上屋解体における施工上の課題と対策について紹介します。

写真-1 既存の東京トールゲート

写真-1 既存の東京トールゲート

図-1 新東京トールゲート完成予想図

図-1 新東京トールゲート完成予想図

既存上屋の概要

既存の上屋は、プレキャストコンクリート板をPC鋼棒で緊結するポストテンション方式によるPC工法が採用され、柱間隔が広いロングスパン構造の細長い屋根となっています(図-2)。この屋根は、工場製作されたT型断面形状を持つ屋根スラブ・ブロックをゲートのスパンに応じて長軸方向にストレスを与えながら、独立柱にPC鋼棒で緊結する方法が採用されています(図-3)。

図-2 既存上屋の立面図

図-2 既存上屋の立面図

図-3 既存上屋の断面図

図-3 既存上屋の断面図

解体計画上の課題

既存上屋の解体計画立案に際して、下記の課題が挙げられました。
➀連結された上屋大梁を切断すると大梁のPC鋼棒緊張力がリリースされ、自重を支えられないことから、架構全体が崩落する可能性がある。
➁工事ステップ毎に、上り線・下り線の必要レーンを一般およびETCそれぞれに確保。
➂代替えがないため閉鎖することが出来ない大型車両用レーンにおける上屋解体工法の検討が必要。

課題の解決と施工状況

前述の課題➀および➁の解決策として、解体する上屋直下のレーンを閉鎖し、支保工により上屋自重を支持することでPC鋼線切断による架構の崩落を防止する計画としました。支保工は、当初設計ではベント柱となっていましたが、ベント柱では料金収受ブースが建つアイランドの幅に収まらないため、隣のレーンも閉鎖する必要が生じます。そのため、くさび緊結式足場部材を活用した支保工計画に変更しました(写真-2)。この支保工の採用により、さまざまなサイズの比較的軽量な足場部材を組み合わせることで、アイランド上のブースや各種計器類を避けた支保工配置が可能となりました。また、作業床兼用支保工とすることで作業性が向上し、工期を短縮することができました。支保工の組立・解体作業は、揚重機を使用せずに手作業で行えるため、交通規制するレーンを細分化することが可能となりました。

写真-2 PC上屋支持用支保工の設置状況

写真-2 PC上屋支持用支保工の設置状況

一方、一般およびETC毎の必要レーン数を確保するには、支保工を設置出来ない箇所が生じます。そのため上屋の上部に自重支持用のH形鋼を設置する箇所を設けることで、部分的に支保工を設置せずに解体ができる計画としました(写真-3)。自重支持用H形鋼と連結用金具を設置する際、車両走行レーンには通行車輌との接触防止のため建築限界範囲が設定されているため(図-2)、仮設物がその範囲を超えないよう注意しました。なお、PC上屋の解体には、ワイヤーソーと道路カッターを併用した解体工法を採用し、切断した部材は揚重機を用いて地上へ下ろしました(写真-4)。

写真-3 PC上屋支持用H形鋼の設置状況

写真-3 PC上屋支持用H形鋼の設置状況

写真-4 PC上屋切断部材の楊重状況

写真-4 PC上屋切断部材の楊重状況

課題➂の解決策として、550tオールテレーンクレーンを用いてPC上屋を吊り切りする計画としました。実施工に当たってはNEXCO中日本と綿密な協議を行い、短期間のレーン閉鎖による吊り治具設置等の準備期間を設定し、レーン閉鎖の影響を最小限とするため夜間工事としました(写真-5)。吊り切りした約42tのPC部材は高速道路上に仮置きし、運搬可能な重量・サイズに切断し搬出しました(写真-6)。

写真-5 上屋の吊り切り状況

写真-5 上屋の吊り切り状況

写真-6 解体したPC部材の仮置き状況

写真-6 解体したPC部材の仮置き状況

おわりに

2020年3月末現在、解体工事、既製PC杭工事および新築上屋の鉄骨工事が終了しました。今後屋根の膜工事および仕上げ工事を7月の竣工に向け、安全第一に進めてまいります。

工事概要

工事名称 東名高速道路 東京トールバリアPCトールゲート改修工事
工事場所 神奈川県川崎市宮前区南平台
発注 中日本高速道路(株)
設計・監理 (有)江尻建築構造設計事務所
施工 (株)鴻池組
工期 2018年12月~2020年7月
構造・規模 上  屋:[既存]PC造一部S造
     [新築]S造+膜屋根
レーン数:[既存]上り16、下り8
     [新築]上り 9、下り7
建築面積 [既存] 約1,270m2 [新築] 1,056.04m2

497号(2020年4月1日)の記事

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