コンクリート構造物の品質を確保するためには、初期材齢における養生が非常に重要になります。コンクリートの高品質化には、水和反応に必要な水分を供給することができる湛水養生や給水養生が最も有効とされています。しかし、コンクリートの鉛直面や下面では、スペースの確保や水の補給などの管理が負担となるため、型枠を存置する方法やシートで覆い乾燥を抑制するなどの封かん養生が一般的となっています。
そこで、鉛直面や下面のコンクリート養生を容易かつ経済的に行う方法を検討し、新しい給水型の湿潤養生シートをユニチカ(株)、(株)クレイン、および当社の3社で共同開発しました。当養生シートは、水をしみ込ませてコンクリート面に貼り付けることでコンクリート表面の水和反応を促し、緻密化することでコンクリートの中性化や塩害による劣化を抑制します。その結果、構造物の長寿命化を図ることが可能となります。
当養生シート(写真-1)は、保水性に優れるコットン系不織布(保水部)と非透水性のポリエステル製フィルムで構成され(図-1)、保水部の不織布には、あらかじめコンクリート表面の改質効果を有するケイ酸塩を含む水溶液を含浸して、乾燥させてあります。寸法は950mm×600mm、厚さ約0.55mm、重さは乾燥時で約60g、保水時で約300gであり、一人で容易に扱うことができます。
現場では、養生シートに水をしみ込ませコンクリート構造物に貼り付けるだけで、コンクリート表面に水分を供給するとともに湿潤状態を維持し続け、鉛直面や下面であっても水中養生と同等の養生効果を得ることが可能です。また、シート外面のフィルムが水分を閉じ込めるため、貼り付けた後は新たに水を供給する必要がありません。さらに、はがした後も再度転用して使用することが可能であり、使用済みシートの発生が減り、環境への負荷や経済性も考慮した製品となっています。
当養生シートの施工方法を以下に記します。
写真-2 屈曲部への施工状況
写真-3 ローラー刷毛を用いた貼り付け状況
写真-4 養生後のコンクリート面の湿潤状態
図-2~図-4に当養生シートを使用して実際に養生を行ったコンクリート試験体の物性試験結果を示します。
圧縮強度試験結果では、封かん養生よりも約10%圧縮強度が向上し、水中養生と同等の圧縮強度が得られました(図-2)。
促進中性化試験結果では、封かん養生よりも約12%中性化を抑制し、水中養生と同等の中性化抑制効果が得られる結果となりました(図-3)。
養生後のコンクリート表面の品質を評価するために透気試験(Torrent法)を行いました。透気試験とは、コンクリートの表層品質を評価する非破壊試験です(写真-5)。チャンバーをコンクリート表面に押し当て、チャンバー内を真空にし、コンクリート表面から漏れた空気の量から透気係数を測定します。漏れ出す空気量が多ければ透気係数が大きく、コンクリート表面が粗雑であるとの評価となり、漏れ出す空気量が少なければ透気係数が小さく、コンクリート表面が緻密であるとの評価となります。
透気試験結果では、封かん養生と比較し約70%、水中養生と比較し約50%透気係数が低減される結果となり、当養生シートで養生を行うことで封かん養生や水中養生よりもコンクリート表面が緻密になる結果となりました(図-4)。
また、それぞれの物性試験結果において、当養生シートを転用して使用(合計3回)しても養生効果が低下しないことが確認できました。
写真-6に封かん養生、写真-7に当養生シートでそれぞれ28日間養生したコンクリート表面のSEM(走査型電子顕微鏡)画像を示します。封かん養生したコンクリート表面では層状の水和生成物中に針状結晶を有する空隙が多数確認されました。一方、当養生シートで養生したコンクリート表面には、針状結晶を有する空隙が見られず、緻密なセメントマトリックスが形成されていることを確認できました。当養生シートで養生することでコンクリートにほどよく水分が供給され、水和反応が促進されたことにより、封かん養生よりも空隙の少ない緻密な構造になったものと考えられます。
今回開発したコンクリート湿潤養生シートは、水をしみ込ませてコンクリート面に貼り付けることで、コンクリートの耐久性が従来の封かん養生よりも優れ、水中養生と同等の養生効果が得られることを確認しています。
今後は、耐塩害性や耐凍害性などについても物性試験を実施して養生効果を確認する予定です。当養生シートが、より多くのコンクリート構造物に適用され、社会インフラの高品質化・長寿命化に繋がるよう今後も取り組んでまいります。
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当養生シートはボックスカルバートや擁壁、耐震補強工事の壁構造物やポンプ場などのコンクリートの養生に適用しました(写真-8)。28日間貼り付けた場合でもコンクリートの湿潤状態を保つことができ、転用して繰り返し使用できることも確認しました。