技術広報誌ET

技術広報誌ET 2020年発刊号

水門工事における生産性向上への取り組み

497号(2020年4月1日) 一関遊水地舞川水門新設工事 東北支店 工事事務所 牛嶋 浩一朗

はじめに

舞川水門は、一関遊水地において北上川最下流の小堤(写真-1)に設置される水門で、その大きさは全長109m、幅45~60m、高さ23m、コンクリ-ト量2.5万㎥の巨大な構造物です(図-1)。当工事は、その巨大水門を広大な遊水地に約3年をかけて建設するものです。建設産業の働き方改革を進める上で重要課題である週休2日(4週8閉所)の実現を目標として工事を進めました。当初計画工程では週休2日を確保しながら契約工期を満足することが困難であったため、抜本的な生産性向上策により工期短縮(作業時間の短縮)を図る必要がありました。ここでは、ICTやBIM/CIMなどの新技術活用による生産性向上に関する取り組みを紹介します。

写真-1 一関遊水地全景

写真-1 一関遊水地全景

写真-2 舞川水門施工状況

写真-2 舞川水門施工状況

図-1 舞川水門姿図

図-1 舞川水門姿図

水門の役割

当水門は、中小規模の洪水位時に遊水地内への河川水流入を防止して水田などを守ります。大規模な洪水時には遊水地内に河川水を保持することで、遊水地外の市街地等を水害から守り、洪水後の北上川の水位低下と連動して水門を開き、遊水地内に溜まった水を速やかに排水します。

図-2 水門の役割(岩手河川国道事務所パンフレットより引用)

図-2 水門の役割(岩手河川国道事務所パンフレットより引用)

ICT土工による工期短縮

基礎杭打設後の掘削には、マシンコントロール(MC)バックホウを使用しました(写真-3)。杭頭へのバケット接触や過掘りがないようオペレータへのガイダンス機能(写真-4)と機械制御機能を併用することで、目印(丁張り等)が不要となり、安全で効率的な作業を行うとともに杭頭の損傷を防止することができました。MCバックホウに登録する杭頭の3次元モデルは、寸法を設計+10~20㎝にすることで、杭へのバケットの接触を防止しました(図-3)。約3万㎥の土量でしたが、約25%(15日)の工期短縮が図れました。
 築堤盛土においては、敷均しにマシンガイダンスブルドーザを、転圧にはGNSSローラを、法面整形にはマシンガイダンスバックホウを使用しました(写真-5)。これにより、敷均し、法面整形に必要な丁張りが不要となり、転圧においては工法規定(試験施工にて決定した転圧回数)により締固め管理を行うため従来の現場密度試験が不要となりました。GNSSローラにおいては転圧回数が色分けしてモニタ表示されるため、効率よく作業することができます(写真-6)。
 出来形検査においては、レーザスキャナによる三次元測量を実施し、設計モデルと比較して色分けしたヒートマップを用いて出来形合否の判定を行うため、従来の直接測定や検査時の現地確認が不要となります。

写真-3 本体掘削状況

写真-3 本体掘削状況

写真-4 ガイダンスモニタ

写真-4 ガイダンスモニタ

写真-5 築堤盛土施工状況

写真-5 築堤盛土施工状況

写真-6 GNSSローラのガイダンスモニタ

写真-6 GNSSローラのガイダンスモニタ

図-3 杭頭モデル

図-3 杭頭モデル

BIM/CIMの活用

水門構造物を対象にCIM(3次元モデル)を活用し、「工事計画の見える化(図-4)」、「過密鉄筋部の干渉チェック(図-5)」、「3次元出来形管理」、「品質管理データや出来形などの属性情報の付与」を行い、工事関係者間の情報共有を密にすることで手戻り防止を図るとともに、調書作成などの作業を省力化して施工管理の効率化を図りました。

工事計画の見える化(図-4)

工事計画の見える化(図-4)

過密鉄筋部の干渉チェック(図-5)

過密鉄筋部の干渉チェック(図-5)

ウェアラブルカメラを用いた遠隔検査

現場職員が装着したウェアラブルカメラと発注者事務所のパソコンをインターネット回線でつなぎ、音声と映像で遠隔検査を試行しました(図-6)。発注者においては検査員の移動時間短縮、受注者においてはリアルタイムに検査ができることによる待ち時間の短縮等の効果がありました。

図-6 検査・通信の仕組み

図-6 検査・通信の仕組み

Webカメラの活用

現場の四方に設置した監視構台と現場見学台にカメラ計7台(1台は録画用)を設置し、現場事務所のモニタやスマートフォンで現場全体を常時監視しました(写真-7)。受発注者双方において作業状況を確認できるため、安全・品質確保に繋がるほか、「現場移動時間の短縮」「現場美化や緊張感の維持」「ビデオによる技術継承」「盗難防止」など様々な効果がありました。

写真-7 カメラ設置全景

写真-7 カメラ設置全景

電子黒板の活用

電子黒板機能付きのタブレットにより写真撮影を行いました(写真-8、9)。写真データは、工種毎に自動で整理されます。このため、黒板持ちの相番者や、チョークによる書き込み、データの手動振り分けなどが不要となり、写真管理に係る時間を大幅に短縮しました。

写真-8 写真撮影状況

写真-8 写真撮影状況

写真-9 タブレット表示画面

写真-9 タブレット表示画面

機械式定着鉄筋、機械式継手の採用

本体構造物の鉄筋量は約2,500tあり、規格品として最大のD51が多用されていました(写真-10)。底版および壁に配置されるせん断補強筋は約550t(主にD25)でしたが、機械式定着鉄筋に変更することで、約200tの鉄筋量を低減することができました。また、D32~D51の鉄筋継手には設計から機械式継手が指定されていますが、約8,000箇所と大量にあるため、鉄筋同士の接続が容易で品質も安定したネジ節鉄筋継手を採用しました。これらの採用により配筋作業が簡素化し、約2ヵ月の工期短縮を図ることができました。

写真-10 機械式定着鉄筋・機械式継手の配置(壁部)

写真-10 機械式定着鉄筋・機械式継手の配置(壁部)

次世代足場の採用

作業足場は、従来の枠組足場(1段の高さ約1.7m)ではなく、1段の高さが1.8mのくさび式足場を採用し、足場組立解体工数を削減するとともに、作業性・安全性の向上を図りました。

写真-11 次世代足場

写真-11 次世代足場

週休2日の確保

当工事は、工期内に週休2日を達成できた場合にインセンティブが付与される受注者希望型の週休2日を推進する工事でした。実施にあたっては、週休2日の考え方や実施方法、確認方法を事前協議し、休日の工程への反映、追跡など計画的に週休2日に取り組みました(図-7)。前述の生産性向上に関する様々な取り組みを行うことで、約3カ月の工期を短縮し、この短縮した時間を休日取得に繋げながら、週休2日を確保することができました。

図-7 週休2日考え方

図-7 週休2日考え方

写真-12 完成全景

写真-12 完成全景

おわりに

生産性向上技術に関しては、今後、新技術の創出や既存技術の高度化により、時間短縮効果がさらに大きくなり、ますます建設現場の生産性は向上していくものと思われます。今回紹介した内容は、現在は広く使用されて始めています。今後も様々な生産性向上技術を積極的に取り入れ、普及させていくことで、週休2日を定着させ、建設現場が魅力ある職場となるように尽力していきます。

工事概要

工事名称 一関遊水地舞川水門新設工事
工事場所 岩手県一関市舞川
発注者 国土交通省 東北地方整備局
施工者 (株)鴻池組
工期 2017年8月~2020年3月
工事内容 水門1式(幅45~60m×長さ109m×高さ23m) *ゲートは別途工事 掘削 30,700㎥ 場所打杭 205本(φ1.2~1.5m L=16m) 遮水矢板 600枚(ハット4.5~25m) コンクリ-ト 24,951㎥   鉄筋 2,617t 埋戻し・盛土 76,000㎥  仮設工 1式

497号(2020年4月1日)の記事

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